小説を書くということ。 佐藤正午+糸井重里 対談

昨年(2017年)末、私たちほぼ日スタッフが
驚くことがありました。それは、
「糸井重里が小説の解説を書いた」という
出来事でした。
ほぼ日以外で糸井が長い原稿を書くことは
かなりめずらしいので、
「これはすごいことだ」と思いました。
しかもそれは、
エッセイでもボディコピーでもなく解説です。
解説した小説のタイトルは『鳩の撃退法』。
理由はおそらく──、糸井は、
この作品を書いた佐藤正午さんに、
ほんとうに会いたかったから、
なのではないでしょうか。
対談は、佐藤さんの住む佐世保で行われました。

※この対談は『鳩の撃退法』の物語の筋には
ふれないようまとめました。
(そもそもふたりとも『鳩の撃退法』のストーリーについては
話しませんでした)
これから作品を読む予定のみなさまも、ぜひごらんください。

佐藤正午さんのプロフィール

佐藤正午(さとうしょうご)

1955年長崎県佐世保市生まれ、佐世保市在住。作家。
1983年『永遠の1/2』ですばる文学賞受賞、
2015年『鳩の撃退法』で山田風太郎賞受賞、
2017年『月の満ち欠け』で直木賞受賞。

第1回 上手い小説。
2018-01-15-MON

糸井
佐藤さん、はじめまして。
佐藤
今日は佐世保までありがとうございます。
糸井
『鳩の撃退法』の文庫本解説を書くと言ったものの、
なかなか進まなくて、すみません。
基本的に、ぼくは本の解説をお受けしてないんですよ。
いままで2回ほど書いたことがあるだけです。
佐藤
ああ、そうなんですか。
糸井
ひとつは、つげ義春さんの『紅い花』の解説でした。
そしてもうひとつは、
殿山泰司さんの『日本女地図』の、たしか
文庫本の解説でした。
担当編集
の方
つげ義春、殿山泰司、そして、佐藤正午‥‥。
糸井
いま思えばすごい並びですね(笑)。
担当編集
の方
すごくいい並びです。
糸井
自分はだんだん「ほぼ日」以外の媒体で
文を書かなくなってきています。
ところが『鳩の撃退法』を読んで、
とにかくおもしろかったので、
今回の依頼をもらったときに
「人生最後の解説」のような気になって、
ついついお引き受けしてしまいました。
解説は、今後もう書かない。
いまも苦しくてしょうがないですから。
佐藤
苦しいというのは?
糸井
「書かなきゃ」という、ただその気持ちが苦しいです。
佐藤
それはほんとうにすみません(笑)。
でも、わかります。
糸井
お声がけいただいたきっかけは、ぼくが
Twitterで『鳩の撃退法』について書いたことでした。
あの文字量ならOKなんだけど、それ以上が苦手。
苦手なのに、お引き受けした理由が、
やっぱりありまして。
佐藤
はい。
糸井
ぼくはもともとそんなに「小説読み」じゃありません。
でも、何年かにいちど「たまたま」のような形で
読むことがあります。
それが『鳩の撃退法』でした。
読みはじめてけっこうすぐに、ぼくは
作者に憧れることになりました。
「小説をこんなに楽しそうに書いている人がいる」と、
うらやましくなって、上下巻、ずっと読み続けました。
佐藤
読んだきっかけはなんだったんですか?
糸井
どこかに紹介が載っていたのを
見たんじゃなかったかなぁ。
そのとき『鳩の撃退法』というタイトルが
妙にひっかかったんです。
ちょうどお正月だったので、
「これを読んで正月をすごそう」と思いました。
あまりにおもしろくて、
さらに何冊も買って、知りあいに配りました。
佐藤さんはそのあと直木賞を受賞されましたが、
そのときの電話のインタビューも、
とても、とても好きでした。
佐藤
お恥ずかしいです。
糸井
あのときみんな、佐藤さんに
会いたかったんじゃないかな、と思うけど。
ほぼ日
担当者
電話でお答えになったんですね。
どんなインタビューだったんですか?
糸井
佐藤さんが、電話でただほんとうのこと言うんです。
「あのくらいのことを、
みんながいつも言いたいんだよなぁ」と思う‥‥
っていうくらい、よかった。
『書くインタビュー』シリーズ も買いました。
まだ読んでませんが。
佐藤
ちょっとしつこいようですが、
『鳩の撃退法』は糸井さんがご自分で買ってきて、
読んだんですか?
糸井
もちろんそうです。
佐藤
そうだったんですか。
糸井
小説に「上手下手」があるのはわかるんだけど、
ぼくは一般的な上手下手に興味はありません。
ぼくが思う「上手い」人は、おそらく、
書いているその人の「手」が
楽しそうな雰囲気を持っているんです。
つまり、書くというプロセスが
その人の楽しみになっている。
そんな文章を読んだときには、
自分が悲しくなるほど(笑)、うれしくなっちゃう。
佐藤さんがどういう書き方をなさってるのか、
だんだん知りたくなっていきました。
小説を書くとき‥‥たとえば『鳩の撃退法』は、
「プロットみたいなもの」はあるんですよね?
佐藤
「みたいなもの」はあります。
糸井
全部は把握してないんですか。
佐藤
そうですね、完璧には。
糸井
おおよそ、なんですね。
佐藤
はい。
ぼくは心配性なので、その「大枠」がないと、
書き出せないんです。
あのへんにゴールがあるな、と、
わかってないと書き出せない。
糸井
『鳩の撃退法』は
どのあたりまで最初に「大枠」がありました? 
佐藤
ラストまでありました。
ラストシーンはだいたいこんな感じなのかな、
というイメージもあったし、
最後に言わせたいセリフもありました。
糸井
あぁ、そうなんだ。
佐藤
けれども、そのとおりにはなってません。
糸井
うん、なるほど、なるほど。

(つづきます)

2018-01-15 MON

『鳩の撃退法』が
文庫化されました。

2014年に上下巻の単行本として出版され、
多くの人を物語のおもしろさに引きずり込んだ
佐藤正午さんの長編小説『鳩の撃退法』が
このたび文庫になりました。
文庫も上下巻に分かれています。
(Amazon→上巻下巻
糸井重里の解説文は下巻に収録されています。