おいしい店とのつきあい方。

103 お店の情報とのつきあい方。その29
勝手に怒るお客様。

先日、しばらく顔を出していなかった
馴染みの店の近所まで来て、
ちょうど昼食どきだったから行こうと思いました。
開店時間にはまだ間がある。
とはいえ、どこかで時間を潰そうかと
いうほどの間でもない。
早めに行ってご主人に挨拶でもしようかと、
お店に向かう。
そしたらなんと、お店の前にすでに行列。
決して大きな店ではなくて、
今なら行列の最後についてやっと着席できるはず。
人気の店ではあったけれども、こんなコトはかつてなく、
どうしたんだろう‥‥、と思いながらも行列につく。
すかさずボクの後ろにも待ち人続々。
ちょうど後ろのサラリーマンのグループが、
こんなコトを言っていました。

「ここの店、
この界隈では珍しく、点数が高い店なんだよね。
前から来たくって、気になっていたんだよ」

そう言いながらスマホの画面を同僚らしき仲間に見せる。
何がおいしいんだ‥‥と仲間から聞かれると、
「これだけの点数だから何を食べても旨いんじゃないか?」
と言う。
あぁ、この人たちは
点数だけでお店選びをする人なんだ‥‥、
とそのとき思ったのでした。

SNSの点数をひとつの基準にするというのは、
決して悪いことじゃありません。
ボクも知らない街にいって何を食べようかと迷ったときに、
GPS機能に対応したSNSを立ち上げて、
点数順にお店のリストを表示させる。
けれどそこから真剣に、
しばらくどこの店にしようかと投稿内容を吟味します。
その吟味の基準こそが、SNSを使いこなす重要なモノ。
点数だけを信じてお店を選ぶと、
哀しい思いをする確率が非常に高い。

「いつまで待たせるのかなぁ。
果たして座れるんだろうか」
と、彼らはなかなかニギヤカです。

はじめて行くお店のコトを、
あまり調べず無垢な気持ちで行くのはいいコト。
事前に情報を集めすぎ、
知識をなぞるような食事をするのは
決して楽しいことではありません。
ですから、彼らのそういう姿勢は、悪くない。
けれど、行列です。
ヘタをすると一回転目に入れず、
一時間近くも待たなくちゃいけない店です。

そんなときに、並ぶ前、あるいはお店に行く前に、
何時から開店で何席くらいあるかは
チェックしておきたいところです。

果たして、SNSに書かれてある定時にお店は無事開店。
お客様を次々、店内に案内していく。
そして思った通り、ボクのところでほぼ満席。
2人客ならお店の中に入れたんだけど、彼らは3人。
ごめんなさい‥‥、ってコトになって、
彼らは落胆、そののちご立腹。
待たせた上にこの仕打かよ‥‥、と、
捨て台詞で帰っていきました。

ちなみにお店にはなんの落ち度もありません。
待たせたのではなく、
お客様と約束をした時間にきちんとお店を開けた。
そのときそこに並んでいた人たちは、
みんな自分の勝手な都合で待っていたのです。
だからそんな捨て台詞を吐く人たちこそ無礼千万。
謝らなくてはならないはずが、
お店の人が深々と頭をさげて、
「申し訳ございません」と謝る不思議。
飲食店とは、こういう理不尽がまかり通る場所に、
最近、なったのですネ。

おひさしぶりです‥‥、
とお店の人に手渡されたメニューをみて再びビックリ。
ランチのメニューの数が随分少なくなった。
しかもココの名物料理が姿を消した。
正確に言えば、メニューにはある。
けれど料理の名前の後に
(午後1時から、ご注文を承ります)と書いてある。

なるほどなぁ‥‥、と思います。
その名物料理は手間のかかる料理で、
どんなに事前に下ごしらえをしたとしても
提供時間が少々かかる。
お店の厨房の設備のコトを考えるなら、
一度に2人前づつくらいしか作れないモノで、
一度に沢山注文されると対応できなくなるのでしょう。
何しろ、ランチタイムはお昼休みの間に
食事を済ませなくてはならない人が多く来る。
昔、今ほどお店のランチに人が
押し寄せることがなかった頃には、
一組、そしてまた一組と
お客様が時間差をもって来てくれる。
だから満席になったときには、
最初のお客様の料理は出ている。
ユックリとしたペースで調理ができたのでしょう。
今では開店と同時にお店がいっぱいになる。
しかもおなじみさんが多いときには、
注文される料理は分散するものです。
名物料理ばかりが売れるわけじゃない。
ところが、点数をたよりに
はじめてのお客様が増えてるようになってくると、
ほとんどの人が名物料理を注文する。

結局お店に入れなかったあのムジャキなおじさんたちなら
何を食べても喜ぶのでしょうけど、
早くから来て並ぶ人たちは名物料理を食べに来る人。
その日もメニューを見て、
「あれを食べに来たのにないなんて」
と、怒って帰る人もいた。
そのときも、
「告知が行き届かなくて申し訳ございません」
とお店の人は平謝りです。
でも怒って帰った彼らを立腹させないよう、
その名物料理を提供しちゃうと
今度は一番最後に入ってきた人が立腹します。
なんでこんなに料理の提供が遅れるんだ‥‥、と。

地獄です。
ネットに溢れる情報の中で、
それでも有名になれないお店は地獄の経営。
けれど、有名になってしまったお店にも、
別の地獄が待っていたりする。
なんとかならないかしらと思います。
また来週。

サカキシンイチロウさん
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半径1時間30分のビジネスモデル』

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出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
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「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2017-03-16-THU