第2回
第一に、好奇心。

──
SWITCH編集部は、
新井編集長を含めて、5人。
ひとりずつが各特集号を担当されるんですか?

▲SWITCH編集部のみなさん。

新井
そうです。 映画、ファッション、マンガ、
それぞれ得意分野があって。
あと、昔SWITCHにいた人で、
フリーになっていて協力してくれる、
いわばコントリビューターのような方が
3〜4人います。
ぼくはまた、編集部とは違う仕事を
重層的にやっていて。
──
そうですよね、もちろん経営も、
販売も営業も人事も、すべてのことを‥‥。
「スイッチ・パブリッシング」という会社は、
いちど辞めても戻ってくる人が多いと聞きましたが、
ほんとうですか?
新井
いちどじゃなくて、
2〜3回辞めた人が
帰ってくるということもありますよ。
いろんな水を飲みにいって、戻ってくるんです(笑)。
──
それはいいですね(笑)。
新井
いいかどうかはわからないけど、
「去る者は追わず、来る者は拒まず」です。
──
たぶん‥‥SWITCHでやったことをほかで活かして、
またSWITCHで実現する、という気持ちは
なんとなくわかります。
新井さんが糸井との対談であたらしい社員さんには
「泥舟に乗ったつもりで」と声をかけると
おっしゃっていましたが。
槇野:
入っていきなりそう言われると、
不安にはなりますよね(笑)。

▲編集部の槇野さん。

新井
「自分で漕いでね」って
言われるんですよ。
でもね、そこまでに1年間、
みんなアシスタントを経験してますから。
──
アシスタント。
新井さんがおっしゃっていたアルバイト期間の
「丁稚制度」ですね。
新井
そこでいろんなものを見て考えて、
やらなきゃいけないという切迫感もわかってる。
──
スイッチ・パブリッシングには
編集部のほかに、販売部や営業部があるそうですが、
新井さんが、丁稚アシスタント時代に、
「この人はここに向いているから」と
配属先を決めるそうですね。
そのなかで編集部に配属する方は、どんな人ですか?
新井
好奇心です。
好奇心があるかどうか。
ひとつのことをずっとていねいにやるのも
重要なんですが、
編集で大事なことをひとつと問われれば、
それはやっぱり好奇心です。
ものごとをていねいにやる人は、どちらかというと
販売とかに向いてると思う。
──
おお、そうなんですか。
新井
編集部の人たちはみんな雑ですね(笑)。
上の階で机を見るとわかりますよ。
──
好奇心があるかどうかは、
どういうところでわかりますか?
新井
アシスタント時代に、たとえば
テープ起こしを頼んだとします。
そのときに、声がよく聞こえないところを、
そのままブランクにする人もいれば、
裏を調べる人もいる。個性が出ます。
テープ起こしを見るだけで
「あ、この人はより深く調べたな」
というのがわかります。
──
やってるあいだにワクワクしてしまって、
調べた痕があるんですね。
新井
そうそう、好奇心が抑えられないんですよ。
でも、販売部に配属されたのに、
そこから編集に来る人もいますよ。
販売やってて、とてもいいかげんだったので、
「じゃあ、編集がいいんじゃないか」
ってことになったり(笑)。
──
特集を決める基準ってなんでしょう?
誰かひとりがおもしろいと思ったものを出すのか、
みんなで話し合うのか。
新井
売れる売れないとか、
そういう判断もあると思いますが、
それはどちらかというと副反応で、
やっぱり、どれだけ担当が惚れているかが基準です。
編集の一所懸命さがあればあるほど
特集は深くなります。

ほかの雑誌でやるようなことを
ぼくらがやるってことは、ありません。
同じ人やものを扱っていても、
ぼくらは違うことをやらなきゃいけないと思ってます。
編集って、そういう
嫉妬心の塊みたいなところがあります。
──
だから、自分たちにしかできないことは、
本人の一所懸命さが引っ張るものだ、と。
新井
そのとおりです。
担当が事象や人に惚れ込んでいると
つきあいが長くなったりして、
SWITCHにしか言わないことを
話してくれたりします。
先月の特集はSuchmosでしたが、
そういった、いま話題の人たちについては
ぼくらはすごく深く徹底的にやりたい。
「ほかの雑誌が10年間
やれないようなものをやらないとだめだ」
というのは、猪野の口癖です。

▲猪野さん。

猪野:
いやいや、
「10年間保存してもらえるような特集を作れたら」
とは思ってますが‥‥。
同じような意味で、特集を組むときは、
しばらくほかの雑誌がやりたくなくなるような
おもしろいことを
やりたいとは思っています。
まぁ、どの雑誌もそういったことを
考えていらっしゃるとは思うのですが。
新井
うん。でもそれはとても大事なことですね
──
見てる側からの視点では、
SWITCHはほんとうに毎号、
特集の毛色がぜんぜん違います。
そこに糸井とほぼ日を加えたのは
どういう動機があったんですか?
新井
人を特集する場合、どなたでもそうなんだけど、
その人がなにを考えていて、なにを言うか、
ということに、ぼくらは編集者として
伴走したいんです。
糸井さんの魅力に、ほぼ日の
これからどこに向かうのかわからない運動体に、
「触れたい」という気持ちがあるんですよ。
それはある種恋愛感情に近いです。
一定期間、恋愛してみたいんですよ。
取材を受ける側は、当然テレもあるし、
ましてや特集を組むなんて、
ほんとうは逃げたい話かもしれません。
意識していなかったことさえ
さらけ出してしまうこともありますからね。

でも、長いこと特集雑誌を作っていますので、
その人の個性はわりとすぐにわかります。
取材をすると決めたら、
それを覚悟してくださる人がいます。
原稿ができあがって、赤字をお願いしたとき、
まったく違うものになって返ってくることもあるし、
「いったん言ったことだから」と
それに沿った直し方をする人もいる。
糸井さんの場合は後者です。
糸井さんが加筆してくださったところも
資料的な補足だったりして、ありがたかったです。
──
冒頭に、糸井の書き下ろしがありますが、
ああいう文章を書くのはめずらしいことなんですよ。
私はあの仕事を糸井が引き受けたところから
驚いていました。
新井
あれはすばらしかった。
ちょっとウルウルきちゃいました。
いろんな教えにも満ちているし、
あれを巻頭に持ってこれてよかったと思います。
──
あの巻頭の不思議な文章は
ぜひ多くの方々に読んでいただきたいと、
ほぼ日スタッフの自分たちも思っています。
 
(つづきます)
2017-02-14 (TUE)