「仕事!』とは?
18 和菓子職人 日菓 内田美奈子さん 杉山早陽子さん 日菓のプロフィールはこちら
photo::荒牧耕司
第1回 四季を、練り込むもの。
── おふたりの作品を拝見して
「和菓子って、こんなにも自由なんだ!」
と思いました。
内田 ありがとうございます(笑)。
杉山 たしかに、和菓子の世界って
ちょっとかたくるしいようなイメージが
ありますものね。
── とくに心に残った作品を挙げますと
まず、月面に人類の偉大な一歩が刻まれた
「アポロ」という黄色いお菓子。
アポロ(こなし製) 撮影:新津保建秀
内田 はい。
── あと、黄緑色した、オニのツノのやつ。
杉山 「鬼のあたま」ですね。
鬼のあたま(きんとん製) 撮影:新津保建秀
── それと、白い透明な寒天の上に
真っ赤な丸い玉がポッカリ浮かんでる‥‥。
内田 はい、「初日の出」。
初日の出(こなし、錦玉製) 撮影:新津保建秀
── とかとか、それ以外にもたくさん、
「まじまじと見ちゃう」お菓子ばかりで、
かわいいな、おもしろいなあと。

ああいうデザインって
どういうふうに、考えてるんですか?
杉山 いつも「ネタ帳」を持ち歩いてるんです。
── あ、見たいです。
杉山 ええと、これなんですけど‥‥。

よさそうなイメージが思い浮かんだら、
書き留めたりとかしています。
── へぇー‥‥おもしろーい。

あと、日菓さんのお菓子をはじめて見たとき、
かたちだけじゃなくて
「色づかい」も素敵だなって思ったんですが、
この時点では「線画」なんですね。
杉山 はい、でも、自分のなかでは決まっています。

他の人にイメージを伝えたりするときは、
絵に色をつけることもあります。
── 和菓子全般に言えることかもしれませんが
日菓さんの作品には
あまり濃い色って、使われてないんですね。
杉山 そうですね。
外国のキャンディみたいに濃い色は、あまり。
── それはやはり「和菓子」だから?
内田 ええ、やっぱり伝統的な「和菓子」の範疇に
収まるものでないと。
杉山 そうですね。

これまで、先輩がたに教わってきたことから
逸脱しないようには気をつけています。
── それは、なぜですか?

日菓さんのデザインには新鮮味がありますし、
従来の和菓子の概念をくつがえす、
思い切った色づかいもできると思うのですが。
内田 たぶん、それだと「安直」だと思います。
── ああ‥‥なるほど。

見た目は「新しい」んだけれど、
お菓子の製法や素材、色の染め方については
伝統に基礎を置いているからこそ、
おもしろいなって思うのかもしれないですね。
杉山 それに、和菓子づくりに関しては
私たち、まだまだ修行中の身ですので。
内田 ご存知かもしれませんが、
和菓子には
「定番の意匠」というのが、あるんです。
── つまり、どの和菓子屋さんもつくるような?
内田 そうです。

そういう「伝統的な意匠」って
昔の人の「日常の風景」だったりするんです。
杉山 たとえば「つつじのお菓子」が出てきたら
「ああ、岩根山のつつじだ」みたいな、
当時の人にとっては
言わなくてもわかるモチーフだったんです。
── へー‥‥。
杉山 つまり、その時代その時代の人びとが
「ふだん目にするもの」を
お菓子のデザインに落としてきたんですね。

だから、そういう意味では、
私たちも、やっていることは同じなんです。
── そうか、なるほど。

たとえば「シュノーケルのお菓子」というのは
現代の日菓が目にしたものを、かたちにしてる。
杉山 ですから、方法論としては
とくに変わったことをしているってわけでは
ないのかなあと思ってます。
── 定番の意匠があるということは
和菓子には
あるていどの「型」が、あるんですか?
杉山 はい、個々のお菓子について言えば
「木型」があるものも、当然ありますし‥‥。
── ええ、ええ。
杉山 先ほどお話に出た「岩根つつじ」なんかは
季節になると、
どこのお菓子屋さんも作るお菓子です。
── あ、つまり「時期的な型」が。
内田 形は店によって微妙にちがいますし、
「きんとん」の種類もそれぞれなんですけど、
菓銘つまりお菓子の名前については
どこでも同じ「岩根つつじ」で、並ぶんです。
── 「味」については、どう考えていますか?
杉山 色についての考えかたと同じです。

これまで学んできた素材の中から
このデザインには
何がふさわしいだろうと選びます。
── ここでも「新しい味」というより‥‥。
杉山 昔からある和菓子の素材や味、ですね。
そのおいしさを
知っていただきたいなあと、思うので。
内田 洋の素材を用いて、
新しい和菓子の味を追求してるお店もあって、
それはそれで
おいしいなとも思うんですけど、
自分たちは
昔ながらの和菓子でやってきましたから。
杉山 ですから、デザインを考えたあとには、
このお菓子には寒天が合うのか、
おまんじゅうみたいなものがふさわしいのか、
そういうふうに考えていきます。
── じゃあ、日菓さんの和菓子って、
食べてみると「スタンダード」というか、
昔ながらの味がするわけですね。
内田 はい、します(笑)。
── ちなみに「初日の出」の
上に乗っている赤い玉って何なんですか?
杉山 「こなし」です。
── こなし。
内田 白あんに小麦粉などを混ぜたあとに
蒸し上げて練ったもの、です。

そこに、赤い色をつけているんです。
── あんなに、綺麗な色になるんですか。
杉山 なるんです。
── オニのモジャモジャ頭も
すごく綺麗なミントグリーンだったし、
和菓子の色って
こんなにも美しかったんだってことに、
はずかしながら
日菓さんの作品を見て初めて気づきました。
杉山 あのグリーンも
変わったことをしているわけじゃなくって、
どこの和菓子屋さんでもやってる
伝統的な染色法。

ただ昔は、
もっと色を濃くつけていた、という話も
聞いたことがあります。
── あ、そうなんですか。
杉山 昔は、電気がなかったり、
部屋の日当たりも、今より悪かったようで。

ですから、現代よりも「暗い風景」の中に
置くことになるので、
お菓子の色も、濃くつけていたとかいないとか。
── おもしろいですね。
杉山 時代を経て、生活の中に光があふれてくると
和菓子の色も
だんだん薄くなっていった‥‥というような。
── はー‥‥、和菓子というのは
風景のなかに置かれたときの「見栄え」にも
配慮する食べもの、なんですね。
内田 和菓子って、四季を練り込むものなので‥‥。
── 四季を、練り込む。
内田 私たちは、あの5センチ四方のなかに
季節ごとの風とか、薫りたつような雰囲気を
練り込むような気持ちで作っているんです。
── ええ、なるほど。
内田 それらが、そのお菓子の名前とあいまって、
食べた人の頭のなかに
ぱあっと、情景として浮かんでくる。

そこが、和菓子のおもしろさだと思います。
赤い糸(きんとん製) 撮影:新津保建秀
<つづきます>
2013-11-06-WED
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かわいくて、くすっと笑えます。
『日菓のしごと 京の和菓子帖』


2006年の活動開始以来、
おふたりがこつこつ作りためた和菓子作品、
約80点を収蔵。
かわいくて、くすっと笑える作品ばかりで
なんだか、ずっと見ていたい感じ。
そして「どんな味がするんだろう?」って
味わってみたくなります。
それぞれの作品には
ふたりからのコメントがつけられていて、
その文章を読むとまた
「なるほど、
 そういう意味だったのね~」と腑に落ちたり。
透きとおるように綺麗な写真は
写真家の新津保建秀さんが撮影されたそう。
写真集として眺めても
目玉がわくわくよろこぶ一冊だと思います。

『日菓のしごと 京の和菓子帖』(青幻舎)
 アマゾンでのおもとめはこちら。

もくじ
第1回 四季を、練り込むもの。 2013-11-06-WED
第2回 「おもしろい」と、言われたい。 2013-11-07-THU
第3回 和菓子は、たのしい。 2013-11-08-FRI

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