2週間のお休みをいただきまして、
今週から「みうらじゅんに訊け!」再開です。
2月らしく、最北の県に
行くことになりました。
その前に、まずはみうらさんのようすが
ちょっぴりお変わりになったことについての
話からはじまります。
北海道(北) 看板も、とにかくでっかいなぁ。
みうら 今回、いちおう断っておきますが。
ほぼ日 何でしょう?
みうら

ビジュアルについて
ちょっと断っておきたいんです。
──ぼく、50歳になりまして。
ほぼ日 あ! おめでとうございます。
みうら ありがとうございます。
50歳になって、
人生のシェイクスピア期
迎えており、リア王を演じているつもりなもので、
髭が生えています。
ほぼ日 ‥‥?
みうら つまり、人生で演じているキャラクターが
いま、リア王に変わったんです。
『リア王』は読んだこともないんですが、
とりあえず、今日は
リア王に訊いてる感じにしておいてください。
ほぼ日 では「リア王に訊け!」という気持ちでいきます。
みうら いいですね。
ま、とにかく、50歳からの何ヶ月間かは
リア王の時期を迎えていますので、
みなさんよろしくお願いします。
ほぼ日 (ややこしい‥‥)よろしくお願いします。
みうら (県くじを引く)
くじが少なくなってるじゃないですか。
もう終わりが見えてきましたね。
あ、大きい県ですよ、これは。
ほぼ日 はい。北海道の北部ですね。
(北海道は南北に分けました)
みうら はい、はい、いいですね、いいですねぇ。
摩周湖‥‥霧の摩周湖っつってねぇ。
ほぼ日 はい、はい。
みうら 霧が、ほんとにすごいんですよ。
「霧の摩周湖」という歌が有名でして、
「まさか今日は霧の摩周湖じゃないだろうな!」と
思って行ったら、霧の摩周湖なんですよ。
3回ぐらい行きましたが、
ぼくは結局、摩周湖は見たことがありません。
見たのは霧です。
ほぼ日 霧で湖が見えないんですか?
みうら 真っ白です。何も見えません。
横にみやげもの屋さんがあるんですが、そこで
「ここに何回も来たんだけど、
 いっつも霧なんですよ」
と言ったら、お店の方に
「よかったですねー、霧の摩周湖だもん!」
と言われました。
ほぼ日 でも、いつも湖が見えないのも‥‥。
みうら ええ、ずっと服を着たまんまの人を
見ている状態なんです。
一度も水着姿を見たことがない感じです、
摩周湖は。
ほぼ日 なるほど、もどかしいですね。
みうら あとね、北海道の北部といえば、
網走の刑務所の記念館がありますよ。
ほぼ日 また記念館ですか。
みうら はい。網走刑務所記念館
(正しくは博物館 網走監獄)、
そこが見たくて
ぼくはわざわざ北海道の北を巡る
ツアーに申し込んだんです。
ところが、そのツアーの途中で
「今回のツアーに網走刑務所は入っていません」
と、突然言われまして。
ほぼ日 ええ??
みうら お客さんが何人か
同じ観光バスに乗っていたんですが、
不平を漏らしたのはぼくだけでした。
あまりにも不平を漏らしたせいで、
「わかりました」ということになり、
ぼくだけタクシーを手配してもらって
わざわざその記念館に行きました。
そのくらい楽しみにしていたんです。
だって、ぼくが見た歴代の夢の中で
もっとも怖いのは
刑務所に入る夢ですから。
ほぼ日 怖い夢ナンバーワンが「刑務所」ですか。
みうら はい。
『それでもボクはやってない』という映画が、
去年、いちばん怖い映画でしたね?
数あるホラー映画の中でも、
いちばん怖いホラーだった。
ほぼ日 ホラーじゃないです、あれは。
みうら 刑務所に入ると、
いろいろ作業をさせられたりしますでしょ。
ぼくにはね、
エロスクラップとか、
日々、やりたいことがいろいろあるんです。
それを止めさせられることほど
怖いことはありません。
やっぱり、これまでずっと
自由人でやってきましたんでね。
自由人にとっていちばん怖いことは
刑務所に入ることなんです。
ほぼ日 用心していても、冤罪とか、
いつふりかかってくるかわかりませんね。
みうら そうですよ、怖いですからね。
刑務所にハサミを差し入れしたら
それでアウトなんですから。
ほぼ日 つまりは、エロスクラップをやりつづけたい、
ということですね。
みうら ええ。昨日の段階で199巻になりました。
これがズボッと欠番になっていくことが、
この世の中でいちばん怖いことですよ。
ほぼ日 ええ、たしかに。
みうら だから、その怖さを体験しておこうと思い、
網走刑務所の記念館は
ぜひとも見ておきたかったんです。
あれはマネキン受刑者というのでしょうか、
マネキンの方が雑魚寝したり、
一緒にお風呂に入ったりして、
刑務所のようすを再現してします。
また、重い大八車のようなものを引いて
作業されている後ろの風景の部分が
ジオラマになっていました。
そこに、受刑者の方の5倍ぐらいの大きさの
熊の剥製が置いてあるんです。
グリズリーどころじゃない大きさの
熊が襲っているところで
大八車を引いて作業されてるんですよ。
ものすごく恐ろしい、ジオラマです。
そのほか、マネキン受刑者の方が
刑を執行されて、ものすごく苦しい顔を
されているんですけども、その顔が
平成では生まれない人の顔なんです。
昭和丸出し──というか、縄文人に
近いぐらいの人たちです。
それを見るにつけて、
「ああ、怖い、
 罪を犯さないでおこう」

と思うんです。そう思いたかったから、
ぼくはそこに行ったんです。
ほんとうにしたいことがあって、
それを止めさせられることが嫌な人は
罪を犯してはいけません。
逆に言うと、趣味がある人は罪は犯せない。
それがよくわかる記念館ではあったと思います。
ほぼ日 趣味が犯罪の抑止力になるということですね。
みうら そういうことから、ぼくは「怖いもの見たさ」で
受刑ものの映画やドラマを見るのが好きなんです。
松本清張さんの小説にはまったのも、
そのホラー度からです。
ほぼ日 ホラーじゃないです、あれは。
みうら トリックのすばらしさとかには
あんまり気がいかなくて、
「悪いことしたらこんな目に遭う」という
怖さだけで読んできました。
ほぼ日 はああ、なるほど。
ありがとうございました。
みうら あれ? もういいんですか?
屈斜路湖のクッシーの話もしてないですよ?
ほぼ日 はい、はい、そうでした、お願いします。
みうら 鹿児島県の池田湖にはイッシー、
広島県の比婆山にはヒバゴンがいた、
あの昭和30年代〜40年代の
続々とUMAが登場した時代に、
屈斜路湖にもクッシーが出現しました。
しかし、いまはクッシーの話を
あまり問う人はいません。
屈斜路湖ではアイスクリームが有名で、
いまではアイスクリームのほうが
クッシーよりも勝ってるようでしたが、
屈斜路湖には、ブルーの体をした
クッシーの像が立っています。
ほぼ日 目撃された方が建立されたんでしょうか。
みうら その看板には当然
「クッシー」と書いてあるんですが、
「クッシー」よりも大きな字で
「損傷した人は100万円」
書いてありました。
そっちの文字のほうが大きいということが
みんなをドキドキさせています。
そこだけは言っておきましょう。
ほぼ日 網走の熊といい、屈斜路湖の賠償金といい、
スリル満載な場所なんですね。
みうら それから、北海道の足寄(あしょろ)という町に、
松山千春さんの家があることは
もうご存知だと思います。
足寄駅には「足寄駅」という案内看板より
ビックリするほどに大きな字で
「松山千春」と書いてあります。
「松山千春」っていう駅なのかな? と
思うぐらいの大きさです。
駅の2階が
松山千春さんの記念館になっています。
ほぼ日 駅の‥‥!
みうら

これだけかなと思ったら大間違いで、
町を歩くと、
「松山千春の家はここ」という
指差し看板がいくつも並んでいるんです。
千春さんの家に近づくと、
すごい大看板で
松山千春さんの家は近い
ということが書いてあります。

ほぼ日 「近い」ということが。
みうら ご自宅に行ってみると、
またものすごい特大看板が2枚、
駐車場だか納屋だかの屋根の上にあります。
向かって右がフサフサの頃の千春さん、
左が現在に近い千春さんの絵の看板です。
その2枚がビフォー・アフターのように
並んでいて、ビックリします。
ほんとうに、ビックリします。
うわぁ、北海道って広いな、
でっかいな
、と
みなさんも思うにちがいありません。
初期の頃のファンの方には馴染みのある顔、
現在のファンの方にはこちら、
つまり「親切」ですよね。
ほぼ日 ああ、なるほど‥‥。
松山さんにプライバシーは、ないんでしょうか。
みうら ないと思います。
ご自宅の向かい側には、観光バスが
停まるぐらいのでかい広場がありました。
きっと観光ルートになってるんでしょう。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

広大な県の広大な土地には、
気持ちもダイナミックになる看板がある。
あたりまえのようですが、
そのおおらかさを体験するには、
やはり実際に足を運ぶしかありません。
リア王になったみうらさんは、
この次、世界遺産を語る旅に出たいそうです。
聞き流しつつ、来週につづきます。
みうらさん、50歳、
おめでとうございます。
2008-02-17-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい北海道ご当地ソング
「青春リピーター」を
どうぞお聞きください。