| 観客Ａ |
それでは、つづきまして、
大福にいかせていただこうと思います。
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| 糸井 |
なるほど、そうきますか。
大福。
わかりました。
で、どちらの大福ですか。
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| 観客Ｂ |
「瑞穂」と、それから「群林堂」です。
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| 糸井 |
ええ、なるほど。
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| 観客Ｃ |
東京の三大大福と呼ばれているうちの、
ふたつをご用意いたしました。
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| 糸井 |
そうですか。
いいと思います（相手の目を見てきっぱりと）。
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| 観客Ｃ |
三大大福のもうひとつ、
「松島屋」の大福は残念なことに
定休日のため調達ができませんでした。
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| 糸井 |
相手は、あんこですから（毅然と）。
そういうこともあります。
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| 介添人 |
失礼いたします、大福をお持ちしました。
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| 糸井 |
ありがとう。
きみがこの役割をすることになった理由はたしか‥‥
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| 介添人 |
着物を持っていたからです。
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| 糸井 |
そうだったね、ありがとう。
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| 介添人 |
どうぞお召し上がりください（去る）。
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| 糸井 |
じゃあ、ちょっと、こう、ちぎって‥‥（食べる）。
みなさんも食べてください。
あのね、大福は‥‥うん‥‥
大福っていうのは‥‥（舌鼓）‥‥
どう言ったらいいんでしょうかね。
‥‥（飲み込む）庶民のものなんですよ。
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| 観客Ｄ |
庶民のもの。
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| 観客Ｅ |
蕎麦とか、うどんとか、
そういうものに近いところのご馳走なんです。
ですから、
何個食べたら腹一杯になるか？
というような腹もちまでも含めて、
大福の表現なんです。
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| 観客Ｅ |
大福の表現！
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| 糸井 |
そして、この、皮。
つまり、餅。
さらに、豆。
大福の皮や豆には、かるい塩っけがあります。
ですから大福のあんこというのは、
外側の味をすごくあてにしているあんこなんです。
そこがおもしろい。
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| 観客Ｆ |
なるほど‥‥（食べながら）。
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| 糸井 |
本日いただいているこのふたつの大福。
このふたつの違いについて、
すこしお話しておきましょうか。
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| 観客Ｇ |
ぜひ、お願いします。
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| 糸井 |
こっちのほう、「群林堂」ですね。
こちらのほうが、すこし野趣があるんです。
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| 全観客 |
うん、うん（食べながら）。
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| 糸井 |
味ぜんたいを濃いめにして、
わかりやすい満足感を表現しています。
豆もたくさん入っているし。
外側と内側の、両方で勝負をしてますね。
どちらも強い。
一方‥‥。
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| 観客Ａ |
「瑞穂」はどうでしょうか（食べながら）。
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| 糸井 |
「瑞穂」の大福は、
主食的な外側に対して、あっさりめのあんこです。
ここんちのあんこは、
餅と豆といっしょに食べてバランスが完成する。
で、どちらがぼくの好みかといったら‥‥
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| 全観客 |
‥‥（食べるのをやめる）‥‥。
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| 糸井 |
どちらかと言えば‥‥
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| 全観客 |
‥‥‥‥。
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| 糸井 |
「瑞穂」側なんですね。
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| 全観客 |
‥‥ほおおーーー。
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| 観客Ｂ |
あのぉ‥‥私は今日、
はじめて「群林堂」を食べたんですが‥‥
私はこっちのほうが好きかもしれません。
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| 糸井 |
わかります！ わかりますよ！
どっちも‥‥いいんだ！（苦悩の表情）
ただぼくが、
「瑞穂」をちょっとだけひいきにする理由は、
なんていうんでしょう‥‥
双子のコーラス、みたいなさ。
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| 観客Ｂ |
双子のコーラス？
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| 糸井 |
同じ種類の美意識を持ったふたりがね、
いっしょに声を合わせてる感じなんですよ。
中のあんこが、メロディを歌う。
すると外側が、
♪ワッシュワリワリってところを歌う。
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| 観客Ｂ |
ワッシュワリワリ！（笑）
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| 糸井 |
皮とお豆が、ワッシュワリワリ。
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| 全観客 |
ワッシュワリワリ！（笑）
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| 糸井 |
そう、ワッシュワリワリ。
メロディはあんこが歌うけど、
皮とお豆が、けなげに言うんです。
「私たち、ひとつのグループだもんね」
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| 全観客 |
わははははは。
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| 糸井 |
その感じがぼくは好きなんです。
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| 観客Ｃ |
「瑞穂」は、ワッシュワリワリ。
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| 糸井 |
「瑞穂」はワッシュワリワリです。
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| 観客Ｄ |
じゃあ、「群林堂」はなんでしょう‥‥？
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| 糸井 |
「群林堂」。
こっちもいいんですよ。
「群林堂」は、内側と外側、両方に主張があります。
五分と五分です。
だからこれは‥‥‥‥ケミストリー。
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| 全観客 |
わはははははは！
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| 観客Ｅ |
「群林堂」は、ケミストリー。
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| 糸井 |
両者がきわだつ、みたいな。
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| 観客Ｆ |
なるほどぉ‥‥。
ちなみに、ひとつうかがってもよろしいでしょうか。
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| 糸井 |
ええ、なんでも訊いてください。
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| 観客Ｆ |
三大大福のもうひとつ、
本日ご用意できなかった
「松島屋」の大福についてはいかがでしょう。
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| 糸井 |
それはですね‥‥
このふたつにくらべると、
たまたまぼくは食べてる回数がすくないんですよ。
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| 観客Ｆ |
はい。
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| 糸井 |
ですからいろいろ言えないのですが‥‥。
‥‥おいしさの中には、
普通のものっていうタイプの褒め方があります。
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| 観客Ｆ |
ええ。
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| 糸井 |
今朝、うちでね、
山形からいただいた柿を食べたんです。
それは、もうね、
「どっかんちの庭になってるようなおいしさだね」
っていうおいしさでした。
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| 全観客 |
ああー。
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| 糸井 |
凡庸っていう、否定的な意味じゃないですよ。
なんでもなくて、十分にゆたかでおいしくて。
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| 全観客 |
はい、はい。
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| 糸井 |
大福全体がそういうものだとも思うんですが、
「松島屋」の大福にはそういう印象が、
ぼくにはありました。
ちょっと皮が厚くなかったっけ？
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| 観客Ｇ |
そうですね、
ちょっと厚めだったような気がします。
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| 糸井 |
うん。
庭の柿の実のおいしさみたいだな、と。
そういうところを私は感じました。
‥‥お答えになりましたでしょうか。
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| 観客Ｆ |
ありがとうございました。
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| 糸井 |
どういたしまして。
‥‥ともあれ、大福は庶民の味です。
そのむかし、お殿様は食べたのかな‥‥？
大名が食べるようなときは、
「お？ こんなもの、
どれ、わしもひとつ食べてみようか」
というような感じだったんだと思います。
実（じつ）を取るようなおいしさですよね。
それが大福の特徴であり魅力です。
以上、大福の話はこのあたりで。
‥‥さて、次は？ |
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| （つづきます） |
