賀  2013年あんこの旅     ─── 糸井重里より、新年のご挨拶を添えて。
第10回 おはぎが持つ、ダイナミックレンジ。
介添人 最後に、おはぎをお持ちいたしました。
糸井 おお、きましたね、おはぎ。
‥‥あ、きみはほんとに長い時間ありがとう。
和服で疲れたことでしょう、どうぞ休憩してください。
介添人 お気遣いをありがとうございます。
それでは(去る)。
糸井 ‥‥よし。
じゃあ、最後か(ぐいっとお茶をひとくち)。

糸井 おはぎ、とは‥‥
観客A おはぎとは‥‥
糸井 ダイナミックレンジの広さです。
観客B ダイナミックレンジ!
糸井 レンジが広い広い。
きょうのこれは‥‥えーと‥‥。
観客C 「仙太郎」のおはぎです。
糸井 これは私、はじめてですね。
なんともみごとなおはぎで‥‥。
みなさん召しあがってください。
私はもう、これはこのまま持ち帰りますので。
全観客 いただきまーす。
糸井 このおはぎは比較的大きいですが、
小さめのものもあります。
それは、和菓子としてのおはぎです。
ですから和菓子屋さんにも、
小さめのおはぎが置いてある場合があります。
観客D (食べながら)では、大きめのおはぎはどこに?
糸井 それはもう、いろいろなところに。
スーパーなんかのレジに近いところ、
食パン、焼き鳥、豆腐、みたいな場所にも
ひょいっとあります。
観客E (食べながら)ありますね。
糸井 あれは意外とうまいです。
全観客 (食べながら笑う)
糸井 つまり、ご飯なんですよ。食事。
大福やらあんぱんもそうでしたけど、
それ以上におはぎは、食事なんです。
「俺は晩めしに4個食った」
っていうのが昔はほんとにありましたから。
全観客 (食べながら)へえーーー。
糸井 だから、わかりますか、そのレンジの広さ。
和菓子から主食に至るまで、
おはぎのダイナミックレンジの広さは、すごいんです。
全観客 (食べながら)なるほどー。
糸井 ‥‥おいしいですか?
全観客 おいしいです。
糸井 けっこう。
先ほど、「最中は、皮」と申し上げましたが、
おはぎも大切なのはあんこ以外の部分です。
つまり、いまみなさんがおいしく感じているのは
ご飯の部分だと思います。
観客F (食べつつ)言われてみれば‥‥。
糸井 あんこは、だいたいがおいしいですから。
差をつける部分、表現する部分はご飯なんです。
観客G (食べつつ)ほんとだ‥‥中のご飯がおいしい。
観客A (食べつつ)この味付け、なんだろう??
観客B (食べつつ)なに? このご飯の正体は??
糸井 ああ、考えすぎないでください。
「はいっ」と受けとめればいいんです。
観客C そうでした‥‥ただ受けとめる。
糸井 そうです。
なにしろそのように、おはぎは中身が大事。
はずれがあるとすれば、中身がだめな場合です。
観客D なるほど‥‥。
糸井 あとはそう、
「おはぎ」と「ぼたもち」の関係について、
やはりすこし触れておいた方がいいのでしょうね。
観客B ‥‥そのふたつは、どう違うんですか?
糸井 違いはありません。
「萩」と「牡丹」の関係なんです。
萩の季節に食べるときは、おはぎ。
牡丹の季節に食べれば、ぼたもち。
観客B へええええええええーーっ!!
糸井 (観客Bをやさしく見つめ)あんこ初心者には、
すこぶる反応がいいです。
観客B 知らなかったぁ。
糸井 まあ、とはいうものの、
「おはぎ」と言う人は
一年中「おはぎ」と言ってますから。
そういう人に向かって、
「今は、萩の季節ではないですけど?」
などというのは、ものすごく野暮なことです。
観客C それは、いい感じではないですね。
糸井 そういう理屈を言って、
おいしく食べるのをじゃましては絶対にいけません。
もしも、
どうしても言いたいのだったら、
すごく遠慮がちに言ってください。
自分が前から知ってたように言うんじゃなくて、
「ああ、そういえばなんだか‥‥
 牡丹の季節だからぼたもちとかって‥‥
 たしかだれかが言ってたなぁ‥‥」
このくらい! このくらいでお願いします。
全観客 はい。
糸井 「どうしてもひけらかしたいときには、
 私の手柄にしないで言う」
これは、大事です。
これ、カットしないで載せてください。
すごく大事です。
なぜならこれは、生きる知恵ですから。
観客D わかりました、ちゃんと載せておきます。
糸井 というわけで、
おはぎについても、これくらいにしておきましょう。
‥‥以上‥‥ということになりますかね。
観客E はい。
観客F 終了です。
観客G ありがとうございました。
糸井 みなさん、
あんこのことをわかっていただけましたか?
全観客 (うなずく)
観客A 入り口に立てた気がします。
観客B だいぶ魅了されました。
糸井 そうですか、それはよかった。
私もうれしいです。
みなさんは、途中まで笑いながら聞いていた。
でも最後のほうでは、全員が真剣になっていた。
そのことがとてもうれしいです。
観客C ほんとだ(笑)。
糸井 よかったです(笑顔)。
観客D 2013年、「ほぼ日刊イトイ新聞」は、
縁あってあんこに呼ばれましたので、
これからもちょっと応えさせていただきます。
とそんな具合で
この場を締めさせていただいてよろしいでしょうか。
糸井 いいと思います(笑顔)。
観客E あんこの特集を今後も少々、と。
糸井 いいと思います(笑顔)。
観客F あの(笑)、
いまなんだかものすごくいい笑顔なので、
記念写真を撮ってもいいですか。
糸井 (笑顔)
観客G 撮りましょう、おはぎといっしょに。
観客A では、カメラに目線をお願いしまーす。
はいっ!

観客B よっ!
観客C よっ!!
観客D 大統領!
全観客 大統領!

観客E こ、この笑顔はなかなか撮れない!(笑)
観客F こんなにカメラ目線で、しかも笑顔(笑)。
観客G 貴重、これは貴重(笑)。
観客A 本来は写真が嫌いなのに。
観客B 大好きなものといっしょだと、
人はこんなにも素直な笑顔に‥‥。

観客C いやぁ、すばらしい!
観客D OKですー、ありがとうございました!
全観客 ぱちぱちぱちぱち!(拍手喝采)
糸井 ‥‥‥‥あのね(笑ってる)。
観客E ん? なんでしょう。
糸井 いま写真を撮ってるときに、
みんなの食べかけのおはぎを見てたらね、
ぼくは発見をしてしまいました(笑)。
観客F 発見?
‥‥「仙太郎」のおはぎ、ですよね?
糸井 そう。
「仙太郎」のおはぎは、ご飯のなかに‥‥
観客G ご飯のなかに?
糸井 紫蘇(しそ)が入ってますね〜〜。
全観客 (全員が一斉におはぎを見る)
これは、紫蘇だったのかーーーー!!


(新春特別企画、2013年あんこの旅は、
 今回で終了です。
 最後までお読みくださり、ありがとうございました。
 糸井重里の、ご挨拶を兼ねての
 「あんこコンテンツ」はひとまず終わりますが、
 あんこ特集は、つづきます。
 次の企画をどうぞおたのしみに)

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ぼたもち(おはぎ)

仙太郎(全国店舗)
 定番のきなこなどのほかに季節のぼた餅があります。
 今回用意したのは最もオーソドックスな
 つぶあんを使用したもの。
 もち米の部分に細かく刻まれた紫蘇が混ざっています。
 その他、最中も有名。

2013-01-10-THU
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