まるで、NASAのようなメディアになりたい?







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 まぁ座れや、っていうくらいの感じで。

(※以下のテキストは、糸井重里の発言をもとに、
  「ほぼ日」の木村=メリー=俊介が書きました)


「読む時間そのもの」をサービスしたい。

ほぼ日刊イトイ新聞は、3年3か月前に生まれました。
新聞というタイトルがついていますが、
どちらかといえば、雑誌やテレビや、なかまどうしの雑談、
といったコンテンツが次々に登場し、読まれてきました。
ひょっとしたら、出版社の企画会議では、
ボツになりそうな企画ばかりだったかもしれません。
ただ、それが「活字を読む」習慣のない人まで巻き込んで、
成長してきたのでした。
現在では、1日40万件の
アクセスを数えるほどになりました。

「ほぼ日刊イトイ新聞」に届けられる、たくさんの
メールを読む中で、こんなことを思うようになりました。

ふつうに暮らしている人がものを読む動機は、
「知識やコツや、何かカタチのあるものを得るため」
というところよりは、おそらく、
「読む時間そのものを、楽しくすごすため」
にあるのかもしれないなあ、ということです。

……つまり、本を読む目的は、
がまんして読んだあとに得られる利益ではなく、
「1ページずつ読んでいる瞬間の、
 わくわくした気持ち」に、あるのではないでしょうか?

テレビでスポーツを観戦することや、
ともだちと雑談することと、おなじように、
みんなはテキストを読みたがっている。

そう気づいたことを最初のきっかけに、
バーチャルなメディア「ほぼ日刊イトイ新聞」と、
リアルな本の読まれ方を模索していた「朝日出版社」は、
一緒に組んで単行本のシリーズを出してゆきたいと、
強く思うようになりました。

本は、「ご立派の世界」から逃げ出したい。

意識しているかどうかはわかりませんが、
これまでの「よい出版企画」と言われるものには、
どうしても
「ためになるものを作らないといけない」
「しっかりした、後世に残るものを作らないといけない」
などといった、自分を不自由にしかねないような気負いが、
あったように思うのです。

外国にいても、
日本人観光客が横にいる時には
なんだか英語をしゃべりにくいような、
そんな気持ちって、あるじゃないですか。
自分の英語がダメな以上に、
「コイツに笑われるかもしれない」
というところで、変なプライドが出ちゃう……。

出版でも、学術系の文章でも、そうですよね。
隣のヤツに笑われないために、専門用語を多用したり、
その世界でいいとされることのみをやったりするけれども、
そういう、相互に笑いあう関係って、
苦しきことのみ多かりきになってしまいそうです。
もっと本には、
「無邪気な活力」があるはずだと思うのです。
「アイツ、バカだ」ってわかられちゃったって、
思いきりのいいことをやれたほうが、
気持ちがいいじゃないですか。

「いい本とは何か」「売れる本とは、どういうものか」
について考えることと、
「これは興味深いから、みんなに知らせたい」
「おもしろいから、読んでみてくれよ」という気持ちは、
もう、分業してしまえばいいんじゃないか?!

「本学(本を研究すること)」と、
「本をつくる・売ること」とは、別にしたほうがいい。

ぼくらは、とにかく後者の場所に立って、
直接、どんどん市場に配っていく。
読まれたら、うれしい。読まれなかったら、失敗。
そういう速度のある問いかけを、
やっていこうぜ、と考えたのです。
これは、インターネットの世界では経験ずみですが、
出版界では、やや冒険的なことなのだとは思います。

インターネットの世界では、
作家の知名度や、書かれたものの完成度ではなく、
そのテキストがあたえてくれた何か、だけが価値です。
本は、もっと出しやすいものになるほうがいい。
ぼくらはそう判断しました。

「クチで書き、耳で読む」

「立派な本ではないものを作るなら、
 ハンディ版だとか中学生もわかるとか、
 内容を薄めていく方向に行くんでしょう?」
そう思う人も、いるのかもしれません。
そして、そういったシリーズは、
今までに、たくさん出版されてきました。

ほぼ日ブックスの目指すものは、
その方向とは、かなりちがっています。
たとえば、刊行予定のなかにある
『経済はミステリー』
『ポンペイに学べ』などのテーマは
証券業界出身の著者と、
古代ローマ史が専門の著者ですから、
どちらかと言うと、
とっつきにくいものと考えられるかもしれません。
ふたつとも、決して難しい話を
薄めた本では、ありません。

だけど、おもしろいんです。
楽しんで読めると思います。
理解しさえすればおもしろいことを、
理解できるように、じっくり語る……
このシリーズには、そういう大前提があるからです。

ものすごい難しい本しか書かない人に
「つまり、それって、こういうことですか?」
と直接丁寧に聞いてみると、刺激に満ちた言葉で
しゃべってくれる時があるのですが、
そういう、直に話を聞いているような本も、
このシリーズでは、お届けするつもりです。

かつて聖書がそうであったように、まるで、
「クチで書き、耳で読む」ようなものを作りたいのです。

当初は、このシリーズの名称を
オーラル・ブックスとかに
しようかと考えたぐらいでして……。
「そうするとキャッチフレーズは
 『おもしろさを、しゃぶりつくせ』ですか、ワハハハ」
という意見を前に、さすがに、やめましたけど。

ふだん暮らしていると、
いわゆる受験勉強のようなやりかたで勉強するよりも、
だいたい、耳学問で誰かから何かを聞くように、
ものごとを、吸収していくじゃないですか。
門前の小僧は、なぜ習わぬ教を読むのか?
それは、耳から知恵や知識を吸い込んでいるからでしょう。

難しいと思われていたようなことでも、
遠慮せずにどんどん語っていく。
しかし、本嫌いの青年にも楽しめるような・・・
というと難しそうですが、
これは「ほぼ日刊イトイ新聞」や、
朝日出版社刊の『悪人正機』
(吉本隆明に糸井重里が訊くというスタイル)などで、
既に実験してある成功をみているものです。

「耳で読む本」として、
ほんとうに難しいところは
飛ばして読まれても、
それはそれでいいのだと考えています。
目で読んでも、みんな、どうせ飛ばすんですから。

知識の分量でなく、考え方が伝わりますように。

昔から。よくこんなことが言われています。

「子どもに魚をとって与えるのは、ダメなことだ。
 子どもには、釣り針と釣り糸を与えるべきなんだ。
 それで魚釣りを覚えれば、子どもはこれから、
 いくらでも魚を取っていくことができるのだから」

ほぼ日ブックスは、そのような釣り針や釣り糸を
提供するようなものでも、ありたいと思っています。

知恵や方法を直接わたそうとするのではなく、
読んだ人が、その人の発想を理解して、
あとは勝手に魚を釣りにいけるような
「釣り針のような本」でありたいと考えています。


「ふつうに暮らしているんだけど、
 捨て鉢にになっていない人たちが
 自立して生きていくために必要な、
 釣り針やなんかを配ります」
なんてことを、どんどんやっていきたいのです。
おなじノウハウ本を作るにしても、
「ほぼ日ブックス」の場合には、
きっと、雑談や寄り道まじりの、
「いかにも学んだ」と思えないような、
ゆったりとした本になるでしょう。
そしたら、受験勉強の逆みたいな学び方が、
できると思うのです。

とにかく、ソフトを作る人を大事にしたい。

「本が売れなくなってきた」と言われますが、
本の市場は、たしかにまだあるはずです。
それに、本に関わる人や、本のことが気になる人、
本を考えたい人、本を作りたい人のエネルギー総体は、
他のどの産業に比べても大きいとさえ言えます。

おおげさな話をしてしまいますが、
グーテンベルクが活字印刷機を作って、
本がたくさん出るようになった時のソフトって、
「聖書」だったですよね。

あれは、ソフトとしての聖書を、
もっとひろく伝えたくてたまらないという、
聖書の側の気持ちが、
印刷機を要求したと言いますか……。

キリスト教の側に、
印刷機を要求するような状況があって、
それを具現化した結果が
聖書の普及だと考えると、
「本という媒体は、伝えたい情報があって
 はじめて重要になるものだ」
ということが、身にしみて、感じられます。

ほぼ日ブックスも、
まずは「伝えたいことやおもしろいことの発見」
を、先に持っていたいのです。
「本というメディアがあるんだけど、そこで何をしよう」
じゃなくて、「これを本にしたい」で動きたい。

「本にまつわるシステムが本を作るのではなく、
 ソフトウェアや、
 ソフトウェアを作る人が、
 ものを動かす中心なんだ」
という考えで本を作りたいのです。
「ほぼ日ブックス」というメディアを提示したら、
あちこちにいる著者から、
ここでこそ何かを伝えたい、と思ってもらえるようになる。
そんな、「場」になればいいなぁと思っています。

現在はまだ検討中ですが、もしかしたら
著者印税も、このシリーズでは、
一般の書籍では妥当だとされている
「定価の10%」よりも、多少、高めに
できないものかと考えています。
むろん、難しいことだとはわかっていますが、
ソフトの作り手が潤うしくみを追求することも、
「ほぼ日ブックス」がやりたい仕事です。

そういう実験の場として、
本そのものの「材料費」や「流通」の問題も、
大きな見直し事項として考えていきます。
造本のコストをもうしわけないけれど、下げます。
週刊誌のように読み終わったら捨ててもいい
ぐらいのスタイルを、
「ほぼ日ブックス」は、取ろうと考えています。
本へのフェティシズムは、もちろんぼくらにもあるのですが、
ここでも「立派」から逸脱しようと思います。

 ※紙の質などに関しては
  「読み捨て感覚のつくりの本」ですが、
  デザインや装丁や挿し絵といった
  クリエイティブな要素に関しては、
  かなり「リッチ」にやっていきます。
  ほぼ日ブックス第1弾で言いますと、
  表紙には、ヒロミックスさんや佐内正史さん、
  タナカノリユキさんなどが協力してくれています。
  挿し絵は、しりあがり寿さんや、朝倉世界一さん!
  ブックス全体のアートディレクターは秋山具義さんです。

クリエイティブの品質はあげて、コストは下げる。
無謀と笑われそうですが、とにかくはじめてみます。
すっごくおしゃれな本になります。
もう、極端に言えば、読まないけど買いたい本になるくらい。

いっそ、NASAになりたい!

本のマーケットは、
「たった2兆円」と言われています。

つまり、そんなに大きくお金が動かないから、
経済的には、たいしたこたぁないじゃないか、
という見方が、されているわけですね。
確かに、そのとおりです。
たいしたこたぁない市場です。

事業としても、諸経費が
定価の7割をとってしまうということで、
実業家なら、避けてとおるぐらいの事業でしょう。

でも、
「ソフトウェア中心の本づくり」
という面で本のマーケットを見てみると、
こんなムダでソンだらけの本の産業に、
どんなにすばらしいクリエイティビティと
潜在的な「ものを生む力」が隠れているかが、
よくわかるのです。

出版業界というのは、
日本の知が集約されているムダな産業……。
そう考えると、2兆円だと言われるサイズの市場ですが、
潜在的なポテンシャルは、
20兆円にも200兆円にも見えるんです。

とにかくなんだか、すっごくもったいない。
あきらめて、「商売になる本だけ考えよう」なんて言うには、
この業界は可能性がありすぎると思うのです。

「あそこに行けば、何かがある」
「あそこでやってるような仕事をしたいんだ」
ほぼ日ブックスが、そう言われるメディアに、
なっていけばいいなあとも、考えています。

最後に、思い切って、
かなりおおげさな話をしてみましょうか。

……ほぼ日ブックスは、
本のかたちでおさめることを、
ゴールにしていないんです。

「本ができてよかったね」とか、
「いい本になったよ」ということをゴールにするのは、
実は、出版の世界の限界なのではないかと考えるからです。
そんなに閉じる必要はないんじゃないか?

「急に変なことを言っている」
と思われるかもしれませんが、
NASA(アメリカ航空宇宙局)のような動きをしたいんですよ。

NASAの目的って、月に行くこととか宇宙を調べるとか、
もう、夢みたいなホラみたいなものですよね。
で、何をしたのかっていうと、
なんとなく「月に着陸して旗を立てた」ってことが、
ひとつのクライマックスで、
なにか現実的なお役に立ったという印象はない。
だけれども、はっきり言えるのは、
「NASAがなければありえなかったことが、山ほどある」
ということなのです。

NASAでの研究を手がかりに
科学的にわかったことは、ありすぎます。
大道芸のような商品販売でさえも、
「奥さん、これはナサの研究で開発されたんですよ」
なんて宣伝文句があるくらい、
たくさんの副産物を生んでいる。
しかも、NASAから他の分野への人材流出で、
多くの分野が革命的に変化をしていたりもするわけです。
(たとえばNASAから証券会社に転職をした人たちによって、
 金融界の取引が画期的に変わったという)

つまり、NASAというのは、
ひとつの変化しつながり動くメディアだったのです。

「何かを生み出す供給源になっていて、
 しかも、何を生み出すか見当がつかない」

「だけど、その場がなければ生まれないものを
 たくさん生んでいる、可能性に満ちた場所」

そんな、NASAのような場所に、
ほぼ日ブックスも、なったらいいなあと考えています。
ホラなんですけどね。
出版を閉じた体系で考えないようにしたいということで、
つい思いついてしまった大風呂敷です。
でも、
「出版とか本とかの文脈だけでものを考えないで、
 新しいクリエイティブの場をつくりたい」
という点では、
この「ほぼ日ブックス」も、
現在インターネットで展開中の
「ほぼ日刊イトイ新聞」も、同じ思いなのです。

このシリーズを機に、みなさんに、
よりおもしろくて刺激的な場所を
提供できることを目指しています。

この「ほぼ日ブックス」プランのすべてが、
まだ見ぬおおぜいの方々の
ご協力なしには実現できないものです。
さまざまなかたちで、
ご協力いただけたらとてもうれしいです。

  
「ほぼ日ブックスを、もっと知りたい」
 「各種媒体で紹介したい」

  とお考えくださるメディア関係者の方は、
  メールの件名(Subject:)に「ブックス」と書いて、
  postman@1101.com
  わたくしメリー木村宛てにお気軽にお送りくださいね。








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2001-10-04-THU


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