おいしい店とのつきあい方。

072 どこでも一緒? その17
「どう食べたらいいですか?」

前回、一皿によそわれた
料理の楽しみ方を説明するにあたって、
最初、だいたい、料理は右から左に食べるように
調理人は意図する…、というふうに説明しました。
それに対して、ナイフフォークを使って食べるとき、
左から右に向かって食べる方が正式ではないですか?
というご意見を頂戴しました。

ナイフフォークをもった人は右側から左側に食べ進める。
だから料理も右側から左側に食べて
おいしいように配置される。
軽快な味の料理は右手に。
左に向かっていくに従って重厚で、
濃厚な味になっていくようにつくられた料理を、
自然においしく味わうためには
お皿の置き方はとても大切。
(前回の最初の原稿です。更新後に訂正をし、
左と右を逆にして掲載しています。)

たしかにそう。
一つのお皿に一つの料理が盛りつけられているとき、
左から右に食べる方がうつくしい。
フォークを料理に突き刺して、ナイフを当てて切り分ける。
当然、フォークの右側にナイフを入れて切り分けたモノを
そのまま口に運ぶことが、合理的でもありうつくしく、
だから左から右に向かって食べ進めることが
テーブルマナーの基本と言える。

例えばステーキ。
サーロインステーキのように、
脂が多く含まれる部位と赤身だけの痩せたところが
一枚の肉に混在している肉の場合は、
脂身の多い部分が右側にくる。
最初から脂の多いところを食べてしまうと、
赤身の肉が味気なく感じてしまうからと、
そのように盛りつけられるのが普通。

ただひとつのお皿に幾つもの料理が盛り合わせられるとき。
前菜などで最近、流行りの盛り付けですが、
その際は右から左の順番で食べるとおいしいように
料理をアレンジすることが多くて、
それで「右から左に」という記述をしました。
過ぎた単純化と説明不足で、
誤解をうんでしまったようです。
ごめんなさい。

ちなみに念のためにと、
いろんな方に意見を聞いてみました。
フランス料理の名店のサービスのプロの方々や、
オーナーシェフ。
あるいは日本料理の大家の方と、さまざまの方。
皆さん、一様にこまってらっしゃった。

「今のテーブルマナーができたときから、
料理は随分、変わったからね。
だってかつてのフランス料理では、
いくつもの料理を一つのお皿に並べるなんて
しなかったもの。
一つのお皿の上には一つの料理。
それを食べるということは、
ナイフとフォークの動く方向に食べるということ。
だから左から右に自然に手が動いたものです」

いろんな料理が口の中でバラバラに主張されると困る。
調理人が設計し、作った料理を
設計者の意図の通りに食べてもらうためには
ひとつのお皿にひとつの料理。
それが長らく正統な料理の理想の姿だったのだけど、
時代が変わって一つのお皿に何種類かの料理を盛り付け、
同じ皿数のコースにおいて、
沢山の異なる味わいの料理を
たのしんでもらうコトがブームになった。
特に日本において、前菜料理は
何種類かの料理がひとつお皿に並ぶのが
当たり前にすらなってきた。

「2種類までなら簡単なんですよネ」

最初に食べてもらいたい料理をちょっと手前におけばいい。
右利きの人でも左利きの人でも、
自然と手前にある料理から食べてくれるから。
ところが3種類、4種類と料理を盛り付けようとすると、
これがむつかしい。
数多くの料理をお腹に収めて、
それでも次の料理をおいしく
たのしんでいただこうと思うと、
いきおいひとつひとつの料理のサイズは小さくなります。
見た目がうつくしくあることも前菜料理の重要なところ。
ナイフ・フォークではなく、フォークだけ。
あるいは特別のスプーンのような
片手で食べる道具で口に運ぶ料理が多くなる。
右利きの人は右手にスプーン。
だから右から左へ食べるというのが自然な食べ方。
カルパッチョとか生ハムのような、
一口大にあらかじめ切り分けられた料理も
右から左に向かって食べるほうが食べやすい。

かつてのテーブルマナーが通用しない時代になった。
それを、食事スタイルや料理のルールが
乱れてしまったと嘆く人が
料理、レストラン業界には沢山います。

「でも、だからこそ自分たちの腕の見せどころ。
一筋縄ではいかぬ現代の料理を
優雅にそしてうつくしく、
しかも的確にたのしむ方法をお客様にお伝えすること。
それがサービススタッフの腕の
見せどころなんだと思うと、
いい時代がやってきたのかもしれません」
と。

テーブルマナーは料理をおいしく食べるための
うつくしき作法の集大成。
時代が変われば料理がかわり、
それにしたがって食べ方、楽しみ方も変わって当然。
プロの知識を食べ手の知恵にすればいいんだ。
これ、どう食べるのが一番おいしくたのしめますか‥‥、
って、ちょっと一言。
コミュニケーションのいいキッカケに
なるのだろうとも思った次第。

今回、ちょっと寄り道しました。また来週。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-08-11-THU