人生の３分の１は、ふとんの中。1/3LIFE

──

お風呂やお灸、寝具などの工夫をしても、
眠れない日が多いわけですか。

菊地

そうですね。
すぐに眠れないのは、
やっぱり、台本があるからなんです。

──

先ほどおっしゃっていた、
お子さんが寝てからの時間ですね。

菊地

昔は自分の時間を自由に使えたから、
いつ台本を覚えてもよかったけど、
いまは子どもが寝てからの時間しかないので。

──

ほんとうに大変なお仕事です。

菊地

いえ、「自分の時間がない」ことは、
子どもがいる親はみんな同じなので。
使える時間が減っただけじゃなくて、
歳を重ねるにつれて、
覚えが悪くなってくるんです。

──

そうなんですか。

菊地

はい。
長さにもよりますけど、
何日もかけて、
ひとつの台本を覚えなきゃいけなくて。

──

「今日はここからここまで」と、
すこしずつ覚えていく感じで。

菊地

というか、
私はちょっと中途半端な状態で
終わらせるようにしています。

──

中途半端に覚える。

菊地

池谷裕二先生の本にも書いてあったのですが、
作業を中途半端な状態で終わらせると
寝ているあいだに頭のなかで分析して、
定着させてくれるみたいなんです。

※池谷裕二先生
ほぼ日に何度も登場してくださっている
脳のスペシャリストです。
糸井重里との対談は多数。
「ねむり」についてはこちらをぜひ。

──

ああ、そのお話、
池谷先生からうかがったことがあります。

菊地

寝ることによって定着させて、
翌朝、子どもを送る車の中で
復習するんです。
私の場合は、だいたい１ページくらいに対して
一晩の睡眠が必要だと気がつきました。
だから10ページあったら、
十夜かけて定着させていく。
持久戦です。

──

それは、役者さんたちのなかでは
一般的なメソッドなんですか？　

菊地

みなさんどうしてるかわかりませんが、
すくなくとも私は睡眠を合間に挟まないと
ぜったいに頭に入らないですね。

──

覚えが悪くなったとおっしゃいましたが、
以前は違う覚え方をしていたのでしょうか？　

菊地

若いころは、台本をもらってすぐにオーディション、
みたいなこともあったんですけど、
瞬発力でガーッと覚えていました。
そうすると、
終わったらまったく頭に残らないんですよ。

──

一夜漬けの勉強みたいな感じですね。

菊地

ほんとうにそんな感じです。
セリフって、自分の心身になじませて、
はじめて演技に乗せられるものだと思います。
だから私にとって、
演技と密接に結びつく睡眠は
とても大切なものなんです。

──

だからこそ、
「もっといい眠りを」と願うわけですね。

菊地

そうですね。
ただその願いがプレッシャーになって
寝つきが悪くなっている‥‥
ということもあるかもしれないです。

──

なるほど‥‥。
台本を読んだ直後に眠ると
見る夢に影響があったりしますか？　

菊地

いえ、その台本とまったく関係ない夢を
見ることのほうが多いですね。

──

役どころを夢の中に引きずることはない。

菊地

あんまりないです。
どちらかというと、
「セリフが出てこない！」とか、
「寝坊して現場に遅れる！」とか、
そういうシーンを夢で見たりします（笑）。
みなさんもそういうことありますよね？　

──

ありますあります（笑）。

菊地

寝る前にそんなことを思って緊張すると、
なかなか眠れなかったりしますよね。

──

します。
考えないようにしようと思えば思うほど‥‥

菊地

考えちゃって眠れない（笑）。

──

はい（笑）。
ちなみに、
台本を覚えなくてもいいような
期間もあるのでしょうか？　

菊地

それが、最近はあんまりないんですよ。
私は長いことずっと暇な女優だったんです。
１本ちゃんと終わらせてから、
次の作品に向かうような感じでした。
でも子どもが園に入ってからは、
ありがたいことに
お仕事を立て続けにいただけていて。

──

じゃあほんとうに毎晩、深夜に台本を。

菊地

あ、でも今年のお正月は
すこし台本から離れられたんです。
お灸をして、いい匂いをかいで、
ぬいぐるみを抱いて。
ちょっとテントサウナも借りてみたりして。
そうしたら、もう、絶好調に寝れました。

──

よかったです。
思いっきりリラックスできて。

菊地

ただ、お正月休みが明けた撮影初日、
頭がうまく回らないというか、
パフォーマンスがストンと落ちたんです。
ほんとにセリフが出てこなくなっちゃって。

──

落ち着きすぎてもダメということでしょうか。

菊地

そうかもしれないです。
私の場合は、ある意味、
ずっと駆け足でやっているほうが、
仕事にはいいと思うんですよね。

──

寝不足なくらいがいい、と。
映画をたのしみにする側としては心配です‥‥。

菊地

ありがとうございます（笑）、そうですね、
あんまり寝不足だと、
それはそれでパフォーマンスが下がりますし。
だからいいところを
狙っていかなきゃいけないんですけど、
その「いいところ」が、
まったくつかめないんです。

──

眠りは、むずかしいですね。

菊地

むずかしいですよね。
でも大切なことだから、
これからも考え続けたいですし、
もっとうまく眠りと付き合いたいと思っています。

（菊地凛子さんの眠りのお話、終わります）