第1回 衝撃の「出なかった理由」。


── 驚きました。

単行本化にあたって
ストーリーを「大幅に描き変える」とは。
ラヂヲ やりますよ。やってやりますよ。
── 物語全体のボリュームなどは‥‥。
ラヂヲ 描き下ろし部分も入れるつもりなので。
── つまり長くなる、と。
ラヂヲ ラストも変わると思う。
── ‥‥え。
ラヂヲ ラストも変わると思う。
── 「病室から遠くを見つめる清水さんの瞳に
 巨大キノコが小さく映り込んでいる」
という、
あの、極めて筆圧の高いラストも、変更に?
ラヂヲ たぶん。
── はー‥‥。
ラヂヲ ぜんぜんちがう話になったりして。
── いや、そこが変わったら、
ほとんど別の物語になってしまいそうです。
ラヂヲ いきなりネコが出ちゃったりして。
1コマ目から、いきなり。
── ‥‥いつ描くんですか、それは。
ラヂヲ ぼちぼち、はじめないとなと思ってる。

だって、俺がやらないと
他の誰もやってくれないんですよ。
── それは‥‥そうでしょうね。
ラヂヲ 誰かが代わりに描いてくれればいいのに。
── それ、吉田戦車さんとの対談のときにも
おっしゃってましたよね。
ラヂヲ そうだっけ。
── 戦車先生も、速攻「無理です」と言ってました。
ラヂヲ まあ、
人のハンバーガーを途中から食う
みたいなのはイヤだよね。
── ははは、たしかに。
ピクルスが半分になってるとかイヤです。

でも、単行本化のときに手直しするって、
よくあることなんですか?
ラヂヲ まあ、あることなんじゃないですかね。
オレは、はじめてだけど。

そもそも連載が終わっちゃったら
ぜんぜん興味なくなるんで、自分の作品。
── それは、そのとき描いている作品が
すべてだということですか?
ラヂヲ というか、基本的にオレは
絵を描くのがキライなんですよ。
── マンガ家なのに‥‥。
ラヂヲ 絵を描くのはキライです。
これだけは、言っときますけど。

だから手直しとか、もってのほか。
── では、マンガ家の何がおもしろくて
やってらっしゃるのですか?
ラヂヲ ネタ考えるのが好きなんですよ。
── はああ、なるほど!
ラヂヲ ネタを考え終わったら
もう、ギャグは8割がた終わってるから。
── ははあー‥‥。

先生が「大喜利王」と称される理由が
今、稲妻のようにわかりました。

ただ、「ネタを考える」というだけでは
お金が入ってこないですね。マンガにしないと。
ラヂヲ そこが大きな問題です。
── ちなみに
絵は、もともとお上手だったんですか?
ラヂヲ いえ。
── でも、最終回の清水さんのカットなど
迫力があって‥‥すごーくお上手ですよね。
ラヂヲ 20年やってますから。
── そうか、つまり積み重ねの賜物であると。
ラヂヲ 10年くらい続けたら、
人間、
たいがいのことはうまくなるもんです。
── おお、太字にしたい言葉が出ました!

同じようなことを
吉本隆明さんもおっしゃってますよね。

「十年間、毎日ずうっとやって
 もしそれでモノにならなかったら、
 俺の首やるよ」と。
ラヂヲ だから、マンガ家になりたいのに
絵がうまくないからといって
まだ、あきらめるのはやいと思います。

上手くなりたいと
まったく思わずにやってきたオレでも
こうして
多少は上手くなりましたから。
── 今の言葉には、強く勇気づけられます。
ラヂヲ でもね、吉本さんの言葉じゃないけど、
やっぱり、絵のうまい人って
毎日毎日、描いているらしいんですよ。

なんか、聞くところによるとね。
── 先生は、描いてないんですか。
ラヂヲ 描いてないですよ。
── そこはもう、キッパリと。
ラヂヲ 描いてません。

まあ、オレの場合、絵を描く時間よりも
ネタ考える時間を増やしたほうが
絶対、おもしろいものになるわけなので。
── ご自身としても
あれこれネタを練っている時間のほうが
お好きなんですものね。
ラヂヲ どんなに絵がうまくたって
ネタがおもしろくなかったら、ダメです。
── でも、毎週とどく原稿を拝見しながら
「ラヂヲ先生は
 本当にやりたいことやってるんだなぁ!」
と感服しておりました。
ラヂヲ ええ、それはそうです。

本当に好き勝手やらせてもらえたので
ありがたかったですね。
── では、マンガのコンセプトじたいは
最後までブレることなく?
ラヂヲ そうですね‥‥そういうのは
あまりなかったんですが
「しっとりした感じ」にしようかなあとは
考えていたのでね。

はしゃいでない‥‥というかな。
── 小津映画のような。
ラヂヲ そうそう‥‥ってよく言いすぎですけど
まあ、
固定カメラで動きのない感じ、みたいな。
── 直木賞というより
芥川賞の小説みたいなものですかね。
ラヂヲ ただ、本当に初期のころには
ふたりの男女が
ずっとドライブしてるだけのマンガ

を考えたりしてました。
── へぇー‥‥。
ラヂヲ 険しい山道を、オープンカーで。
── ‥‥そのシーンが、ずっと続く?
ラヂヲ そう。

ぎゅるぎゅるぎゅる、
ぎゅるぎゅるぎゅる
とかって言って。
── はー‥‥。
ラヂヲ えんえん峠を攻め続けるマンガ。
── 新しすぎます。
ラヂヲ ふたりのセリフもほとんどなくて
たまに女の人が
「飛ばしすぎじゃない?」
ぐらいしか言わないの。
── それはそれで、見てみたかったです。
読んで、どんな気分になるのか‥‥。
ラヂヲ 想像つかないよね。
── でも単行本化、本当に楽しみにしてます。

「ほぼ日」の連載とくらべて
どこが変わったんだろう‥‥みたいな。
ラヂヲ そう言っていただけると、やる気も出ます。
── 念のためお聞きしますが、
タイトルは『ネコが出ますよ。』のまま?
ラヂヲ それは、たぶん、そうでしょう。
── なるほど、わかりました。
発売の際には、ぜひ教えてください。
ラヂヲ そりゃ言いますよ!
  <つづきます>


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2013-03-28-THU



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