おいしい店とのつきあい方。

088 お店の情報とのつきあい方。 その14
日本の中国料理界は元気いっぱい。

最近、元気のある料理分野は何ですか?
って訊かれたとしましょう。
文句なくそれは「中国料理」と答えることにしています。
元気であるためには、新陳代謝がなくてはならない。
新しいお店が次々できて、しかもチェーン店ではない店。
つまり「独立開業でできたよい店」がたくさんあること。
それが「元気の証」で、そういう意味で、
中国料理は今、元気がある。

イタリア料理はすっかり停滞気味です。
一時期の人気から、店が増えすぎて飽和状態にあって、
独立開業が難しいという環境。
最近できるイタリア料理のお店は、
シチリア料理とかベネチア料理とか、
ある特定の地方の料理に特化したお店であるか、
あるいはステーキがおいしい店だとか
何か特別なテーマがなくては、
お客様の人気を獲得することが
むつかしい状態になっちゃっている。

フランス料理も同じ状況。
バスク料理やブルターニュ料理のような地方の料理。
シャルキュトリーと呼ばれる
加工肉に特化した料理に活路を見出そうと一生懸命。
今までの技術や経験が
まるで役に立たない状況にあるといっても過言じゃない。

にも関わらず、西洋料理は「分業」を前提とした調理体系。
すべてを学ばないと、応用が効かない。
だから変化に弱く、
自分ならではのオリジナリティを発揮するまでに
かなりの経験と実績がないと出来なかったりするのです。
この自己矛盾に業界全体が悩んでる。
それが西洋料理全般にいえる問題。

そんな中にあって、パティシエの世界だけは
分業が行き過ぎていない小さな世界。
熟練すればほとんどすべての調理工程を
一人でこなすことができる完結した世界なのです。
しかもお菓子作りは料理の中で、
もっとも「科学に近い」と呼ばれるほど、
「分量」「温度」「時間」の管理をしっかりすれば
失敗する確率はとても低い。
だから技術の習熟は比較的たやすくて、
経験よりもイマジネーションや
オリジナリティーが重要になる。
だから、若いパティシエのみずみずしい直感が
すばらしいケーキを作り出すことを可能にするのです。
だから独立開業も容易で、ただ唯一の問題があるとすれば、
手間にくらべて一個あたりの単価が安くて、薄利多売。
だから儲かりにくいというコトくらい。

中国料理が元気だと感じる最大の理由が、
若いシェフが次々独立して、
オリジナリティーに溢れるお店を作り続けているから。
それは、中国料理の厨房が
西洋料理の厨房とはまるで違った構造をもっているから。
調理人が育ちやすい厨房であるというのが理由。

何度も言及するように、西洋料理の厨房は
「分業」によって
料理を効率よく調理できるように設計されます。
冷たい前菜を作るのに適した清潔で大きなテーブルと、
下ごしらえした前菜用の食材を
保冷しておく設備が置かれた前菜厨房。
スープやソースを時間をかけて炊き続けるため、
大きな鍋を置いて作業がし易いような
低い位置に火口がおかれた仕込み厨房。
直火調理をするためのグリル厨房。
鍋で料理を仕上げるための厨房と、
それぞれの場所にその調理の担当者がいて、
料理長の仕事はそれらすべての厨房が、
ひとつのメロディーを奏でるために指揮すること。
日本の厨房では、すべての厨房を経験し
一人前であると認められないと
総料理長になれない仕組みになっている。
それはあたかも、すべての楽器を
一人前に演奏することができないと
指揮者になれない、というようなこと。
世界の常識から考えるとちょっと特異な慣習なんです。
(もちろん指揮者は、そんなことはありません。
すべての楽器が演奏できなくても、なれます。
もちろんすべての楽器のことを知っているでしょうし、
ピアノと、さらにもう少し楽器ができる、
という方は多いようですけれど。)

世界的に有名な調理師学校がいくつかあります。
その学校では、「調理長になるための教育」を
徹底してやる。
当然、いろんな厨房での作業を勉強しはするけれど、
それよりもいろんな厨房の組み合わせの仕方であったり、
食材の管理の仕方、お客様を料理で喜ばせる方法や
同時に利益をどうだすか‥‥、
といった勉強を徹底してする。
だからそこを卒業すると、
いきなり副調理長とかという役職について
キッチンの中のマネジメントを任される。
そういう学校を出て、世界のほとんど
どの国でも下働きをしなくていい、
というお免状を貰った人でも、
日本のホテルやレストランに入るとまずは下働き。
日本という国は徹底的に「飛び級を認めぬ」国‥‥、
なのかもしれない。

ちょっと横道にそれちゃいました。

それに比べて中国料理のキッチンは‥‥、
というのが本来の今日のテーマ。
分業が前提で中国料理の厨房仕事はできていない、
というのが答えではありますけれど、
じゃぁ、どうなんだ、
分業なんてしなくていい理由は一体どこにあるんだろう?
という話を来週にいたしましょう。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
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福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-12-01-THU