POSTER 11 & 12  1981年 生活の、同級生  1982年 HEALTHY SEXY ことし一年、使うことが多くなる言葉です。

生活の、同級生

私たちの生活だって、ま、それは学校の一種であり、
学ぶことはいっぱいある。
そして、先生もいるし、上級生もいる。
そういう目で隣を見ると、あ、うちの夫と私は
「同級生かもしれない」という広告ですね。
お買い物だって、いままでは奥さまが一人でやるもの、
と思われていましたが、しだいに、
ご主人と二人でお店へやってくるケースが増えてきました。
年を追って強くなっていくこの同級生感覚に、
どう対応していくか。
それに答えていくのはイセタンの仕事です。

(文:土屋耕一
 伊勢丹社内報 1997年2月号より)

ほぼ日 これが1981年ですね。
西武百貨店は
「不思議、大好き。」の年です。
マツヤマ クリスタル族の頃ですよね。
田中康夫さんの『なんとなく、クリスタル』。
徳光 前年の「女の記録は‥‥」の流れで、
自立する女性っていうか、
生活の自立っていう意味じゃなくてね、
精神的に自立していく女性を応援する、
そんなキャンペーンですね。
ものを選ぶこともそうだし、
男性との付き合い方もそうだし、と。
‥‥でも、なんで、こんなのやったんだろう?
80年代の最初の頃の百貨店って、
数字としては売れてたんだけど、
なにしろ、何もしなくても、売れてたんですよ。
伊勢丹
宣伝部
この時、徳光さん、
「なんだかピンとこない」って
おっしゃってました。
徳光 言ってた、俺?
伊勢丹
宣伝部
はい。この頃、迷ってたんです。
それがキャンペーンにも、出ていた。
徳光 あぁ、そうだね。
だから、僕も、印象が薄いんです。
ほぼ日 迷ってる時代、一方で、
西武がドーンと来てる時代。
徳光 そう。「不思議、大好き。」なんて、
すごいなぁと思ったんです。
その辺は、土屋さんは、よくわかってて。
「も・め・ん・と・木」の時とかもそうでしたが、
「みんな、いいから、肩張らないで、意地張らないで、
 いいから、いいから。
 無理したって、しょうがないよ」
という感じで。
だから、ある意味じゃ、
いち広告のディレクターというより、
その企業がどういうふうに進んでいくべきか、
みたいなことを、必死で考えてくれる方でしたよね。

HEALTHY SEXY ことし一年、使うことが多くなる言葉です。

目をひらくような
美麗なモード写真はここにはありません。
でも、これも立派な「ファッションの広告」です。
健康なセクシー感が、
その年のファッションを語る上での
たいせつなキーワードであることを言っているのですね。
これは、イセタンのコンセプトを
伝えようとしている広告なのです。
ファッションを、見た目のスタイリングの部分だけで
語ろうとするのはまちがいである、
という主張が出ていると思います。
洋服やモデルが登場してしまうと、
かえって、ファッションが
語りにくくなることもあるのです。

(文:土屋耕一
 伊勢丹社内報 1997年3月号より)

ほぼ日 これが最後の1枚です。
百貨店の広告に「SEXY」という横文字があったら、
ドキッとしちゃいますね。
伊勢丹
宣伝部
当時の宣伝部長が、
「これだけは大変だった」って言ってました。
『SEXY』っていう言葉を、百貨店が使うことは、
いったいどうなんだ、っていうのを、
宣伝部長と社長と土屋さんで、
どれだけ論議したかって。
「でも、出した」って言ってました。
徳光 この広告、写真すらないんです。
マツヤマ シンプルだけど、
当時は、すごく衝撃的だったんでしょうね。
ほぼ日 82年。西武百貨店は「おいしい生活。」の年です。
徳光 だったよね。負けてるね。
やっぱり、負けてる。
きっとね、僕は、土屋さんは、
伊勢丹対西武のことも考えてたけど、
やっぱり、次の新しいコピーライターが
出てきたと思ったんだと感じます。
この後くらいかな、
「もうそろそろ、僕は、この仕事はやらない」
って言いだしたんです。
で、眞木準さんを連れてきた。
博報堂を辞めた、おもしろいやつがいるからって。
それから、伊勢丹は、しばらく、
眞木準さんと、10年くらい組むことになるんです。
で、眞木さんは、必ず、土屋さんに相談に行くわけ。
「困った時の土屋耕一」というか(笑)。
マツヤマ 私が土屋さんのところにいた時には、
もうメインのキャンペーン自体は
やられていなくて、
少し引いたところでのお仕事をされていました。
ただ本当に、いろいろなご相談を
伊勢丹さんから受けていらっしゃったように
記憶しています。
徳光 いろんなことを、陰でやってくださっていました。
その引いた後に、
最初に話した、伊勢丹の、
企業理念を作られたんですよ。
ほぼ日 「毎日が、あたらしい。ファッションの伊勢丹」
徳光 これがすごい。それまでの広告もすべて、
この企業理念につながっている。
これに従ってるんですよ。
この企業理念については、
ちゃんとした本にして、社員は全員持ってます。
伊勢丹
宣伝部
土屋さんが装丁デザインもしたんです。
徳光 で、しばらくは、キャンペーンも全部やめて、
「毎日が、あたらしい。ファッションの伊勢丹」
で進むんです。
「企業理念っていうことを、
 社員1人1人が共有すると、
 会社っていうのは強くなるんだよ」と。
「毎日が、あたらしい。ファッションの伊勢丹」
って、どういう意味かっていうと、
「ファッションっていうのは、腐り物だ」と。
「旬だ」と。
「洋服だけじゃなくても、食べ物でも何でも旬がある。
 だから、腐らせちゃいけないということを、
 毎日、みんな、社員1人1人が、
 本気でその日のことを思わないと、
 すぐ商品っていうのは腐っちゃうんだよ」と。
そのためには、ダサいことやっちゃいかんわけです。
土屋さんは「ダサい」なんて、
そういうことは言わないですけど。
マツヤマ たしかにそういうふうには
おっしゃらなかったですね(笑)。

1981年(昭和56年)はこんな年


3月・神戸ボートピア'81開幕
7月・英チャールズ皇太子・ダイアナ嬢と結婚
10月・北炭夕張新鉱ガス突出事故
11月・新種の鳥ヤンバルクイナ沖縄で発見


・「北の国から」
・「おんな太平記」


・「エレファントマン」
・「ブリキの太鼓」


・クリスタル族
・ハチのひと刺し
・なめ猫
・ボートハウスのトレーナー


・「ハエハエカカカ、キンチョール」(キンチョー)
・「いいなあ、これ」(ヤマハ)
・「不思議、大好き。」(西武百貨店)


・「ルビーの指環」(寺尾聡)
・「スニーカーぶるーす」(近藤真彦)
・「愛のコリーダ」(クインシー・ジョーンズ)

1982年(昭和57年)はこんな年


2月・ホテルニュージャパン火災
4月・500円硬貨発行
   フォークランド紛争
6月・東北新幹線開通


・「笑っていいとも」
・「峠の群像」


・「E・T」
・「炎のランナー」


・カイカン
・逆噴射
・テレホンカード発売
・ゲートボール


・「おしりだって洗ってほしい」(TOTO)
・「フルムーン」(国鉄)
・「おいしい生活。」(西武百貨店)


・「待つわ」(あみん)
・「聖母たちのララバイ」(岩崎宏美)
・「カサブランカ」(バーティ・ヒキンズ)

2013-08-29-THU