──NHKの方にうかがいました #3 飲み水と食べものは、どのくらい備えておくべきか
糸井 災害への備えとして、
よごれたものを洗ったりトイレで流すための
「雑に使う水」がお風呂にあるとすれば、
「飲むための水」というのは
どのくらいの分量を準備すればいいんでしょう。
山下さん うーん‥‥
どれくらいなんでしょうね。
季節にもよると思いますし。
糸井 ぼくは、自分がどのくらい飲むかを考えると、
水って案外すくなくても
大丈夫じゃないかと思ってるんです。
必ずしもみんなが「たくさん備えを!」と
思い過ぎないほうがいいんじゃないかと。
つまり、それも負荷になるから。
PRさん 大人ひとりは、
1日に3リットルって言われてますよね。
山下さん そうですね、
3リットルはよく言われている数字です。
糸井 ということは、
大きなペットボトルで2本ですか。
PRさん それを定期的に交換という感じでしょうか。
糸井 でも、食器を洗ったりするのは別にして、
ほんとうに緊急の飲料水、
「のどを潤すため」ということであれば
そんなになくても大丈夫に思えるんですが‥‥。
山下さん そうかもしれないですね。
その量については、
自分の判断で決めるしかないと思います。
糸井 それは、家に置いておく水ですよね。
地震で逃げるときに、
持っていくべきですか、水は。
PRさん 避難袋に入れている人は多いですね。
山下さん 非常用の持ち出し袋を用意する方は、
飲用水を入れておいたほうがいいと思います。
糸井 そうするとますます、
大きなペットボトル2本は多いですよね。
山下さん はい、携帯用に3リットルは多いです。
すこしでいいと思います。

東日本大震災でも実証されたといいますか、
たぶん多くの人が見かけた光景として、
緊急時には
自動販売機のメーカーによっては、
お金を入れなくても飲み物が出てきました。
糸井 はい、はい。
山下さん どうぞ持っていっていくださいと、
押すと出てくる緊急対応の
自動販売機がわりとあるんです。
なので、都心でただちに
飲み物が枯渇するということは考えにくいです。
PRさん コンビニエンスストアにも
在庫はすごくあるわけですし。
糸井 どんどん水の心配がないように思えますね。
山下さん ただそれでも、
飲み水というのは本当にたいせつなので
できれば備えておいたほうがいいと思うんです。
それは、この前の東北で‥‥。
糸井 そうか‥‥そのケースでは
ただで出てくる自動販売機とか
コンビニがたくさんあるとは限りませんよね。
山下さん 東北に入ったうちの取材班が、
「現地に行っていちばん困ったのは、
 水が出ないことだ」と。
糸井 そうでしょう。
人は水でできていますから。
山下さん ですから、何らかの理由で
飲み水が確保できないときのために
最小限の飲用水は、あったほうがいいと。
糸井 わかりました。
量については自己判断になるけれど、
たとえば「給水車が来るまでの飲み水」
を自分なりにイメージして
非常用の持ち出し袋に入れておく、と。
山下さん そうですね。
糸井 飲みものの次には、やはり食べもの、
食糧のことが気になるんですが、
いかがでしょう?
山下さん 食べものについても、怖がりはじめたら、
それこそどれだけ備蓄しても足りないわけです。
糸井 切りがないですよね。
PRさん たとえば会社の場合なら、
「何日、粘れればいいか」ということで‥‥。
糸井 そうそう、それです。
そこはどういうイメージでいればいいんでしょう?
山下さん よく言われているのが、
「会社側は社員を1泊させられる用意をしておく」
ということです。
ひと晩泊まって落ち着いてから、翌日に帰す。
このイメージで用意するものであれば、
それほど負担もなく準備できるであろう、と。
ですから非常食についても、
「社員が1泊するときに食べる量」が、
ひとつの目安ではないかと思います。
糸井 なるほど、それはわりと簡単ですね。

自分が「計るだけダイエット」の経験者なんで
みんなに強く言いたいんですけど、
食わないってことは
思ってるほどたいしたことじゃないんです。
それをパニックにならずに
覚えておいてほしいというのはありますね。

たぶん、PRさんは
神戸の震災をご経験になっているので、
食べないことについてご存じだと思いますが‥‥。
PRさん 水があれば大丈夫です。
糸井 ですよね。
PRさん でも、赤ちゃんの場合は‥‥。
糸井 あ、そうかそうか。
それは要注意ですね。
PRさん ちいさいお子さんはやはり、
栄養面だけではなくて、
日常とつながり続けるという意味での
食事でもあるので。
糸井 それについては、
さっきの飲み水の話もそうですね。
子どもがいる家は、別です。
PRさん 大人は平気なんですよ、数日食べなくても。
糸井 はい。
PRさん ですから、いちばん弱い人たちの分を
最低限確保するような、
そういう量の備蓄でいいと思います。
糸井 なるほど。
山下さん 災害時の食べものといえば、
3月11日のあと、都心からモノが消えましたよね。
糸井 ありましたね。
山下さん ああいう場合も、あわてないでほしいです。
糸井 あわてないでほしいですねぇ。
山下さん モノが消えた原因は
「物流が滞った」ということなので。
糸井 そうです、うんうん。
山下さん この都会から、
そうそうモノは消えてなくならないですよね。
あるんです、ちゃんと。
ただ滞っているだけで。
糸井 ほんとにね、
ああやってストックをなくすために
どれだけ企業が努力をしてきたか。
PRさん そうですよね。
糸井 すごく売れたんですよ。
だから、次がちゃんと来るんです。
山下さん 実際しばらくしたら、
モノは売り場に戻りましたよね。
糸井 戻りました。
まあ、でも、
食べものがなくなったら、
知らない人は騒ぎたくなりますよね。
PRさん 知らないと、怖いですよ。
食べものが消える!って。
糸井 だから、あのとき報道の人たちは、
「買い占めが起こっています!」
って言うよりも、
「みなさんが消費する分の
 生産量は間に合っているはずです。
 いま、モノが買えなくなっている理由は、
 少しずつ商品を置くという
 流通のシステムが原因だと考えられます」
というのを、落ち着いてふつうに
言ってくれたほうがよかったですよね。
山下さん なるほど。
糸井 ええと‥‥。
話がすこし逸れました。
PRさん そうですね、
首都直下型地震の話ではなくなっていました。
糸井 まあでも、
「食べものがなくなるんじゃないかと、
 必要以上に怖がらないで」
ということは言っておきたかったので。
山下さん そうですね。

(株)東京糸井重里事務所の災害対策【ポイント3】

□飲み水は、たいせつ。
 最低限の量を避難袋に入れておきたい。

□とはいえ都心で大災害が起きた場合、
 自動販売機やコンビニエンスストアなどで
 飲みものは手に入るので、
 多量の飲用水をたくわえる心配をしすぎない。

□食糧も、多くのたくわえは不必要。
 会社であれば、社員が1泊できるだけの
 非常食を常備しておくのが目安。

□ただし、飲み水も、食べものも、
 子どもがいる場合は備えを十分に。
 (数日過ごせる量を各自の判断で用意する)

(つづきます)

2011-06-14-TUE