〈ほぼ日関西版〉 明るい家族相談室 たのしきかな、家族。続編

私は大学進学を機に大分県から上京しました。
いま大学4年生になり、就活をしています。
私はそのまま東京で就職しようと思っています。
母は「べつにいいんやない」と口では言っていますが、
本心ではいいと思ってないと思います。
何かあると、方言でいじめられた人の話や、
東京で廃人のようになって
田舎に帰った人の話(多分嘘)など、
「東京では悪いことしか起きない」と言わんばかりに、
LINEで東京の悪口を言ってきます。
私はひとりっ子なので、
地元に帰ってほしい親の気持ちもわかります。
でも、東京でまだまだやりたいことが私にはあります。
親から東京で就職することを応援してもらう
よい方法はないでしょうか。

(相談者:東京の悪をすべて知る母の娘)

答え
東京への偏見はいろいろあると思います。
我々の出身地である関西地方では
特に多発していますね。
かおり
そうですね。
昔、東京と大阪に何かあったのでしょうか。
独立戦争とか、ありました?
それがいま、巨人対阪神に
とってかわってるのかもしれませんし、
関西が東京に、
敵対心むき出しの理由が何かあると思います。
でも、ここで重要なのは、
敵対心が東京にはない、ということです。
無視してるのに、大阪があがいてる状態でしょう。
もともと大阪のほうが中心、という自負が
我々にあるのではなでしょうか。
かおり
大阪は首都になる候補だと思っているんですね。
このご相談の方は、
東京で就職したいので、
母に応援してほしいと書いてらっしゃいます。
かおり
ふつうに考えると、お母さんはいま、
さみしいですよね。
「さみしさ」と「心配」、
これが親という人たちの2大構成要素です。
口に出さなくとも、これを多くの親が
子に対して思っていることでしょう。
ところでこのお母さんは、
大分から1回も出たことがないのでしょうか。
そうかもしれないですね。
かおり
そういう人にとったら、東京は‥‥。
ものすごく恐いとこですよね。
かおり
テレビで知る東京は、
おもに恐いニュースばかりですよね。
繁華街ではいつも無差別殺人、痴漢は逃亡、
でも、それを信じてばかりでは、
情報操作にやられていると言わざるをえません。

私はこのたび大阪に戻りましたが、
人生の半分という長い期間、東京に住んでいました。
それなのにうちの親は、
今回東京に出張することになったらいきなり、
「気をつけろ」と言ってきました。
何を考えているのかわかりません。
東京はとにかく恐いというイメージがあるのでしょう。
東京にいたら廃人になると
お母さんは言いたいようですが‥‥。
かおり
廃人、そもそもどういう設定なんでしょうね。
麻薬でしょうか? 
「東京の冷たさにふれて傷ついて落ち込む」
ということ? それなら多少わかります。
ここに来るタクシーで、今日、
むっちゃ冷たくされましたから。
それはどういうことですか。
かおり
タクシーのシートにお尻を置いただけで
410円取られたんですよ。
えーっと、どういうことですか。
かおり
ほぼ日が引っ越したというのを忘れて、
うっかり以前のビルに行ってしまったのです。
でも、ちがうとこやとわかり、遅刻しそうだったので、
タクシーを拾って住所を言うと
「それじゃ逆方向なのでUターンしますね、
 でもここから歩いてすぐですよ」
と、Uターンしながら運転手さんが教えてくれました。
あ、それやったら降ります、と言ったら「410円」と。
腹たちますね。
かおり
腹たちます。
廃人になってもおかしくないですね。
メーターを倒すのが早すぎじゃないでしょうか。
かおり
でも、このお母さんにお教えしたいのは、
私の妹のことです。
このコンテンツの絵を描いている、私の妹。
#大木凡人 の、私の妹
妹は、東京に来てよかったと思います。
すぐに結婚して、子どももできて、明るくなって、
大木凡人さんになってもいちいち気にしません。
大阪にいたとき、妹は
いろんなことでクヨクヨしていました。
いまは「自分がしっかりせな」と思ってるみたいです。
あの妹が、あんなふうにここで人生を構築して
幸せになれたんやから、
東京は恐くないと私は言えます。

でも、よく考えたら詐欺が多いですね。
田舎から出てきた人はたいてい、
商店街でラッセン的な絵を買いますでしょ。
なんですかそれは。
かおり
みんなよく言ってますよ。
田舎から出てきたときに、
そういった作風の絵を買わされる、と。
商店街を歩いていると急に
「アートはやっぱりローン組んででも、いいものを」
みたいな説得をされるんです。
田舎の、純粋そうな子を狙っているんですね。
なぜ、絵を‥‥?
かおり
「アートに興味あるか」と訊かれて、
「ない」と答えたとします。
そうすると足元見て、
「アートを知らないのはやっぱり恥ずかしい」
というような言葉を次々浴びせます。
アート、何かそう言われたらとたんに
恥ずかしくなる人も、田舎の人やったらいます。
あとは化粧品ですね。
田舎の子は、謎の化粧品メーカーのセットを
たいてい買わされます。

アートと化粧品に気をつけていればいいかというと、
詐欺はあの手この手。
つねに新しい手口で近寄ってきますから、
注意が必要です。
東京に出てきたら、とにかく友達を作って、
話しして、詐欺の事例をできるだけ
知っておく必要がありますね。

東京は、友達がたくさんできますよ。
私のいまの大阪の友達も、
東京でできた縁がつながった人が多いです。
みんな東京でひとりでいたらさみしいし、
田舎より、友達が増えるスピードは速いです。
そんな東京で、私がいちばんよかったのは、
「世の中にはいろんな人がいる」とわかったことです。

東京は変な人がたくさんいますから、
こちらがどんなに変であっても放っておいてくれます。
何を着てても大丈夫。
恐いから関わりたくない、
という一面もあるかもしれませんが、
誰もじろじろ見たりしません。
もし田舎やったら、私はたぶん殺されてると思います。
殺されるんですか。
かおり
大阪や東京はオッケーですが、
保守的で偏見が強い地域に行くと、
私はすぐ追放されます。

友達の実家に遊びにいったときのこと。
たまたまタイミング悪く、法事が開催されていました。
そのときに私が履いていたスニーカーが、
リーボックの派手なポンプフューリーでした。
みんな「まぁすてき」とか言ってくれて、優しかった。
私も「場違いですみません」みたいなことを
いちおうは言いまして、靴を脱いであがり、
居間を通って友達の部屋に行きました。

帰りに玄関に行くと、私の靴が見当たりません。
「靴あらへん」と騒いでたら、
玄関の奥のほうに追いやられていて、
新聞紙でくるまれていました。

きっと法事でいろんな人が出入りするから、
そんな「人とちがう靴」は
見られたらあかんもんやったんです。
隠されていたと知ったときは、ショックでした。

あんなに「すてき」と言ってたのに、
みんなだまって軽蔑してた。
「私はこの村に住んだら多分、
翌朝に水死体であがってまうな」
と思いました。
それからは「ホトケになってる村」と名づけ、
自分に言い聞かせました。
そういうハプニングが、東京は少ないと思います。
そうですね。
かおり
東京は何でもありです。
見たことないものばかりです。
だから、自由になれると思います。
お母さんも東京に遊びに来たらいいと思う。
逆に、大分のよさももっとわかるようになるでしょう。

すでに東京に4年いて、そのままいたいということは、
娘さんは東京が楽しいのですね。
しかもまだやりたいことがあると
書いてらっしゃいます。
その「やりたいこと」や「いたい理由」を
親に言ったら、喜んでくれるかもしれませんね。
安心させるのは難しいことかもしれないけど、
大学で見送ってくれたお母さんです、
引き続き応援してくれると思います。

子どもが「楽しい」と言っていて
「やりたいことがある」状態、これは
親にとってはそうとううれしいはずやから。
そうですよね。
加えて、お母さんを安心させるにはやっぱり、
東京は安心で楽しいとこだと、
案内してあげるといいかもしれない。
かおり
どこがいいのかな、東京は。
いまはやっぱりスカイツリーでしょうか。
ジェームス・ブラウン(叔母)は、
私の母や姉妹といっしょに東京に来たとき、
スカイツリーを見て、めっちゃほめてました。
宿泊したホテルに戻って横になりながら
「東京、やりよる」と、
ジェームス・ブラウンは言ってました。
理由はもちろん「ハルカスよりでかいから」です。

だいたい大阪は、
あべのハルカスを持ちあげすぎやと思います。
あべのハルカス。
かおり
知りませんか、あべのハルカス。
ジェームス・ブラウンは
ハルカスがいちばんすごいと思いこんでいて、
「井の中の蛙やった」
「大阪のメディアに騙されてた」
と、ホテルのベッドで
パンパンにむくませた足を投げ出して
つぶやいていました。
スカイツリーはたしかに宇宙規模ですよね。
あれにはなかなかかなわないかも。
でも、私は以前、出張で
大阪の千日前に行って驚きました。
看板が極彩色で、街にいる人たちも、
ちょっと見たことないような感じでした。
そのあと車で故郷の京都に行ったんですが、
まるで色のないぬけがらのように感じましたよ。
あのときは「大阪、やりよる」と思いました。
かおり
ああ、そうやね。
あのあたりはちょっとカオスな、
アジアな感じがしますね。
なんて言えばいいやろう、あの感じ‥‥。
あの、めちゃくちゃで、いろんな人がいる、
あの感じ‥‥。
かおり
あ! そうや。
なんですか。
かおり
いっそ大分から、大阪の千日前や通天閣経由で
スカイツリーに行けばいいんとちゃう?
女装したおじいさんとか、
ベビーカーに双子のお人形を、
大事そうにのせたおじいさんとか
いろんなアナーキーな人がいますから。
そうか。ちょっとしたフックですね。
かおり
いきなり東京に行くと、刺激が強いから、
大阪をかまして行きましょう。
お母さん。
まず、大阪でハルカスを見てください。
そのあとのスカイツリーは、格別です。

大阪を見ておくと、
いろんな意味で意識が崩壊します。
「あれは何やったんやろう?」
ということになって東京を見て、
お母さんも応援する側にまわってくれるでしょう。
ああ、いいですね。
それでこそほぼ日関西版。
それではかおりさん、
今日のまとめをお願いします。
かおり
はい、わかりました。
いちど大阪に行くというアドバイスは
関西版ぽくて好きです。
今日のまとめ

大阪を経由してから、
東京へ行け。