サセックにおそわったこと。松浦弥太郎さんにきく、旅のはなし。
1916年、プラハに生まれ、パリに拠点をおいて
活動をつづけた、絵本作家のミスロラフ・サセック。
1959年に出版された『This is Paris』をはじめ、
世界を旅しながら描いた『This is...』シリーズは、
こどもたちだけでなく、世界中のおとなたちから、
いまだにつよい人気をあつめています。
その日本語訳による復刻版の刊行が、
松浦弥太郎さんの手により、ことし、はじまりました。
「歩くこと、よく見ること、人と出会うこと。
 旅の仕方は全部サセックの絵本から教わった──」
という松浦さんに、旅のこと、そしてサセックのことを、
たくさん話していただきました。
松浦弥太郎さんプロフィール
松浦弥太郎さんプロフィール
松浦弥太郎(まつうら・やたろう)

1965年東京生まれ。
渡米中、アメリカの書店文化にふれ、
帰国後オールドマガジン専門店
「m & co. booksellers」をオープン。
2000年にはトラックによる移動書店をスタート、
2002年にセレクト書店のさきがけとなった
「COW BOOKS」を立ち上げた。
2006年から2015年3月まで
『暮しの手帖』編集長に就任。
4月からはクックパッド株式会社に移籍、
現在はウエブサイト『くらしのきほん』の編集に
たずさわっている。
エッセイストとしても活躍、多数の著作がある。

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とじる
その1予測がつかない自分の感情。
Q.

『暮しの手帖』編集長からクックパッドに移り
「くらしのきほん」を立ち上げた松浦弥太郎さん。
いま、どんなお仕事のスタイルですか。
きっとお忙しいと思いますが、
好きな旅には、行かれていますか。


そんな、世の中の人に比べたら、僕なんかは、
きっと、たいして忙しくないですよ。
朝の8時くらいに会社に行き仕事をはじめ、
18時くらいにバッテリーが切れる。
そのあとは会社のみんなと話をしたりして、
家族で夜ごはんが食べられるように
はやめに退社するようにしています。
そんな毎日です。

基本的に「くらしのきほん」の原稿は会社で書き、
それ以外の自分の原稿は、土日を使って書きます。
では土日に会社の仕事はしないのか、と言われると、
そうでもないんですよね。
たとえば僕が作っているコンテンツの中には、
料理の写真や動画の撮影など、土日に入る仕事があります。
だから「土日が関係ない」ずっと続く仕事なんだけれど、
逆に「ずっとお休み」な気分もあるんですよ。
曜日が関係ないということだけじゃなく、
「休もうと思えば、いつでも休める」
という気持ちがあるからです。
こういう年になると、「休みます」と言っても、
周りも「ええっ?」とは言わなくなりますよね。
だから、何かあった時にはそうするぞ! と思っている。
じっさいに旅に出るのは、1年に2度くらい。
ひとり旅です。
1回の旅が1週間くらいかな、
会社や世間の休みとは合わせません。
年末年始にしても、すこし早めてみたり、
次の春、雪が溶け始めた頃に休みを取ろう、とか、
そんなふうに、なるべく早めにひっそりと計画して、
仕事をととのえて、ごく近い人にだけ伝えて、旅に出ます。
といいながら、結局どこにも行かなかったりしますがね。

旅先選びは、その場所が初めてで知り合いのいない所か、
何度も行ったことがある街でも、
歩いたことのない所に行きたい、
降りたことのない駅で宿を取りたいと思っています。
たとえ知り合いがいる街でも、
めったに連絡をしませんね。
カフェとかレストランとか宿とかも、できるだけ、
知りあいのいないような所に行きます。
現地で友達にバッタリ会ったりしたら、
くるっと振り返って、逃げちゃいます。
だって、ひとりになりたくて行ってるんだもの。
友達と行きたくない、というわけでもないのだけれど、
いまは積極的にはそういう機会を作らない、
ということですね。
特に事前の情報も集めません。
「どこどこがおいしい」とか、
「どこどこを見たほうがいい」とか、
そういうことも、一切耳を傾けないようにしています。
ガイドブックも読まないし、ネットでも調べない。
現地に行って現地の情報を集めるほうが好きなんです。
そしてカメラを持って、あてもなく歩きます。
そういうスタイルは、若い頃から、本当に変わらないです。
旅の動機も、行き先の選び方も何も変わっていない。
「ひとりになりたい」、
それがまずいちばん最初の動機です。
ふだん、会社でも家でもどこでも、
だれか、人と一緒にいますよね。
そのなかで、それなりに自分らしさとか、
自分のしたいこと、やりたいこと、
そして、やりたくないことを、
コントロールできているとは思うんだけれど、
でも、なんていうんでしょうね、
ひとりぼっちになって、
ちょっと自分をしっかり見つめるみたいな環境が、
ふと、つくりたくなるんです。

「ひとり」っていうのは、
「ほんとうにひとり」にならないと、
その時にどんなことを思ったり、
どんなこと感じたりするか、予測がつきません。
僕は、その予測がつかない自分の感情に出会いたい。
ひとりで旅に出ると、2日目くらいになって、
ようやくそういう心境になります。
「あぁ、なんか僕はこうだったな、ああだったな」とか、
「これからは、こうやって頑張ろう」とか、
「あぁ、もう1回こうしなきゃな」とか、
旅が“自分の立て直し”みたいな機会になるんです。

いま「2日目くらい」と言いましたが、
最初の1日は何をしているかというと、
自分の居場所を探しています。
その街のなかで、たとえばカフェや、
簡易食堂みたいな所。
公園のベンチとかね。
とにかく毎日同じ所に
行き続けることができる店を見つけるんです。
朝・昼・晩、そこにしか行かないつもりで。
ひとりになりたい、って言いながら、
知らない街に行って、
知らない人と知り合いになるのは、とても好きなんですね。
ずっとひとりなのはいいけれど、
しょんぼりしてるのは嫌なんです。
だから1日目は、勝手に友達をつくります。
道を歩いていて遠くからでも会ったら、
手を振れる人を、ひとりかふたりくらい、
最初の日に見つけておくんです。

「東京から来たんだよ」って、自分から話しかけます。
たくさん話しますよ、最初の日は。
アピール、自己紹介、いろいろな質問。
「おすすめの店はどこ?」
「本屋はどこにあるの?」
「カフェは?」
「郵便局は?」
それも、一度に聞かず、
何回も行って、何回も聞くんです。
そうそう、最初の日にすることのひとつが宿さがしですね。
日本から予約をしていくことは少なくて、
現地に着いてからぶらぶら歩いて、
よさそうなホテルがあったら部屋を見せてもらって
決めることにしています。
こういう旅のスタイルって、たしかにハラハラしますよ。
どこに行っても部屋が空いてないままに、
だんだん夕方になってくることもあります。
「すいません。
 ちょっとスーツケースだけ
 置かせてもらっていいですか。
 ホテル探してきますから」
なんてこともあります。
そういうときこそ、どこかカフェに入って、
人に聞きまくってみるんです。
「どこかホテル、いい所を教えてくれませんか?」
って言うと、看板も出てないような
小っちゃいホテルとかを教えてくれたりして、
「おぉ、いいじゃん!」みたいなこともあります。
旅って、なんとかなるものなんですよ。
迷わないですか‥‥って訊かれたら、もちろん迷います。
というか、迷うのが好きなんです。
どこそこに行こうとするでしょう?
で、そこに普通に行けちゃったら、つまらないんです。
「え? もう着いちゃった?」みたいな。
海外で車を運転することもあるんですが、
降りるはずの高速道路の出口なんて、
絶対に通り越しちゃいます。
みんな、「えぇーっ!」って思うでしょうね。
だけど、僕は、「あぁ、やったぁ!」って考えます。
「じゃあ、次で降りてみよう!」
そして降りてみると、
反対方向の入り口を見つけるのも
なかなか大変だったりするのだけれど、
それも、ハラハラしていいんです。
自分のダメさ加減に、
笑っちゃってるみたいな旅なんです。

次回は松浦さんの「最初の旅」について、
そして、旅の記録のことをお聞きします。
おたのしみに!
2015-11-04-WED
サセックの絵本を見つけたとき、
ぱっと希望の光が見えました。
その光に向かって歩むことが、
僕にとってひとつの旅でもありました。
サセックの絵本と出会えていなかったら
今の僕はなかったと思う。
サセックさん、ありがとう。
僕の旅は続いています。
──松浦弥太郎さんの「まえがき」より
  • This is Paris
    ジス・イズ・パリ復刻版
  • This is New York
    ジス・イズ・ニューヨーク復刻版
  • This is London
    ジス・イズ・ロンドン復刻版
  • This is Venice
    ジス・イズ・ヴェニス復刻版
ミロスラフ・サセック著/松浦弥太郎訳
各1,800円+税、スペースシャワーネットワーク刊
復刻版となる上記の4冊をふくむ
シリーズ全18冊についてくわしくは、
スペースシャワーネットワークの
ウエブサイトをごらんください。
http://books.spaceshower.net/this_is/