カレーの恩返し
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新宿二丁目のほがらかな人々。
SPECIAL!

マンハッタンに
「カレーの恩返し」を
かけちゃいましょ!
その2 
チキンとビーフと
ハンバーガーのはなし。
ジョージ
そうねぇ‥‥例えば、
ジャークチキンのお店が来てるけど、
たしかにジャークチキンは昔からあったの。
なんでかって言うと、ニューヨーカーにとって
一番エキゾチックな場所はカリブ海だから。
ハイダウェイに行きましょう、
っていうと、カリブなのね。
だからカリブの食べ物は大好き。
“シェフ"/
カリブってかつてはヨーロッパの植民地ですね。
ジョージ
そうそうそう。
“シェフ"/
だから熱帯のエキゾチシズムのなかに
ヨーロッパ的な華やかさがあるんですよね。
ジャークチキンはその「ごった煮感」があって
めちゃくちゃ美味しいですよね。
ジョージ
うーん、そうだよね。
確か、マイアミに、ジャークチキンで、
ものすごく稼いだお店があって、
そこは「ヘミングウェイ由来」って言ってるの。
“シェフ"/
ヘミングウェイとジャマイカって
関係ありましたっけ?!
あちこちに住んだ人ですけど、
カリブ海は、キーウェストと、キューバのはず。
ジョージ
ざっくり「カリブ的」ってことなんじゃない?
アメリカ人がヘミングウェイという人間を
透かして見た先にあるのが、
鉄砲かついでボートへ乗って、
ジャングルに向かっていく、
その入口としてのキューバっていうのがあったりして、
それが葉巻に結び付いていったりとかね。
アラミスの香水にも、
昔は世界中で売っていたけれども、
今アメリカでしか売っていない、
男性用の「ハバナ」ってあるもんね。
あれはハバナ葉巻の香りをイメージさせた香り。
そういう文化が大好きなのよ。

ヘミングウェイにしても、
マチスモがまずあって、ヨーロッパ由来で、
じゃあアメリカに居着いたかというと、
冒険家としてヨーロッパやカリブを渡り歩き。
サヴェージ(野蛮なもの)を
アメリカの文化の中に放り込んでいった人よね。
アメリカの音楽の歴史の中でも一時期、
キューバとか南米とかっていうのが
ズドーンと入った時期があったでしょう?
それと多分絶妙に結びついた「食」が、
ジャークチキンとフローズンダイキリ、
フローズンマルガリータあたり。
そのマイアミのお店はね、
それで一つの食文化を作った店でもあるの。
もっともその周辺ってそんなのしか売ってないんだけど。
そういう気分が今のニューヨークにもあるのかしら?
もっともヘミングウェイは最終的にあの人、
“ニューヨークの人”だったとも言えるかもよ。
ベネチアのハリーズ・バーでも
ニューヨークで何が起こってるか知りたくて
ニューヨークタイムズとか
ウォールストリートジャーナルばっかり
読んでたっていう人だから。
東京が好きで東京でしか生きていけないはずなのに、
例えば京都に住んじゃう人とか、そんな感じ?
“シェフ"/
やや話がそれましたが、それでジャークチキン。
鶏肉を好んで食べるというの傾向は、
最近の流れのひとつにあるんですか?
ジョージ
そもそも、を言うと、
ジャークチキンに限りなく近い料理が
テキサスの料理にあるのよ。
ほんとにスパイシーな鶏の料理。
で、ね、むかしのアメリカにおいて、
肉のヒエラルキーっていうのがあって、
アングロサクソンのお金持ちは
ビーフを好んで食べるんだけれど、
移民の人たちは豚が好きなのね。
で、鶏は、アングロサクソンに言わせたら、
当時は黒人が好んで食べるもの、
つまり自分たちの食べ物ではないくらいの
思いだったのよ。
だから、フライドチキン屋さんなんて、
アメリカの白人社会においては、
突拍子もないものだったはずなの。
それを事業化したのがカーネルサンダースおじさんで、
彼がわざわざ自分自身をキャラクターにして
人形を店頭に置いたのは、
「ここは私たちのための場所ですよ」っていう表現。
田中
ほーっ! そういう背景が!
“シェフ"/
そんな流れで考えると、
ジャークチキンがニューヨークで定着したというのも
とても興味深いですねえ‥‥。
あの、「オーガニック」という言葉が
今回のフェアにも多数見られますし、
このごろさかんに聞きますが、
オーガニックに対しての意識って、
どうなんでしょう?
やっぱりニューヨーカーは、意識が高いのかな。
たとえば「オーガニックビーフ」。
ジョージ
うーん、人それぞれにオーガニックのとらえかたと、
オーガニックに対する関心の向きかたが違うのね。
昔からアメリカ人って
「極端な食」が大好きな人たちだけれど、
ベジタリアンの人たちも、
じゃあ野菜をとっていれば健康かっていえば、
決してそういうわけでもないと気付くわけ。
「すべてのものを体にいい状態でとっていきましょう」
ってなると、オーガニックっていうのが
一つの指標になるわけ。

ただ、オーガニックの中で、
野菜がオーガニックというのは
もう当たり前になってしまったもので、
それではどうにも差別化ができなくて、
行き着くところは、アメリカ人にとっての主食、
つまりビーフを、いかにオーガニックに
近づけていくかっていうことになって。
これは20年くらい前からかな、一つのブームなの。
そして究極のオーガニックは
穀物ではなくて、草を食べた牛肉、
グラスフェッド(grass fed beef)ということになるのね。
地域地域によって牧草の味も香りも違うから産地別。

ニューヨークに昔あったステーキ屋さんでは、
一番最初に青汁を飲ませたのよ。
牛さんが食べた草の青汁。
飲み比べさせてくれるんだけど、何種類か飲むと、
みんな味が違うのがわかるの。
で、この草を食べて育った牛さんのお肉が
これですよっていうふうに出てくるの。
そのくらい、アメリカ人っていうのは、
牛を健康な状態で食べたい。
だからオーガニックビーフなのね。
で、究極のオーガニックビーフはグラスフェッド。
ふふふ、伊勢丹さんで聞いてみたら?
(ちょっと意地悪ふうに)
「すいませーん、この牛さんって、
 何を食べて育ったんですかぁ?」
“シェフ"/
意地悪しちゃダメです! でも、なるほど、
今、グラスフェッドじゃないとちょっと、
って感じなんでしょうね、お肉の業界も。
ジョージ
オーガニックのコーンを食べさせる所もあるんだけど、
そもそもコーンを食べた段階で、ダメだって言われるの。
“シェフ"/
サラダなんかもそうですか?
ハンバーガー屋さんだけどサラダやシェイクが充実、
っていうお店があります。
ジョージ
そこね。基本的に、
「ハンバーガー屋さんにサラダはいらない」
っていうのが昔からの考えなのよ。
田中
ん?!
ジョージ
何故かというと、ハンバーガーというのは、
焼いたパティとバンズの間に
サラダをはさんで食べるからハンバーガーなのであって、
なのに、何でサラダを別に売るの?
っていうのがハンバーガー屋さんの考えなのね。
レタス、トマト、オニオンでしょう。
これアメリカ人大好きだから!
横にフレンチフライがつけば、
ごはんにたくあんにみそ汁よ。
大好きなものがすべて口の中に入るの。

でもそのうちね、ハンバーガーが美味しいお店の
レタスはうまい、トマトもうまい、
だったらそれだけ食べさせてくれると
もっとうれしいじゃない?
っていうんで、ハンバーガー屋さんは
ハンバーガーの中の具材をサラダにして売り始めたの。
それがファミレスの、デニーズの原型みたいに
なるんだけどね。
“シェフ"/
なるほど!
チョップドサラダのお店というのもありますが、
流行りがあるんですね、サラダにも。
ジョージ
バリバリ食べるのが好きだったのね、
昔のアメリカ人ってね。
でもバリバリ食べると、お腹以前の問題として、
アゴを満足させるために食事をしているんじゃないか、
っていうのがあって。野菜の種類もたくさんとれない。
食品というのは、特に野菜は量をとることよりも、
多様なものを組み合わせてとるほうが、
体にいいんだよっていうことで、
チョップドサラダっていうのは、ブームにはなった。
昔、アメリカに行くとサラダバーばっかりだったけど、
サラダバーで自分がとったやつを持ってって、
「チョップしてください」っていうと、
すぐに切ってくれる専門店が流行ったの。
ただ、チョップドサラダにすると、
彼ら、ドレッシングを大量に入れるのよね。
まるで飲むように食べるの。
びっくりしたぁ。
でもいまはナチュラル志向だから、
そういうことではないはずだと思うけど。

それから、シェイクだけど、
なんでシェイクをアメリカ人は好きなのか。
シェイクってアイスクリームとミルクで作るでしょ?
国土が広いから、新鮮なミルクが
手に入らない場所もあるの。内陸のほうに行くと。
“シェフ"/
牛もいないみたいな土地が?
ジョージ
そう。周辺に牛さんが多い所は、
飲めるのよ新鮮なやつが。
でも周りに牛もなにもいない土地もあるし、
あるいはニューヨークみたいに
牛さんの産地が遠く離れてる所で、
牛乳は新鮮じゃなかったの。
だから牛乳は火をとおして飲むものであった。
そんななか、「フレッシュミルク売ってます」
っていうふうに書いてある店があれば、
これは一生懸命、流通に気づかって、
生のまま飲めるミルクがうちにはありますよという
とっても強いアピールだったの。
日本でいうところの、産地直産の
「活きてる魚が泳いでます」っていう居酒屋と同じ。
なのでもう誇らしく生のミルクは飲めるんだけど、
アメリカ人にしてみると、
生のミルクをごくごく飲むよりも、
アイスクリームと一緒に混ぜて
ミルクシェイクにしたほうが美味しいぞ、
ということになったわけ。
だから美味しいミルクシェイクがあるということは、
生のミルクを取り寄せられるだけ流通に力を入れて、
食品に対する鮮度保持をしっかりしてます、
っていうお店なの。
そういうお店は、当然、
レタスもトマトも同じように美味しいんです、
というわけ。
だからサラダとシェイク。
“シェフ"/
そういうことなんですね。
ジョージ
つまり、サイドメニューのサラダやシェイクが
充実しているということは、
ぐるっと回って、
ちゃんとハンバーガーが美味しいですよ、
ということの裏返しの表現になるの。
田中
そういうことかぁ。
ジョージ
フレンチフライもそうよ。
“シェフ"/
フライドポテト、アメリカ人、好きですよね!
ヨーロッパの人も好きですけれど。
あ、みんな好きですね。
ジョージ
大好きよー。
だって、アメリカの根幹を為しているのは、
英国からやってきた移民の人たちでしょう?
イギリス行ったことある?
おイモさんが主食だっていうくらい、好きよ。
例えば、ケネディ大統領の一家はそもそも
アイルランドからアメリカにやってきたわけだけれど、
どうしても来なくちゃいけなかった理由が、
イモの飢饉の年があって、
食えなくなったからと言われてるんだもの。
“シェフ"/
そうでしたっけ。
ジョージ
カトリックへの迫害という背景と同時に、
飢饉があったのよ。
「イモ飢饉」っていうのは、日本における
「米飢饉」と同じで、そういう人にとって、
「イモ」ってすごい執着心を持つ食べものなのよ。
だから、アメリカ人にとって美味しいフレンチフライは、
日本人にとって美味しいおむすびと一緒!
田中
おぉ!
“シェフ"/
いいですね。
ジョージ
鶏のからあげの横に、
美味しいおむすびがついてるように、
ハンバーガーにフレンチフライ。
でもね、何が悲しいってね、
やっぱりアメリカ人ってどっか心の奥底に、
自分たちはフレンチフライを食べてるんだけど、
あくまで添え物として食べてるんじゃないかと、
そういう気持ちもあるのね。
これほどフレンチフライに対して
愛情を注いでいたにもかかわらず、
アメリカ人はフレンチフライの専門店を
作ることはなかったんだよねっていう、
猛烈な反省をした時期があって。
それが15年ぐらい前かな。
やっぱり、日本でも新しいことで
小金稼いでやろうと思うと海外に行くでしょう?
ニューヨークの人も、
ちょこっとヨーロッパ行っちゃうの。
ベルギーにフレンチフライの専門店があって、
「これだよ、おれたちアメリカ人はイモが好きなんだから
 これやろうよ!」っていうんで、
いきなり5番街だとかタイムズスクエアの近所だとかに
店ポンポンと作って大ブレークさせた人がいた。
今回、いわゆる添え物ではない、
あくまでそれを食べるための、
フレンチフライのお店が来るけど、
そういう感覚なんじゃないかな。
“シェフ"/
イタリアに、街にフレンチフライ屋さんができ始めて、
「アムステルダムから来ました」みたいな感じでした。
ジョージ
そうそうそう。ヨーロッパで
「アメリカから来ました」っていうと、
みんな弾き飛ばされちゃうから。
スターバックスと同じで。
(つづきまーす。)
2016-05-26-THU