おいしい店とのつきあい方。

066 どこでも一緒? その11動かさないでください!

お店の人に好かれたい‥‥、って思いますよね。
せっかくお店にいって食事をするのに、
ちょっとだけでも得したい。
値引きという意味での得じゃないんです。
いいサービスをしてもらったり、
お店の人しか知らない秘密を教えてもらったり。
今度、来るときに「いらっしゃいませ」じゃなくて、
「サカキさま、お待ちしておりました」
って挨拶してもらいたいとか、そんな「得」。

得させてもらうためにしなくちゃいけないことは、
まずお店の人に喜んでもらうこと。
このお客様、とてもステキで、うれしくなっちゃう。
そう、思ってもらえるように、
何か特別なコトをすればそのお返しに得をさせてもらえる。

例えば、お店の人が食べてほしいと思っているものを
注文する‥‥、なんていうのがひとつの方法。
お店の人を得させてあげる、というやり方ですね。
でもそれが行き過ぎると、
自分の食べたいものが食べられなかったり、
高いものを食べるはめになったり。
ステキなお客様ではなくて、
お店にとって「都合のいいお客様」になってしまう。
それじゃぁ、あまりに切なくて、そんなことと引き換えに
少々の得をしても仕方ないってコトになる。

一番簡単なのは、おいしい、おいしいと食べてあげるコト。
おいしければおいしいという表情をし、
おいしいと声に出し、
お店の人においしかったと伝えてあげる。
たのしそうに食事をしている人は、得をする人‥‥、
なのですね。
でも、それだけでは何か不十分なような気がして、
もっと積極的にお店の人のためになることを
してあげたくなる。
そこで思いつくのが、
終わった食器を片付けやすいようにしてあげる‥‥、
という仕事。

食器を下げるという仕事は、
さすがにお店の人のじゃまにもなるでしょう。
そもそも立ち上がらなくちゃいけないワケだし、
これみよがしに、お店の人の役に立っているんだよ‥‥、
って見せつけることになってステキじゃない。
食器を片付けやすいように整理するくらいなら、
座ってできるしさりげない。
だからせっせと、食器を重ねて
一か所にまとめておいたりするのです。

ボクも一時期、食べ終わるとなんでもかんでも
食器を一か所に積み重ねることに執着していたことがある。
大きなお皿の上に次々食器を重ねていくと、
キレイに収まったりするのですよね。
散らかったテーブルの上のモノが、ひとつに固まる。
料理を食べた満足感以上の、達成感を味わえたりして、
まるで食事をしにいくのじゃなく、
食器を重ねにお店に行ってるみたいな時期がありました。

ファミリーレストランのような店だと感謝されます。
理由は、ファミリーレストランの食器は、
重ねやすいように選ばれ、実際、
厨房の中ではうず高く積み上げられて保管されてる。
重ねやすい食器は洗いやすいのです。
食器洗浄機に入れて一気に洗えるうえに、
洗った食器は積み重ね最小のスペースに
最大枚数ストックできる。
高い家賃を食器を保管するために使うなんて
非合理的だからの工夫なんですネ。
だからお店の人の代わりに重ねてあげると喜ばれる。
当然のコトです。

ところが、お店によっては嫌われる。
嫌われるどころか、
「サカキさん、食器を勝手に動かすのは
 やめていただけません?」
って言われることすらある。
理由は、不用意に重ねてしまうことで、
食器が台無しになってしまうことがある。

漆器のようにデリケートな素材の器は
保管する時だって直接重ねたくないほど、
漆器同士が触れ合うことを好まない。
細かな細工や模様を描いたお皿はそもそも、
一枚一枚手洗いしなくちゃいけないほどに壊れやすくて、
重ねるなんてもってのほか。
食前酒を入れたグラスを飲み干して、
食べ終わった先付けの皿の上に乗っけた。
たまたまお皿の上に油が残ってて、
それとグラスが触れ合った。
油にまみれたグラスをキレイに磨き上げることほど
むつかしいことはないのです。
だからやめてと叱られて、
なるほどそうだ、とそれからボクはほとんど
食器を動かさぬコトにしています。

お店の人が食器を下げる。
お客様にしてみれば、
快適な食事を継続させるサービスとしてそれを捉える。
けれどお店の人にしてみれば、
食器を下げた先の仕事が実は大切。
お皿を洗い、乾かして、磨き上げたら収納をする。
その大切を的確に、そしてできるだけ
効率的に仕上げるために食器を下げる。
テーブルの上の整理、つまり中間バッシングは、
どこでどのように洗われて、
どのように収納されるのかまで考えてする。
それができないのなら、お店の人にすっかり任せる。
‥‥、というコトだろうと思うのです。

さて、食器。
「動かさないでくださいネ」と言われる食器。
本当に、動かしちゃだめなものか
来週考えることにしましょう。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-06-30-THU