──NHKの方にうかがいました #2 火災へのこころがまえと、お風呂の水を溜めておくこと
糸井 3月11日には、東京も揺れました。
でも、大きなビルの倒壊はなかったですよね。
山下さん 都心部で見ますと、
回復不能なまでの甚大な被害はなかったです。
あの大きな揺れに東京はけっこう耐えた、
ということが言えるんじゃないでしょうか。
糸井 あの規模の地震で、
あのくらい大丈夫だったという
例ができたとも言えますね。
山下さん そうですね。
糸井 火事もそれほど起こらなかったですし。
山下さん お台場で一部ありましたが。
糸井 あー、そうだお台場で。
PRさん 私は阪神大震災を体験してるものですから
あの風景がいちばん怖かったです。
糸井 そうですか、
神戸の震災を経験されているんですね。
PRさん 煙が出てるという状況で
神戸のことを思い出して、あの瞬間‥‥
「東京もぜんぶ燃えちゃうんじゃないか」と。
糸井 神戸を知っている方は、
その恐怖感がありますよね。
山下さん あの日、東京の住宅地で火災がなかったのは
ガス管の損傷がそれほどなかった
ということだと思います。
糸井 なるほど。
わが家の地味なケースですけど、
ガスが自動的に止まる仕組みが作動していて、
「助かった」と思ったんですが、
あれはいつの間にか
そういう仕掛けになってたんですね。
山下さん そうですね、安全装置が作動して。
でも、安全装置を解除して
もう一回点火したときに
火事になるケースはけっこうあるんです。
糸井 それは怖いですね。
山下さん 何かをやろうとしたら発火する
というのが怖いです。
電気もそうなんですけれど、
停電のあとに復旧して
ブレーカーを上げたときの漏電で
火事になるケースもあります。
糸井 ああ‥‥。
それはつまり時間でいうと、
揺れがおさまってからってことですね。
山下さん そうです、揺れのあとで。
糸井 阪神のときも、
そういう遅れ方で火事が起きたんですか。
PRさん そうですね。
神戸の地震は1月の朝だったので、
ガス暖房とか石油ストーブを使っている家で
やっぱり火事が発生して‥‥。
糸井 火の元に注意ということは
常識としてみんな持っていたはずですよね。
PRさん はずなんですけど‥‥。
「神戸は地震がこない」と
だれもが思っていたので。
糸井 そうか‥‥関西ってそうなんだ。
PRさん 避難訓練も、
火事の避難訓練はするんですけど、
地震の避難訓練はしなかったんですよ。
やったことがなかった。
私は東京に出てきてから、
地震のときにはドアを開けろとか、
机の下にもぐれっていうのを知りました。
糸井 ああ‥‥。
PRさん そういうのを学校で習ったことがなかったんです。
糸井 知識としての備えがなかった。
PRさん はい。
今はもちろん地震の避難訓練もやってますけれど。
糸井 そうですか‥‥。
いまの話を聞いただけでも
すこし備えられたように思えます。
「地震のあとのガスや電気には気をつける」
PRさん そうですね。
糸井 東京で直下型の地震が起きた場合の
火事のシミュレーションとか、
そういうものも出ているんでしょうか。
山下さん 「中央防災会議」で、
首都直下型地震が起きた場合の想定をしています。
マグニチュード7.3の
東京湾北部地震というのが起きた場合どうなるか、
というシミュレーションです。
糸井 それは東日本大震災よりも
ちいさな地震という想定ですね。
山下さん はい、東日本大震災はマグニチュード9ですから。
ただ、マグニチュードはちいさくても
直下型なので震源地が都心部に近い。
そういう地震が起きた場合は、
建物が85万棟倒壊して、
関東で死者が11,000人出るだろうと。
糸井 ‥‥はい。
山下さん 倒壊する建物の77%は火災で焼失。
11,000人の死者のうちの57%、
半分以上は火災で亡くなると
シミュレーションされています。
糸井 たまたまぼくは直感で、
「地震はそんなに怖くない、怖いのは火事だ」
と頭の中で決めてたんですけど、
そのくらいに思っていて
ちょうどいいかもしれないですね。
山下さん そうですね。
東日本大震災は
津波のおそろしさがわかった地震でしたが、
直下型の場合は
建物倒壊とともに、火災というものが
いちばん怖いのではないかと思います。
糸井 はい。
山下さん さらに、首都直下型の場合は、
消火の手が足りなくなることも
予測されています。
糸井 ああ‥‥。
山下さん 消防車がいくらあっても消せません
ということが見込まれている、と。
糸井 つまり、ある程度の火は
自分で消せたほうがいいと。
山下さん 必要以上の危険をおかすのはいけませんが、
消火器を使えるくらいには
なっておくべきでしょうね。
糸井 そうすると、
主婦の知恵みたいな話ですが、
「お風呂に水を張っておきましょう」
というようなことは、どうなんでしょう?
山下さん 家庭の備えとして水を溜めておくというのは、
これは重要だと思います。
糸井 そうですか。
山下さん ですが、火を水で消すとなると
たぶん無理だと思うので、
そこは期待をしないほうがいいですね。
PRさん 直下型だと、
断水で水が使えない状況になるので、
その意味で溜めておいたほうがいい
ということですよね。
糸井 なるほど、なるほど、
そりゃあ危ないですよね、
「風呂の水があるからバケツで俺が消してやる」
ていうのは。
山下さん そうですね、危険です。
PRさん 停電で水が使えなくなるケースもあるので。
糸井 そうか、ポンプで上げてるところは。
山下さん で、トイレの水が流れないってことになると。
糸井 溜めておいた水で助かるわけですね。
山下さん なのでお風呂の水を
常に溜めておいたほうがいいということは、
誰でもできることとして言えると思います。
糸井 山下さんのご自宅ではいかがでしょう、
お風呂に水を溜めている自信がありますか。
山下さん うちの妻は、溜めてますね。
ぼくが流すと注意されるんですよ(笑)。
妻は静岡出身なので、
東海地震に備えて
日頃の意識がやっぱり違うみたいですね。
ぼくは千葉だから、意識が低いと。
糸井 なるほどねぇ。
PRさん 静岡の人は叩き込まれてますから。
糸井 なるほど、なるほど。
そうすると、
「お風呂に水を溜めていない」
という家庭があるとすれば、
溜めない理由は単なるクセにしか過ぎないと
思ったほうがいいですね。
で、溜めるクセをつけたほうがいいと。
山下さん たいした手間ではないですから。
糸井 いいですね、
このくらいのことを明確に知りたいんです。
「そこまでしなくてもいい」ということと
「しておいたほうがいい」ということが、
みんな、ごっちゃになってるんですよ。
そうなると、
負荷がかかってぜんぶをやめちゃう。
だからこうして、
「お風呂の水は溜めておくべき」
ということをひとつ教わるだけでも
ありがたいですよね。

(株)東京糸井重里事務所の災害対策【ポイント2】

□東京で直下型地震が起きた場合、
 もっとも怖いのは建物の倒壊と、火事。

□地震がおさまったあとの
 火と電気の扱いには十分な注意を。

□災害に備えて
 お風呂の水を溜めておくことは重要。
 ただし、この水を消火に使うのは危険。

※乳児や幼児のいる家庭では、
 溜めた風呂水で子どもが溺れる危険があります。
 小さなお子さんがいらっしゃるご家庭の場合、
 お風呂に水を溜めることはおすすめできないことを
 書き添えさせていただきます。

(つづきます)

2011-06-13-MON