2023年の「海大臣」。

「海苔が記録的不作」

全国的な現象として、すでにこのニュースを
ごらんになったかたもいることでしょう。

養殖海苔はかつて日本国内で
100億枚を超える生産量がありました。
けれども年々、それが減り、
昨シーズンは約63億枚、
今シーズンは約48億枚と、
全盛期の半分以下になっています。

海苔は海の農作物ですから、
毎年、同じ量、同じクオリティのものはできません。
それでも生産者のみなさんの努力で、
「海大臣」のふるさと・有明海の海苔も、
一定の水準を維持することができていました。
そのなかから豊洲・林屋海苔店の社長でもある
海苔の目利き、相沢裕一さんのセレクトのなかから、
「格別にうまい海苔」を探してきたのが、
この「海大臣」プロジェクトです。

けれども今シーズンの有明海は
ほかの地域に比べても、とりわけ、
海況、天候ともに恵まれず、
生産量が激減しました。
そのなかで「格別にうまい海苔」はほとんど採れないまま。
少量でも採れたものは引く手あまたで、
当然のことながら、仕入れ価格が高騰、
平均して例年の2倍から2.5倍になったといいます。
(ちなみに、比較的良作だったのは宮城の松島。
そして作り方がすこし異なる瀬戸内地方だったそうですが、
全体的な品不足から、
どこも、価格は高騰しているそうです。)

とりわけ打撃を受けた有明海。その原因は?

有明海を襲った海苔をめぐる状況は、こんなことでした。

まず、夏に雨が少なかったことで、
山から川を下って流れてくるはずの
ミネラル(栄養塩)が海に不足していました。
河口近くは「まだ良いほう」だったそうですが、
通常の養殖が行われる沖合においては
かなり栄養が足りなくなっていたそうです。

そこに、海水温が海苔の養殖に適した温度にまで
下がらなかったことが追い討ちをかけます。

さらに「赤潮」として知られる
海水中の植物プランクトンが大量に増殖、
海苔の生育に必要な海の栄養素を食べてしまいました。

そんななかでも、
生産者のみなさんは努力をつづけましたが、
せっかく育てた海苔までもが、
鴨に食べられてしまうという「食害」が起きました。

およそ考えうる「海苔にとってのよくない状況」が
まとめて襲ってきた──、
それが今シーズンの有明海だったのです。

「海大臣候補の海苔は、ありません」

例年、海大臣は、林屋海苔店の相沢さんが
有明海の海苔の漁協に幾度も足を運び、
食味審査をしたうえで探してくださった
「海大臣候補の海苔」から、
糸井重里や飯島奈美さん、
林屋海苔店のスタッフのみなさん、
「海大臣」のきっかけとなったおすし屋さんである
「はしぐち」さん、
「ほぼ日」の食品チームが試食会をひらき、
「今年の海大臣」を選定しています。

けれども今年は
「残念です。今年、
海大臣候補の海苔は、ありません‥‥」
という報告が、相沢さんからの第一報。
これぞと思う海苔をたくさん試食したけれども、
海大臣らしい個性の海苔は見つからないまま、
とても残念な結果になっているというのです。
「それでもいいから食べてみたい」

そう言ったのが糸井重里でした。
「そんなに、だめなの?」
というシンプルな興味があったのです。
それは海大臣にかかわっている
チーム全員の気持ちでもありました。
そこで相沢さんにお願いして、
今年、相沢さんが買い付けた有明海産の海苔のなかから、
十数種類の海苔を試食させてもらうことにしました。

点数こそ公開していませんが、
例年は10点満点で採点をしてきた選考会。
でも今年は点数ではなく、アリ、から、ナシ! まで
「◎ → ○ → △ → × 」で分けることにしました。
基準を明確に決めたわけではないのですが、
◎は「これなら、あっても、いいんじゃない?」
○は「いいところも、あるけどね」
△は「うーん‥‥?」
× は「あきらかに、これはないな」です。


3種類の海苔が残った。

──結論は、◎がついた海苔が3種類。
試食会に参加したほぼ全員が、同じ意見でした。

◎とはいえ、「今年のなかでは」ということです。
もっとおいしい海苔が採れた年ならば、
「味がうすいね」「個性がないと思う」と
海大臣の候補からは外れたかもしれないとは思います。

それゆえに、今年の海大臣の販売は諦めようか──? 
という意見も出ました。
けれども、すこし話が煮詰まったなかで、
「やっぱりさ」と糸井重里が話しはじめました。

「やっぱりさ、今年の海苔状況を知りたい、
それでもいいから食べてみたい、
せっかくなら海大臣を選びたい、
という人も、いると思うんだ。
たとえば自分なら、今年は不作だと言われても、
海大臣があったら買うと思うんだよ。
だから、数はうんと少なくても、
今年も、海大臣を、続けようよ」
相沢さんが言います。

「ありがとうございます。
こんな特殊な海の状況の年、今回試食いただいた海苔は、
生産者が冷凍網の一番摘み(*)で育てたものばかりです。
天気予報を見ながら、
海苔がよくなりそうな時は海におろし、
だめなときは網高吊りをして生育を抑え、
そんなふうに育ててくださった海苔です。
正直、私は『今年はないだろうな』と思っていたので、
こうして説明してくださる機会があって、
少しでも食べてもらうことができたら、
ひじょうにありがたいですし、
コンテンツを読んで買ってくださる方は、
当然、海苔に深い興味を持ってくださっているわけで、
海苔の不作、それもまれに見る不作の今年の結果が
やっぱりこうなんだということは、
わかっていただいた方が
我々もありがたいです」
(*)冷凍網の一番摘みとは、
育苗した海苔のタネを専用の冷凍庫で保管、
より海況がよくなったときに網を海におろして
養殖をしたものです。
シーズン最初の収穫である「秋芽の一番摘み」が「ハツモノ」と呼ばれ
珍重されるかげに隠れてはいますが、
より海が冷たくなってから育てる
「冷凍網の一番摘み」は、
いい環境で、よりおいしい海苔を
育てるための技術として広まっています。

「うん。どんなに不作であろうが、味が落ちようが、
海苔がないっていう暮らしはちょっと嫌だな、
っていう人、それは自分も含めて、いますよ。
そういう人のためにも、販売中止をしないで、
少量ですが、出しましょう。
不作を一緒に味わいましょう。
そういうふうに賛同してくださる人が
いるかもしれないっていうのは、
ブランドとしてはなかなか冒険的で
面白いんじゃないかなとも思います」(糸井)

ということで、決めました。
2023年の海大臣の販売は、夏に一度だけ。
精いっぱい努力して、こうでした、
という3種類を、少なめの量で仕入れました。
冬の販売はありません。
偶然にも、3つとも、佐賀産です。