サセックにおそわったこと。松浦弥太郎さんにきく、旅のはなし。
その5 自分だけの『This is...』を。
Q.

「こんな旅をしたらいいよ」という、
松浦さんからのおすすめを聞かせてください。
さすがに松浦さんのようなスリリングな旅は、
なかなか難しいと思いますけれど‥‥。


僕の旅で最大の危機は、
お金がなくなるということでした。
若い頃は、後先を考えずに滞在していたから、
「どうしようかな、
 どうしたらいいのかな、これから」
なんて思っているうちに、日にちがどんどん経って、
持ち金が宿代に消えていくんです。
「まだ大丈夫かな、まだ大丈夫かな」って言ってるうちに
ついに小銭しかなくなって、
最後の25セントとかになると、もうさすがに、
「どうする、自分?!」。
一文無しになるっていうのは、
いちばん大変ですよ、旅先で。
人に「すいませんが、食事をおごっていただけませんか?」
とか、言わなきゃいけなくなってきたりとかしますから。
しかも、英語で。
そうするとね、すごいですよ、人間って。
まず、身の回りの物を見て、
「さぁ、どれを売るか」
「どれを誰に買ってもらうか」と考えるんです。
ものすごい速度で、頭の中のコンピュータが走って、
自分がこう今まで生きてきた経験をもとに、
「今ここで、商売なり仕事なりで、
 何か役に立つことはないか?
 ないか? ないか? あるのか?
 あ、そうだ、僕、柔道黒帯だから、
 『柔道の受け身を教えます、25セント』って
 紙を貼ったら、誰かしら来るかもしれない!」
とか、そういうことを、
もういろいろ必死に考えるわけですよ。
そして、やっぱり、なんとかなるんです。
最近の人の旅って──どうなんだろう?
予定がちゃんと決められて、
ぎっしりと行く所があって、
というスタイルなんじゃないのかな。
やることも事前に予定が組まれていて、
すべてきれいに進む旅。そんな感じがします。
まあ、失敗を避けるというか。

「ぶらぶら」っていうことが減っているんでしょうね。
ほら、事前になんでも調べられるし、
なんでもブッキングできるわけだから、失敗があり得ない。
僕は1軒の本屋に行くのに、
何回行っても辿りつけなくて、
ここじゃない、あそこじゃない、
人に聞いてもわからなくて、
やっと3日目に見つかったとか、そんなことだらけでした。
でも、その自分が迷いまくってた3日間が大事で、
後になってからジワジワと来るおもしろさとか、
その時のエピソードみたいなもののほうが、
後になって、経験として
よかったりするんですよ、やっぱり。
みなさんには、サセックを是非読んでもらいたいのと、
次にちょっと違う旅をしてみたらっていう提案として、
こんなふうに伝えたいです。

わたしの『This is New York』とか、
僕の『This is Paris』、あるいは、
『This is 中目黒』、『This is 表参道』でもいい、
自分なりの『This is どこそこ』を作る。
そんな旅をしてみたらどうかな、って。

そういう意識で旅をしたら、
きっと、おもしろいはずですよ。
つまり、サセックになりたかった僕は、
僕なりの『This is...』をつくってきた。
「ほら、なれるんだよ?」って言いたいんです。

それに、知らない街や、行ったことのない所を旅すると、
それまでの自分の経験であるとか、
「自分は今まで何して来たんだろう?」
ということと、向き合うきっかけになります。
そこから逃げないでほしい。
絶対、それって、自分の中で、何かの種になります。
いつかそこから、必ず芽が出て、花が咲く。

だから、ガイドブックを持たず、
いっそ、スマホも捨てましょう。
持ち物は紙とペンとカメラくらいで、
1週間くらいひとりきりになってみる、
そういう旅って、とても楽しいと思います。
そうそう、ペンをわざと忘れていって、
人から貰うっていうのもいいですね。
カフェで知りあった人に訊くんです、
「なにか書くものある?」って。
もちろん最初は「えぇ?」って驚かれるだろうけど、
たいがい、「まぁいいよ」って言ってくれます。
そうすると、もうそれで、ひとつ物語ができちゃう。
「あの人に貰ったペンで旅をする」っていう物語です。

もらうのがはばかられたら、交換してもいいですしね。
赤いクリップ1個から交換し合う
「One red paperclip」というのがありましたね。
それは最後、小さなクリップが
2階建ての家かなんかになるんですよ。
そういう想像力を働かせるのも、旅の楽しさですよね。

そして、できればひとり旅で。
友達と一緒で、「きょうはどこに行くの?」と訊かれて、
「決めてない」なんて答えたら、
「なんで決めてないの?」って怒られちゃいますよね。
「とりあえず朝食を食べながら考えよう」みたいな感じは、
きっと、通じないと思う。
しかも朝食に2、3時間使っちゃうなんて、
もうみんなイライラしてくるんだろうな。
僕は、むしろ、
「え? 本当? 今日、ちょっとなんか、
 こういう感じでのんびり1日過ごそうよ」
なんて思っていたりするのに。
そういうことって、なかなか共有しづらいところですよね。
でも、誰かといっしょでも、自分の旅はつくれます。
僕は仕事でも旅をしますが、
カメラマンやスタッフと行く仕事の旅と、
完全にひとりで行く旅に違いがあるかと言われると、
じつは、基本、一緒だと思っています。
わがままなんですよ、僕。
仕事って言われても、
「ひとりになりたいな」って言う。
たとえばカメラマンが同行しても、現地集合、現地解散。
現地でも、朝ご飯と夕ご飯だけは一緒に食べるけれど、
昼間は別行動にしましょう、とか。
1日の間で、ほんのすこし自分の時間を持つ。
そういう時間があるぞ、と思っているだけで、
その旅は自分の旅になっていくんです。

次の旅は、もちろん内緒ですが、決めています。
そこは、友達のいるところなので、
ひっそりと行って、こっそり帰ってくるつもりです。
友達に会うと、いろいろと面倒を見てくれるでしょう。
それが申し訳ないし、
そもそも僕は、旅先でひとりで、
途方に暮れてみたいんです。
途方に暮れるなんて、ふだん生活をしていると、
もう、ないですよね。
僕は若い頃から、途方に暮れてばっかりいたから、
たまに途方に暮れないと、
生きた心地がしないのかもしれません。

もうすぐ50歳になるんですが、
誕生日に、途方に暮れるほどのことを
してみようかな? とも思っています。
それは旅ではないと思うけれど、
自分もふくめて家族もびっくりしちゃうようなことを、
じんわり考えているんです。

松浦弥太郎さんのお話は、これでおしまいです。
松浦さん、そしてみなさん、
ご愛読、ありがとうございました。
松浦さんが復刻したサセックの本、
ぜひ、手に取ってみてくださいね。
2015-11-13-FRI