伊藤まさこさんの連載
「白いもの。」が
本になりました。
「なぜ、白が好きなんだろう?」
インテリアも、着るものも、
日々つかうものにも「白」が多いのに、
それが「なぜ」なのかは考えたことがなかったという
伊藤まさこさんといっしょに、
「白」をめぐるちいさな旅をはじめたのは、
2012年の夏のことでした。

うつわ、シャツ、紙、真珠、料理、道具。
ゆっくり、ゆっくり、3年をかけて、
「白」にかかわるいろいろな場所を訪ね、
たくさんのひとに会って──。
「ほぼ日」に連載してきたそのルポルタージュを、
伊藤さんが、じぶん自身のことばとして書きなおして、
一冊の本に、まとめました。

タイトルは、もちろん、『白いもの』。
実用書でもなく、ものがたりでもなく、
カタログ的な本ともちょっとちがう、
けれどもそのぜんぶが、入っているような。
しいていえば、白を探しに出かけた「旅」の記録‥‥?
どこにもなかったあたらしい、「白」の本になりました。
どうぞ、お読みくださったら、うれしいです。
  • 『白いもの』
    伊藤まさこ 著

    ページ数:160頁
    ISBN:9784838727643

    定価:1,500円 (税込)

  • 「ほぼ日ストア」でお求めの最初の100冊には、
    伊藤まさこさんの「白い料理」の
    ちいさなレシピブック(*)を、
    特典としてさしあげます。
    *2015年2月27日から3月1日まで行われた
    TOBICHIのイベントでお配りしたものと同じものです。
──
ちょっと脱線するんですが、
伊藤さんの近著に『NEW YORK RECIPE BOOK:
朝ごはんからおやつまで。いま食べたいNYのレシピ60』

っていう本がありますよね。
伊藤
はい。
──
あれを読んでおどろいたんです。
何がすごいって、その前に、
『テリーヌブック』という本があって、
それと同じ著者チームなんですけれど、
編集ライターでコーディネートも担当した仁平綾さんと、
料理家の坂田阿希子さん、
そしてスタイリストの伊藤さんが
著者として並んでいるんですよね。
伊藤
はい、3人でつくりました。
──
普通、レシピ本って、
レシピをつくった人が著者なんですよ。
スタイリスト、コーディネーター、
編集者、カメラマンなどは裏方になるから、
表紙に名前が出ないものなんだけれど、
この2冊は、完全に3人が並列で、
しかも役割が表紙に書かれていない。
伊藤
そうです、そうです。
──
「3人でつくった本です」っていうことが
表紙からして、わかるんですよ。
で、読んでみると、
「つくりたくてつくった本です」
っていうことも、わかるわけです。
その情熱がにじみ出ていて!
伊藤
うんうん。
──
つまり、「出版社の依頼があって、予算を組んで、
この期間内に出しましょう」とかじゃなくて、
「3人で、パリでテリーヌの本つくりたいよね」とか、
「ニューヨークって、実はおいしいものがあるんだけど、
 そのままじゃ合わないから、
 わたしたちの味に合うようにアレンジして、本にしたら、
 絶対にみんな喜ぶよね。自分たちも欲しいよね」
みたいな、「つくりたい欲」が先にあるんだとわかる。
伊藤
ほんとうに、そうです。じつはわたし、
「つくりたい欲」が先にあるという意味では、
『こはるのふく』の時代から、
そういうところがあるんです。
──
2003年に出された、こども服の本ですよね。
あれも、つまり、ご自身の企画で、
自分で予算などの責任をもってつくられたということ?
伊藤
はい。
そうじゃないと、自由なことってできないと思ったんです。
予算内で収めていい本ができればとてもいいけれど、
今の出版界はそういう意味ではとても厳しい状況。
「ああ、ここでもう少し取材ができれば」
なんて後悔をするより、
ならば、自分でお金を出してでも取材を続けたい。
自腹を切るってけっこう大切なのかなって思っています。
もちろん「仕事として、それはいけない」
という考え方もあるけれど。
──
「やりたい人はやっている」って、
糸井が言っていますが、
伊藤さんはまさしくそれですよね。
つくりたいこと、やりたいことしか
やってないんだなぁと。
しかも、若手ではなく、中堅になっても、
伊藤さんは「受ける仕事」じゃなくて
「攻める仕事」をしているように見えます。
伊藤
そんなに? そうかなぁ?(笑)
──
「出版社から声かからないからできない」
みたいなことを言わないですもん。
伊藤
はい、そうですね。
それから、あの本を3人の著者名にしたのは、
本をつくることに向かって、
みんなが1つになってまとまっていたからです。
「1人として欠けてもできない形」だったので。
──
しかも、最初に言いましたが、
伊藤さんは同じような本はつくらない。
いつも「はじめて」のことをする。
今回の『白いもの』も、そうですね。
どこにもないような本になりました。
伊藤
1つの型にはまるのが嫌なんですよ、なんでも。
「また伊藤さん、同じような本つくったんだ?」
みたいに思われるのが、ちょっと悔しい。
──
料理系の人に聞くと、
ヒットした本と似たような内容の企画書が
他の出版社から来るんだそうですね。
伊藤
逆に、どこにもないような内容の本を提案すると
「類書がないから」という理由で‥‥。
──
企画が通らなかったりもする。
似たような企画の本の実績を見て、
どのくらい売れるのか予想して
出版するかどうかを判断するってことでしょうね。
伊藤
糸井事務所はそういうことを言わないでしょ?
──
言わないですね。
「ほしいのに、ないもの」をつくりたいから。
伊藤さんはそういうことをもし言われたら‥‥?
「これと似た本をつくってください」なんて。
伊藤
怒っちゃうかも!(笑)
──
(笑)『白いもの』のラストは、
糸井重里との対談、これは語りおろしですね。
伊藤
はい。そもそもの企画のヒントをくださった糸井さんに
登場していただきたくて。
この本をつくる過程でも、糸井さんの自由さには、
ずいぶん助けていただきました。
わたしが、本のための原稿を書き始めたとき、
「白に落とし込まなきゃいけないんじゃないか」
と思って苦労しているという話をしたら、
「そんなのいいじゃん!」って。
「だって、出てくる写真は白なんだから」。
──
たしかにそうですね。
伊藤
「しかも、1つに絞っちゃったら、
 おもしろくないでしょう。
 白でも、あっち行ったり
 こっち行ったりしていいんじゃないのかな?」
みたいな感じのことをおっしゃられて、
それからすごく楽になったんです。
本当、糸井さんって、おもしろいなぁ。
──
この本って、どういうふうに読んでほしいですか?
ウエブ担当者としては、少しずつ読んでほしいな、
という印象がありました。
一気に読むんじゃなくて、ゆっくり。
伊藤
わたしの本を買ってくださるかたって、
「寝る前に、ベッドの中で見ています」とか、
「子どもが寝た後に、自分の時間に読みます」
というかたが多くて。
──
そんな人に、最高にいいでしょうね、『白いもの』は。
伊藤さんは寝室が白一色だという話がありますが、
まさしく「眠りに集中する世界」の入り口に、
この本があったら、すてきですね。
伊藤
そういうふうになってくれたら嬉しいですね。
この本は「これをするとこうなる」みたいに
実践的なことは載っていないんだけれど‥‥。
──
でも「ゴミ箱を磨こう」ということは載ってます。
伊藤
あ! 対談の中にありましたね。
それ、本当よくみんなにびっくりされるんですけど。
──
以前お聞きしたんですが、
一日の終わりにキッチンの五徳を磨く、
ということにもびっくりしましたよ。
五徳というのは、ガス台の上の鉄の支持具ですが、
まさか毎日洗うものだとは思っていませんでした。
でもそれから、まめに洗うようになりましたよ。
伊藤
(笑)気持ちいいでしょう?
──
はい、とても。
伊藤
そういうことをしていれば、
年末の大掃除が要らなくなってしまう。
──
ゴミ箱を拭くというのも、
すっかり「ほぼ日」の担当チームは感化されましたし、
「お風呂は、全部白いもので揃えた」というものもいます。
「気が付くと磨いてます」って。
伊藤
ほぉ!
──
それから、朝起きたときに、
片付けから始めるのが嫌だから、
眠る前に食器を洗って拭いて食器棚に仕舞って、
布巾を消毒して干して、
それで1日が終わるとおっしゃっていて。
伊藤
うんうん。
──
そこまで徹底できてはいないんですが、
たしかに片づけておくと、
朝、気持ちがいいですね、
キッチンを見たときに。
伊藤
でも、酔っぱらっちゃったりしてできない時は
全然もう放ったらかしで、
そのまま洗いもせずに寝たりとかするんですよ。
──
それを聞いてよかったです(笑)。
伊藤
そうそうそう。それでいいんですよ。
──
「できない日はすごく落ち込む」必要はないですね?
伊藤
それね、落ち込まないで!
そんな日があっても、大丈夫。
「アハハ」って笑っちゃえばいいんです。
「そんなの、できないし!!」
みたいな気持ちでいればいいですよ。
──
気がラクになりました(笑)。
伊藤
この取材で行った細川亜衣さんは、
わたしよりずっと、すごいですよね。
そもそも、キッチンに洗いカゴがないんだもの。
使い終わった食器や調理器具は
すぐに洗ってすぐ拭いて。

写真:有賀傑
──
最後に陶磁器はオーブンに入れて乾かしていましたね。
伊藤
そう! オーブンの余熱で、カラッと。
──
「その手があったか」と思いました。
そんなふうに「白いもの。」の取材は、
行く先々で発見がありましたね。
伊藤
印象的だったのは、白漆の山本美文さん。
「雑貨みたいな漆の器がつくりたい」
っておっしゃっていて、
その「雑貨みたいな漆」ということばで、
山本さんがなさりたいことはこういうことなんだ! って、
ストンと納得できたんです。
そういう、その人でなければ出てこないような
おもしろい言葉が、いつも、ありましたよね。

写真:有賀傑
──
そういうことばを、いつでも読み返せるのは
書籍のいいところですね。
たしかに眠る前にぱらぱらとめくりたいです。
伊藤
やっぱり本って、質感とか、所有欲とか、
そういう意味でも、いいですよね。
さきほどの連名での著作の話もそうですが、
本をつくるときって、
いつも著者として自分の名前が載ることを
申し訳ないなぁと思っている部分があるんです。
本当みんなの力でつくっているのになって。
そして今回とくに思ったんですけれど、
できあがるまでに、ほんとうにたくさんの
意見の交換があったので、
「つくり上げた感」「わが子感」が強いです。
──
取材から3年かけていますしね。
伊藤
そう。やっぱり時間をかけたし。
──
本としても贅沢だと思います。
伊藤さん、次の本の予定はもう
あるんでしょうか。
伊藤
将来的には本になるように、
今、いろいろな連載をすすめている時期なんです。
本って、たとえば3日間の撮影でつくることも、
きっと、できるんだとは思うんですが、
わたしは時間をかけたつくりかたがいいなと思う。
連載をしているなかで、だんだん、
「こうしたらもっとよくなる」
みたいなアイデアも出ますし、
下地づくりの時間がていねいだと、、
いい本になるような気がする。
──
ちなみに「ほぼ日」では、
「白いもの」は、まだ続きます。
取材をしていくなかで、本とは別に
「つくりたいもの」がうまれたので。
伊藤
そうそう! 近い将来、発表できそうですね。
──
まだまだ続く、「白いもの」。
これからもどうぞよろしくおねがいします。
伊藤
こちらこそ!
2015-07-31-FRI
   
 
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