YOKOO LIFE ヨコオライフ

横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。

芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。

では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。

過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。

▶︎横尾忠則さんプロフィール

第8回 絵は、本業ではない。
糸井
横尾さんは装丁のお仕事も
たくさんなさってますよね。
横尾
そうね。なんていうのかな、
絵は、本業という感じはしないわけよ。
絵でメシ食ってないから。
糸井
えっ?
横尾
もしも絵が全部売れて、
経済生活のすべてができるんだったら、
絵は本業と言えるんだろうけどね。
だからぼくは、
絵が本業とは言えないです。
糸井
知らなかった。
横尾
だって、描いてるうちは
どれが売れるのか
全くわからないからさ。
しかし、デザインの場合は100パーセント、
買い手がつくでしょう?
糸井
デザインは誰かに頼まれてやりますからね。
横尾
それはもう、はっきりと、
ビジネスですよ。
絵の場合、ビジネスじゃないです。
糸井
はい、なるほど。
横尾
だけどね、絵だって、
たまにはオファーがあるんですよ。
「肖像画を描いてください」なんて
言ってもらえることもあるから、
それはビジネスだったりします。
糸井
ああ、そういうこともあるんですね。
横尾
だけど、そのときは、
そんなには力を入れて描かないようにしてるの。
力を入れちゃうと、たぶん
頼んでくれた人が、嫌がるから。
糸井
わかる、わかる。
横尾
なるべく力を抜くようにして、
誰が描いたかわかんないような、
その人に似ている絵を描きます。
それが結局、いちばん喜んでくれるよ。
ホント、そうなのよ。
糸井
だけどそのほかは、仕事じゃない絵を
描いてらっしゃるわけですよね。
その絵は、通常、アトリエにたまっていくんですか?
横尾
うん、たまっていきます。
時間が経って、展覧会などで発表したときに、
「買いたい」という人が出てくるかもしれない。
ま、出てこないことのほうが多いです。
買う人のスピードに追っつかないぐらい
たくさん描いてるから。
糸井
とにかく横尾さんは、作ってますからね。
横尾
買う人のスピードなんて、ないも同然だよ。
描くほうはスピードですよ。
糸井
買い手というのは、
美術館がメインになるんですか。
横尾
一般の方に絵そのものが売れるということは、
ほとんどないなぁ。
でもときどき、展示を見て、
「ここにあるのは大きすぎるから、
こういう感じの絵を
小さいサイズで描いてくれますか?」
と言われることもあります。
そういうこともあって、
ぼくの反復作品は増えていくわけ。
糸井
そうか、そうか。
横尾さんは以前、
反復をテーマにした展覧会をやりましたよね。
反復をおもしろがっているようにも思いましたが。
横尾
反復で数が増えていくおもしろさはありますよ。
ひとつの絵で
7~8点描いてるのもあるんじゃないかな。
糸井
版画で刷っているわけじゃなくて、
ひとつずつ0から描いてるんですよね。
横尾
うん。
糸井
そういうことをやってる画家は、
歴史的に、いるんですか?
横尾
例えば、モネ。
モネなんか、ルーアンの教会や、
女の人が傘をさして堤防の上に立ってるやつとか、
同じ絵をけっこう描いてるんじゃないかな。
ぼくは人からの要請で描く場合もあるけれども、
同じテーマでもう1回描いてみたい気持ちはわかる。
誰だって、自分の作品の系列に
入ってないようなものは、
なるべくやりたくないわけよ。
糸井
でも、横尾さんはいつも新しいことを
やってるじゃないですか。
横尾
新しいことを考えるのは好きなんだけど、
それと同時に、いつもどこかで
努力しないことを考えてるわけ。
努力しない努力論って、あるじゃないですか。
糸井
ものすごく難しいけど、わかる気はします。
横尾
みんなが努力をしているけれども、
ぼくは、できれば努力したくない。
努力しないで成功した人は、いっぱいいます。
アンディ・ウォーホールなんて、
あんまり努力してないでしょ。
糸井
歌手が、新曲ばかり出すようになっているけど、
ときどき昔の歌をうたうこと、ありますよね。
お客はそれを喜んだりするし、もしかしたら、
古い歌から見つかる何かがあるかもしれない。
その歌に、何かがまだまだたっぷりあるんです。
反復はそのこととなんだか似ている気がします。
横尾
うん、そうね。
歌の場合にはなんだっけ? 
リメイクじゃなくて、なんだっけ?
糸井
リバイバル?
横尾
リバイバルっていうんだっけ?
糸井
リミックス?
横尾
いや、そんな難しい言葉じゃない、
もっと簡単なやつでさ。
糸井
カバー?
横尾
カバーか。カバーだ。
糸井
カバーでいいですか? セルフカバー?
横尾
そうね。
美術界はカバーなんていわないだろうけど、
やってることはカバーみたいなもんです。
自分のカバーをやることもあるし、
誰かをカバーする場合もあります。
糸井
ああ、そうですね。
横尾さんは両方、やってらっしゃいます。
横尾
絵は、いってみれば全部が未完成です。
どっかで手放さないと、終わらない。
だからぼくは、
一生のうちに一点の絵だけを
毎日描き続けるのも、
おもしろいと思う。
今日と昨日と明日の絵が変わるでしょ? 
それを写真だけで記録しとくの。
糸井
それはおもしろいでしょうね。
横尾
キャンバスを買うお金がなかったら、
さらにいいよね。
(日曜日につづきます)
2017-09-21-THU