東北の仕事論。続続・八木澤商店篇
 
第8回
オレゴンに学ぶ。
糸井 河野さんが震災の直後におっしゃった
「八木澤商店は、
 まず、タレからはじめます」という一言に、
当時、すごく感心したんです。

「現実に経営をやっている人の言葉だ」って。
河野 そうですか。
糸井 それまで、ずっと積み上げてきたものが
何にもなくなったとき、
「ちいさくても、まず」って、
言えないと思うんですよね、なかなか。

でも、斉吉さんと八木澤さんは言えた。
「ひと釜から、はじめます」
「ひと鍋から、はじめます」って。
河野 斉吉商店さんも、そうでしたね。
糸井 この場所からは動けませんって言ってたら
動けないだけじゃなく、
さんまを煮はじることだってできなかった。

八木澤さんが一関に工場をつくったとき、
「社員にイヤがられました」って
河野さん、以前おっしゃってましたよね。
河野 陸前高田から離れるということは
私たちにとって、
やっぱり、とても大きい決断でしたから。
糸井 いまって、あのころからしたら、
みんなの理解が
ふつうに得られるようになったんじゃない?
河野 そうですね。
糸井 当時は「逃げるのか」って‥‥。
河野 ええ、社員にそう言われました。

そういう時期に
「なつかしい未来創造」を立ち上げたり、
しかも
そこの専務になっちゃったりしたので
「うちの社長は、何を考えてるんだよ!」
‥‥ってのもわかるんですけど、
その後、箱根山テラスができたり、
何にもなくなった町に
40人の起業家が生まれたりってことが
目の前で現実になっていくと、
だんだん、耳を傾けてくれるようになって。
糸井 やったことで、納得してもらえたんだ。
河野 もう、最初は
「しゃあねえな。
 止めても止まんねえんだから」と‥‥。
糸井 「ああいう人だからね」って(笑)。
河野 勝手にやらせとけみたいなところから、
いまは「一緒にやりたい」って
言ってもらえるようになってきました。
糸井 ちなみに、河野さんがよくお話に出す
中小企業同友会って、すごくいい場ですよね。
河野 おもしろいし、学びが多いです。

どうやって再建させるんだという会社を
立ち直らせてきた実績が、
震災前にも、けっこうあるんです。
糸井 そうですか。
河野 仲間の会社が再建していくのを見てると、
どんな状態からでも
諦めなければ、何とかなるもんだなと。

助けたり助けられたりの繰り返しだし
助けの要る会社が出てきたら、
どうにかしなきゃって、思うんですよ。
糸井 ご自分のところだって、震災後は‥‥。
河野 ええ、債務超過でした(笑)。
糸井 しかも、何にも「あて」がなかった。

もしも、自分が河野さんの立場だったら
何ができただろうかと思うから、
ぼくは、いまでも
東北と関わっているんだと思うんです。
河野 同友会では
「お宅じゃなくても、いいんじゃない?」
ということが、つねに問われていて。
糸井 おお。
河野 「おとなりの醤油屋でもいいんじゃないの」
「なんでお宅の醤油じゃなきゃいけないの」
ということを
つねに問いかけてくる勉強会なんです。
糸井 いやあ、すばらしいです。
河野 刺激を受けるし、発奮します。
ときどき、ヒゲのオヤジも怒ります(笑)。
糸井 田村さんね(笑)。
河野 これから先、
われわれのような中小企業・零細企業は、
「倒産」より
「廃業」の問題が出てくると思うんです。

つまり、たとえ利益を出していたとしても
将来を考えると後を継ぎたくない。
どんどん、苦しくなるのがわかってるから
存続すること自体が危ない‥‥というか。
糸井 ええ。
河野 たとえば、町の電気屋さんが
コンセントが壊れただけでも見に来てくれて
修理してくれるような関係性が、
日本中で、失われていくと思うんです。

そんなときに「決算の内容」まで
共有できるくらいの信頼関係ができていたら
いいかたちのM&A、
ちいさなM&Aも、あり得ると思っていて。
糸井 いわば「マイクロM&A」ですね。
いやあ、あると思います。

次々と「捨てて」いくんじゃなく、
「ほしい人」と「出来る人」が出会う場所。
河野 みんなが安心して
しあわせにはたらけるモデルをつくれたら、
新しいビジネスになると思う。
糸井 大量生産大量消費の時代って
それまで「1000個売れていた商品」を
「100万個売ろう」と、
がんばってきたわけじゃないですか。

でも、1000人だけがほしがる商品を、
1000品だけ、ていねいにつくる。
これはこれで、仕事になるんですよね。
河野 そうですね。
糸井 そこの「めんどくささ」を引き受けるのが、
「これからの時代の商品」だと思う。
河野 先日、オレゴン州のコミュニティリーダーの
70代のおじいさんが陸前高田に来て
いろいろ話をしてくださったんですけど、
「行政サービスなんて
 俺たちの村にはとっくの昔にねえぞ」って。

「受益者がみんなでコストまで考えて、
 自分たちで仕事をつくっていく。
 だから、70代の俺なんかも必要とされて、
 世界中から引っ張りだこで、
 ここで、いろんな話をしてるんだ」って。
糸井 愉快ですねえ(笑)。
河野 そんなふうに考えることができたら
何にも恐れる必要はないなと思えました。

だから、もっともっと学びたいと思って、
社員が許せば、ちょっと‥‥。
糸井 オレゴン?
河野 ええ、勉強してこようかなと思ってます。

岩手とオレゴンって、
なんとなく、似てるところがあるんです。
糸井 いいじゃないですか。
河野 田舎で、山ばっかりで。

でも、オレゴンは住民自治が進んでる。
陸前高田のモデルを、
そのあたりから学べたらと思ってます。
糸井 ぜひ、行ってきてほしいですね。
いやあ、今日もおもしろかった。
河野 こちらこそ、おもしろかったです。
ありがとうございました。
糸井 また、会いましょう。

<終わります>
2015-03-20-FRI
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