賀  2013年あんこの旅     ─── 糸井重里より、新年のご挨拶を添えて。
第2回 お汁粉と、私。
糸井 あんこ世界とひとつになる。
これが、あんこと私たちの関係だと思うんです。
そう考える私ですから、
あんこにおける対立は、悲しいことです。
観客A 対立、といいますと?
糸井 それはつまり、あんこについての論争です。
あんこをめぐる、争い。
全観客 ああー。
糸井 争いを見て、私はあんこのかわりに嘆きます。
‥‥なんということだ。
観客A あんこになりきっている‥‥。
観客B ‥‥我はあんこなり。
糸井 私があんこの世界にいるとき、
あんこの世界は私である。
全観客 (笑)
糸井 (観客の笑いを気にもとめず)その立場からすると、
やれ、「つぶあんこそがあんこである」とか、
「なにを言う、こしあんだけがあんこなのだ」とか、
そういう論争は私には、できません。
あんこと一体になっている人間には、
そういうことは‥‥もう言えない。
全観客 (笑)
糸井 しかし残念ながら、
そうやってあんことの関係をつくる人たちもいます。
‥‥ま、横尾忠則さん(笑)。
「つぶあん原理主義」な方です、横尾さんは。
そういう方は、いらっしゃいます。
それらはすべて、
あんこへの愛、深さゆえの争いなんです。
全観客 はい。
糸井 ただ、どうでしょう‥‥(苦悩の表情)。
‥‥そこまでもひっくるめて包み込んでしまうのが、
あんこの慈愛なんですよ。
わかりますか、
包み込むんです。争いまでをも、やさしく。
あんこは包まれる存在だとみなさん思ってますけど、
実は包む存在ですからね。
観客C ‥‥あ、それは、おはぎ。
糸井 そうそう(笑)、きみはいいことを言いました。
おはぎはあんこで包んでます。
あれはすばらしい慈愛をあらわしています。
観客D 慈愛、ですか‥‥。
糸井 自分があんこになってみればわかることです。
全観客 自分があんこに!(笑)
糸井 (観客の笑いをものともせず、真面目に)
先ほども言いましたが、恋愛と同じです。
婦人との関係と同じ。
全観客 はあー。
糸井 やはりあくまでも、あんこはエロチシズムですね。
それと‥‥そうだ、タナトスも。
エロスとタナトス。
観客E タナトス?!
糸井 タナトスは「死」の象徴ですから、
小倉山がそうですね。
すべてを眠らせようとするんです。
動から静へ引き込もうとする、あんこの世界。
全観客 ‥‥‥‥。
糸井 だからたとえば、
お汁粉を飲んでるときも、呼ばれてるんですよ。
観客G 呼びかけられてる。
糸井 お汁粉と、私。
漆黒の闇に、呼ばれる私‥‥。
おそろしささえ感じます。
そんなお汁粉の闇を、なんていうんでしょう、
曖昧にするかのように、
ゆらぎを出すために、餅が入るんです。
餅は、「性」そのものですから。
全観客 ‥‥ざわざわざわ。
糸井 もちもちするとかね。
もち肌とか。
餅は、生きるための性そのものですから。
漆黒の、その暗闇の手前にある女体です、あれは。
全観客 女体?!
観客A にょ、女体ですか。
観客B 餅が女体であるとすれば、
女性はそれをどう理解すればいいのでしょう?
糸井 だから‥‥そういうんじゃないんです。
全観客 そういうんじゃない!
糸井 男とか女とかじゃなくて、
どう言ったらわかってもらえるでしょうねぇ‥‥
ぜんぶをいったん、男性にします。
だから、「人間」は「男性名詞」です。
全観客 ‥‥‥‥。
糸井 ‥‥‥‥。
観客C ‥‥すごい発言が、いま。
糸井 俺も、いまのは微妙だと思う(笑)。
観客D 「人間」は「男性名詞」って。
観客E 女性のみなさんから怒られそうです。
観客A どうしましょう、
このくだりを記事にして伝えるのはかなり難しいです。
観客B うーーん‥‥。
糸井 だーいじょうぶ、自分でなんとかする。
全観客 おお‥‥。
糸井 ‥‥海。
海は、女性名詞ですよね?
母なる海。
観客C 「海」は「女性名詞」。
はい、それは言えると思います。
糸井 あの広大な海は、女性である。
もうほとんど地球のすべてと言ってもいいような
そんな偉大なるものが、女性である。
観客D はい。
糸井 じゃあ、私たちは、
そんなにも大きな海を
女性にすべて捧げてしまったあとで、
この世の何を「男性」と思えばよろしいのでしょう‥‥
‥‥‥‥「人間」ですよ。
全観客 おーー(笑)。
観客A これで、記事にしても大丈夫?
観客B ぎりぎりの男女平等感が出たような気がするので、
載せましょう。
糸井 ここはカットしないでください。
「人間」は「男性名詞」。
すくなくともあんこの話のあいだは
そういうことにさせてください。
観客B では、あんこの話のあいだのみ、そういうことで。
糸井 ‥‥ちなみに、余談かもしれませんが、
お汁粉ということば。
観客C はい。
糸井 最後が「こ」で終わってますよね。
「こ」を最後につけることばは、
かわいいぞっていう意味なんです。
たとえば東北弁の、
「どじょっこ」だの「ふなっこ」だの。
かわいいですね。
観客D 「馬っこ」とか。
糸井 はい、かわいいです。
その一方で、ことばの最初に「お」をつける。
これは丁寧語です。
たいせつに扱うぞっていうことです。
観客E なるほど。
糸井 お汁粉から「こ」を抜くと、
‥‥「おしる」になります。
丁寧だけど、かわいさはなくなりますね。
で、丁寧さを抜いて、かわいいだけにすると、
‥‥「しるこ」。
全観客 かわいい(笑)。
糸井 というわけで、
「きみのことを丁寧に扱うし、かわいいと思ってるよ」
っていうのが、お汁粉なんですよ。
いいですか? 復習しますよ?
「お」と「こ」で、挟まれたことば。
これは、とてもたいせつですごく愛おしいものです。
全観客 ‥‥‥‥。
糸井 ‥‥‥‥。
観客A また微妙な‥‥。
糸井 それはたとえば‥‥
観客B やめましょう! たとえばはやめましょう!
糸井 ま、ここから話を
いくらでもエロティックな方に持っていけますが、
いかないでおきます。
各自でよく考えていただければと思います。
観客C ‥‥ありがとうございました、大統領。
ある意味とても新年にふさわしいお話で。
糸井 ああ! そうかっ!!
観客D どうしました?
糸井 大統領だったことを忘れてた(笑)。
(つづきます)
2013-01-02-WED
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN