YOKOO LIFE ヨコオライフ

横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。

芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。

では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。

過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。

▶︎横尾忠則さんプロフィール

第9回 絵画との関わり。
糸井
横尾さんの絵はいま、
神戸の横尾忠則現代美術館に
たくさん収蔵されているんですよね。
横尾
あそこにある絵は、寄贈と寄託、両方なんです。
「なんとなく」で寄贈してるから、
正確な点数はわからないけど、
200点くらいは寄贈なのかな?
あとの絵は寄託です。つまり、預けてるわけ。
糸井
預けている絵と寄贈の絵は、何か違いがあるんですか?
横尾
寄託作品は、売り買いが自由にできるんです。
もし誰かが欲しいと言った場合、自由に動かせる。
美術館にあげてしまったやつを
売るわけにはいかないからさ。
あとは、作品の中に、
「これに手を加えるとおもしろいかな」
という絵があって、
それは一応寄託にしてる。
けれども、
いつか手を入れるだろうなと思っているだけで、
結局、手を入れないまま死んじゃうかもわかんない。
時間ないし、何もできないからさ。
最近は、人が死ぬのが早いでしょ。
糸井
だけど、絵描きさんって
けっこう長生きですよね。
横尾
どっちかっていうとね。
糸井
それはやっぱり、好きなことをやっているからですか?
横尾
あんまり社会的なことに興味を持たないからじゃない? 
外に興味を持つと、
煩わしいことと関わらなきゃいけないから。
糸井
ああ、そうですね。
横尾
最初から政治家だったり、最初から企業家なら、
それが商売だからいいと思う。
煩わしいことやったって、
ストレスにもならないだろうけど、
クリエイターはダメだね。
矛盾しちゃうわけ。
糸井
芸術家は、社会に関わらないほうが、
長く生きるにはいい、と。
横尾
うん。
絵描きさんで長生きしてる人はみんな、
世の中にぜんぜん興味持ってないもんね。
ジョン・レノンみたいに、
世界を変えようとか、ああいうふうになると、
病気で死ななくっても、
そういう状況を作っちゃうわけよね。
アンディ・ウォーホールでさえ、
そういう状況を作ってしまった。
糸井
そうですね。
社会があってこそ意味がある、というような方向に
行きたい気持ちもあるでしょうけど。
横尾
そうだよねぇ。
(ヨーゼフ)ボイスっていう、
現代美術家がいるでしょ。
ボイスも政治に興味を持ったり、
緑の党を作ったり、
なんやかんやして、
65ぐらいで死んでるわけですよ。
糸井
そうか‥‥。
横尾
平山郁夫さんだって、
長生きしたほうだとは思うけど、
東山魁夷に比べたらずっと短い。
東山魁夷は、ものごとを考えてない。
もし平山さんが、根っからの政治家だったら、
もっと長生きできたと思う。
糸井
そうすると、流れ的には、
横尾さんは長生き派になりますね。
横尾
そういうふうになりたいと思っているんだけれども、
学問や世の中に対する興味関心が、
やっぱり頭の中にありますね。
だけどそれを行動に移してどうこうすることは、
まずないです。
それでよかったと思ってる。
ぼくはだいたい、虚弱体質に生まれてるから。
糸井
横尾さんはいつも、
それをずいぶん強調なさいますよね。
横尾
虚弱体質だと、自分でわかるもん。
糸井
この旺盛な創作の群れを見ても‥‥?
横尾
旺盛な時期は3年ほど前に終わったよ。
旺盛にやると、いまは
命を落としちゃうなと思う。
糸井
いやぁ、そうでしょうか。
横尾
だっていまは、
自分よりちっちゃい絵ばっかり描いてるんだよ。
小さい絵は、自分の範疇で操作できるんです。
自分より大きくなっちゃうと、
絵のほうに操作されてしまって、ちょっとヤバい。
けれども、大きい絵がまだ描けるか、
ちょっと試したくって、
やってみたくなることはあります。
それは色気としてある。
糸井
横尾さんが、誰かの絵を買うことって、
ありますよね?
横尾
いろんな人の絵を買いましたよ。
でもそれが‥‥、
絵を買った日は寝れないんだよ。
糸井
寝られないですか。
横尾
何日も寝られない。
寝られないからトイレに行って、
買った絵のある部屋に入って、電気つけて
ジーッと2時間ぐらい見て、また寝るんだけど、
やっぱりもう一回見に行こう、とか、やっちゃう。
絵を買ってしまうとそんなことばっかりやるわけ。
糸井
その怖さ、想像はしたことがあります。
ぼくも多少のお金を出して買ったことはありますが、
それはおもに版画だったんですよ。
横尾
版画はね。
糸井
そう、違いますよね。
横尾
あれはね、インテリアにできる。
糸井
それから、デヴィット・リンチ監督が描いた絵も
うちの事務所に飾ってあります。
それは、リンチが映画監督だという
安心感があるんですよ。
横尾
そうね。やっぱり映画のほうに命かけてるから。
糸井
その怖さがない、というか。
横尾
ある人が描いた絵を、
家の中で所有しているというだけで、
自分の人生──人生っていったらおおげさだけど、
生活や意識に食い込まれるんですよ。
作品がまるで自分の一部のような気がしてくるんです。
絵を投資の対象にしてる人は別だけどね。
糸井
投資の人はもう、
絵の世界にあんまりいないんでしょう?
横尾
いや、いるいる。
日本だと、ほとんどがコレクターですよ。
(月曜日につづきます)
2017-09-24-SUN