僕たちの 花火の連絡、 見えますか。  スコップ団 平了+糸井重里 対談
平了さんは、 2011年3月11日の津波に襲われた家を片づけ、 大切なものを泥から掘り出し、 洗い流す活動をしてきた スコップ団というチームの団長です。 今年の3月10日に、仙台の泉ヶ岳から空に向かって 2万発の花火をあげることにしました。 天国にいる人たちに、 「こっちは元気です」と 連絡するために。
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第1回 団長の記者会見。
糸井 平さんたちスコップ団は、
被災した家の片づけを中心に、
さまざまな活動をなさってきたわけですが、
震災から1年が経とうとしているいま
仙台にはいろんな潮流があるように思えます。
スコップ団のように
片づけをしている人たちもいれば、
建築バブルもあったり。
そうですね、いろんなものが入ってきています。
僕らはずっと仙台に住んで、
いまもこうしてここにいるわけですが、
同じ仙台でも、若林区で
亡くなってしまった友人もいます。
まず、それが僕の活動の原点にあって。
糸井 うん。
その気持ちの強い人が、じつは
スコップ団には多いんですね。
はい。だけど、
さまざまな考えがあっていいと思います。
動く人も動かない人もいる、
動いたけどやめる人もいる、
ずっとやってる人もいる。それでいい。

僕らの活動というのは、
定義的に言えばボランティアです。
僕はボランティアをしたことがなかったので、
何からはじめればいいのか、
続けるにはどうしたらいいのか、
わかりませんでした。

「続ける」ことを考えたとき、
客観視することが大事だと気づきました。
そこはビジネスとおなじです。
たとえば、求められてないものを
たくさん持っていったって、余るに決まってる。
ですから、物にしろ支援にしろ
「ほんとうに必要なものは何なのか?」
ということを、僕はずっと考えてきました。

だから‥‥逆のことに聞こえるかもしれないけど、
現場で出される要望にはあんまり
耳を傾けなかったんですよ。
それは「わがまま」な場合があるから。
糸井 うん、なるほど。
「これが足りないんです」という要望は、
「ほんとにそうなのか?」と詰めていくと
そうじゃなかったりするんです。

もちろん、みなさんご存知のように
最初の段階では、寝具や防寒の物品など
「安心して眠れる環境」が足りませんでした。
僕らはまず新潟からガソリンを運んで
車を動かし、物資を集め、
避難所や被害のひどい地区に配りました。
しかし、話はどんどん段階が移って、
「そうじゃないこと」になっていきました。

一方で、遺体安置場では
ドライアイスが必要だという声が
聞こえてきました。
あたたかくなりはじめた時期でしたから、
家族の人たちが安置所で行方不明の人を探すのが
ほんとうにつらくなってきたんです。
そこから僕は、生きてる人だけではなく、
死んだ人に目を向けた活動にしようとしました。
糸井 今回の花火のこともそうですね。
スコップ団としては、
3月10日に上げる花火について
どう思ってるんでしょう?
そうですね、いちばん大事なのは、
ひとりでも多くの方に
「この花火はこういうことのために
 上がったんだよ」
という、真意をわかってもらうことです。
後から知っても、もちろんいいんですけど、
その可能性って低いから。
糸井 それは、記者会見で話していたことですね。
   
1月17日 13:30 宮城県庁
「天国にぶっ放せ!」鎮魂花火打上げ
スコップ団記者会見

私たちは、来る3月10日に
泉ヶ岳から鎮魂の花火を
打上げることにしました。
東日本大震災で犠牲になった
天国の友だちや家族のために上げます。

大会の規模が大きいため、
お金がかかってしまいます。
そのお金があれば、仮設住宅や
そのほかのものに使うべきだという
ご意見もいただきます。
私自身も、以前はそう思っていました。
お祭りや花火などにお金を使うのは
無駄だと思っていたことがありました。

しかし私たちは、
お墓参りや、弔いの際に
生前その方が好きだったものやお花を
墓前に供えたりします。
これは論理的に考えれば無駄なことです。
お供えのお饅頭やお花は
生ゴミになってしまいます。

それでも私たちは、
論理的ではないことをして、
自分の心を保ったりするものです。
  去年の夏、多賀城で仕事をしていたら、
突然、花火が上がりました。
その当時の私は、音楽を聴くことにすら
葛藤があったころでした。
「花火か」と、複雑な思いで見上げると、
ひと組の親子が目の前に現れ、
花火を眺めていました。

その親子は、「すごい」「きれい」と、
歓声をあげていました。
そして、ただ静かに泣いていました。
私もそれを見て、知らず知らず泣いていました。

そのことで、花火には
鎮魂の意味があるということを
なんとなく知りました。

それからしばらくたったある日、
避難所で、ある初老の女性と
お話をする機会がありました。
その女性はこう言っていました。

「それまでけんかなんかしたことなかった主人と
 3月11日の朝に
 くだらないことでけんかをしてしまい、
 いってらっしゃい、も言わなかった。
 主人はそのまま車で出かけたきり、
 津波で死んでしまった。
 私たちは、けんか別れをしたままなんです」

彼女のいまの願いは
「愛しています」
ということを天国に伝えること。
そして、安心してもらうために
「私は元気です」
と伝えることでした。

「あなたは何でもしてくれる、ありがとう。
 でも、いつか私の想いを、
 天国に届けてくれないかしら」
彼女はそう言って、僕に要望を伝えました。
これがはじまりでした。
  3月10日、泉ケ岳で
花火を上げることにしています。
もし天国というものが、
私たちのイメージどおりに
雲の上にあるのであれば、
できる限り天国に近い場所から
打上げたかったからです。

天国への贈りものは
食べもののように「消えもの」がいちばん、
ということで、やはり花火を選びました。

3月10日、もし曇ったとしても、
雲の上まで上げれば
天国から見えるはずです。
風が強ければ、打上げ時間を
ずらせばいいのです。
それは、僕たちが見るためものではないからです。

ふつうの花火大会のように
地上から僕たちが見るものではないということ、
そこはご理解をいただければと思います。

人生とはほんとに花火のようなもので、
どんと咲いて散ってしまう。
しかし、多賀城の親子の大切な人も、
避難所でお会いした女性の旦那さんも、
僕たちの大切な仲間も、
咲き切れないまま亡くなってしまいました。
そういう方々がたくさんいらっしゃいます。
だったらせめて
花火ぐらいはどんと咲かして、
私たちが元気でやっているということを
天国に連絡したいと思っています。

天国に思いを伝えて
安心していただくということは、
最初に言ったとおり、論理的でもないですし、
科学的なことでもありません。
それでも私たちは鎮魂花火の打上げを
企画いたしました。
復興は、その先にあるものと考えています。
復興の前に、いい意味での、
いわばあきらめに似た、
ふんぎりをつけることが必要だと考えます。
  私たちのいちばんの望みは
ほんとうは、復興でもなんでもない。
3月10日、あの日に戻ること、
その一点だと僕は思っています。
でもそれはかないません。
どうせだったら前よりも
すてきな町にしようという、
そういう気持ち、そういう強さが
復興につながっていくのではないかと思います。

そういったことを私たちスコップ団は
1年近くのがれき撤去を通じて感じ取りました。
我々が家の泥をいくらかきだしても、
何かを取り戻せることはありませんでした。
我々が何をしても
世界はびくともしませんでした。
でも、ひとりひとりの世界は確かに変わって
笑顔が生まれる、ということがありました。

3月10日を選んだ意図をよく問われます。
私はこう思います。

3月11日を忘れないようにしよう、
ということは、よく言われます。
しかしその日は、忘れないようにする日ではなく、
忘れられない日です。
忘れたいのに忘れられない日が3月11日です。

いちばん忘れちゃいけないのは、
なんてことない、
ほんとうになんでもない日々です。
幸せだったはずの、
前の日なんじゃないかと思います。
だから3月10日に花火を上げたいのです。

花火の1発1発は、
献花の値段と変わらないのですが、
「2万発」の規模にするため
大きなお金がかかってしまいます。

東日本大震災は、
2万人の犠牲者が出た1件の震災ではありません。
悲しい1件1件の事件が2万件も起きたのです。
僕たちはそういう認識をもって
これまで活動してきました。
ですから、この数字は絶対に譲れない。
絶対に2万発上げたい、と思っています。

天国に思いを伝える手段が
僕にはほかに思いつかなくて、
花火を打上げよう、ということになりました。
ご賛同いただければ幸いです。
よろしくお願いします。
 (明日につづきます)

対談場所 協力:エフエム仙台

2012年3月10日、宮城県の山の上。
天国に近い場所(泉ヶ岳)から、
花火が打上がります。
目標は2万発。
目的は、天国にいる約2万人の方々へ
「元気だよ」と伝えること。

日時:2012年3月10日(土)17:30〜
   打上げ開始は18:00を予定
※悪天候等により打上げ不可の場合は3月11日に順延

主催:「天国にぶっ放せ!」鎮魂花火打上げ実行委員会
後援:宮城県、仙台市、山元町、エフエム仙台
会場:泉ヶ岳スキー場
来場:被災地からの招待者および関係者
  招待については宮城県被災地15市町より
  自治体の調整のうえ、公募します。

募金について
花火打上げ、保安警備にかかる費用について
ご支援を募っています。振込先は以下の3つです。

三菱東京UFJ銀行
【仙台支店】
【店番】314
【普通口座】 0289305
【口座名】スコツプダン
ゆうちょ銀行
記号 18170
番号 8409961


※ゆうちょ以外の金融機関からのお振込の場合
【店名】八一八(ハチイチハチ)
【店番】818
【預金種目】普通預金
【口座番号】0840996
【口座名】スコツプダン
七十七銀行(シチジユウシチギンコウ)
【支店名】栗生支店(クリユウシテン)
【預金種目】普通
【口座番号】5044103
【口座名】スコツプダン
【SWIFT番号】BOSSJPJT

募金の状況など、現在の
「天国にぶっ放せ!」の状況については
こちらのページをごらんください。
(音声が流れますので、ご注意ください)
2万発の花火を上げるための
目標金額は3000万円です。
※1月17日の記者会見の時点では
 1600万円に到達していました。

集まった募金で花火の発注をします。
(発注は2月中旬を予定)

仙台駅前の「仙台アオバビジョン」では生中継、
インターネットではUstreamによる
映像配信を予定しています。
また、ほぼ日刊イトイ新聞でも、
テキスト中継などで
当日のようすをリアルタイムで
お伝えする予定です。

2012-02-08-WED
    まえへ
 
第1回
団長の記者会見。
2012-02-08
第2回
見えなくていい花火。
2012-02-09
第3回
かっこつけの決断。
2012-02-10
第4回
任せとけ、と言った手前。
2012-02-13
第5回
イルカがいる。
2012-02-14
第6回
おーい、見えますか。
2012-02-15
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想像力の反射神経。
2012−02−17