#10ピーター・ティールと糸井重里の対談:使命感(Sense of mission)

糸井
お話をうかがっていると、
起業家、投資家というよりは、研究者が
成果を話しているように聞こえます(笑)。
たとえば、ティールさんが
起業したり投資したりするときに
自分の研究や仮説を証明しようとしている、
みたいに感じることはないですか?
ティール
動機について話すのは、いつも難しいですね。
自分自身で、自分の動機、
なぜ自分がこういうことをしているのか
ということをあまり意識していませんから。
「Why?」で始まる質問は、
たいてい答えにくいものです。
ちょっと間接的な答えになってしまいますが、
私は、単にお金儲けだけを目指すビジネスには、
心を突き動かされることがないんです。
もっとも成功したビジネスやベンチャーは、
「なにか重要なものに懸けている」、
「組織を超越した意義を追求している」、
という気がするんです。
PayPalの仲間、イーロン・マスクが、
スペースX
(宇宙輸送を業務とするベンチャー企業)
という会社をはじめました。
なぜ彼がスペースXをはじめたかというと、
火星に人を移住をさせるためなんですね。
なぜ人を火星に移住させることが重要か。
地球でなにかまずいことが起きたときに、
惑星がもうひとつ必要になるからだと言うんです。
それが一番大切なことなのか、
議論の余地はありますよ。
でも、この考えに大いに意義を感じ、
意欲をかき立てられた宇宙工学の科学者たちが
実際にいるんです。
彼らは、ほかのどこで働くよりも、
スペースXで働きたいと思っているんです。
偉大な企業、偉大な非営利団体、偉大な活動には、
必ず「sense of mission」、
つまり「使命感」があります。
自分たちがやらなければこの問題は解決しない、
という信念です。
ある問題を解決しようとするとき、
ほかにも大勢の人が取り組んでいるから、
そのうち誰かが解決してくれるだろう、
と思うのでは、意義を感じませんし、
モチベーションが湧きません。
「自ら成し遂げなければ!」
という使命感があるほうが、
ずっとモチベーションが上がります。
そういう「使命感」を持っているビジネスの方が、
より成功すると私は考えています。
もちろん、バランスは大事で、
使命感だけでは間違えてしまいますが、
向こう3ヵ月の利益だけを求めるのは
短期的すぎますし、わくわくしません。
アメリカの企業、とくに上場企業は
短期志向になり過ぎです。
ウォール街の期待に応え続けるうちに、
大切なものを見失っています。
使命感と、利益と、両方とも達成するような
バランスが必要だと考えています。
糸井
いまは、利益を追い求める企業のほうが
圧倒的に多いわけですね。
ティール
そうですね。
利益を求めない企業は、いずれつぶれます。
ですから、利益を追い求めることを
決して否定するわけではありません。
しかし、どこかで、ビジネスにおける
利益追求が企業にとって「重要なこと」なのか、
それとも企業にとって「すべて」なのか、
それについて考えるべきだと思います。
糸井
うーん、なるほど。
ティール
たとえば、利益を生むことは重要ではない、
お金には関心がない、
という企業に対して、私は投資はしません。
そういう企業はすぐに
つぶれてしまうと思うからです。
利益を生むことについて、
企業はしっかりと考えるべきだと思います。
利益が、「重要」なのか。
それとも、「唯一の目的」なのか。
一流とされる企業では、利益を追い求めることを
たしかに重視しているけれども、
そのほかにもいろいろな使命があると思います。
糸井
「利益は重要だがそれがすべてではない」
というバランスが大切なんですね。
ティール
そう思います。そして、
「利益は重要だがそれがすべてではない」
という企業に共通する特徴は、
実質的に独占企業であるということです。
糸井
あーー。
ティール
つまり、利益追求以外のことができる
バッファ、余力があるんです。
Googleには
「don't be evil(悪は行わない)」
というスローガンがあります。
宣伝用の文句だという批判はありますし、
そうした面があると私も思いますが、
同時にこれは、Googleが
すばらしい独占事業を行っていることの
表現でもあるんです。
ものすごく稼いでいるから、
お金ことばかり考えなくていい。
もし、もっと競争の激しい事業だったら、
お金のこと以外、考えられないでしょう。
利幅がどれくらいか、頭から離れない日はない、
一日でも目を離したら倒産です。
糸井
なるほど。
違うテーマになりますが、
いま、アメリカの若い人たちが、
大きな企業に勤めるという目標のほかに、
非営利団体に自分の職場を求める
という傾向があるそうですけど、
非営利団体についてはどんな考えをお持ちですか?
ティール
すべての問題が営利事業で
解決できるとは思っていません。
非営利目的の、行政、大学、
そしてNPOといった活動が
解決していくべき課題もありますね。
たとえばさまざまな分野の「基礎研究」。
収益化するまでには時間がかかりすぎて、
ものになるかどうかもわからない。
そういった基礎研究は、規模の大小を問わず、
営利事業には向かないかもしれません。
たとえば、私は、個人的に、
老化を止められないか、
人間の寿命を延ばせないか、
というテーマに関心を持っています。
これは、見方によっては、
まだ十分に探求されていないテーマで、
一般的に思われているより
はるかに研究が進むポテンシャルがあると、
私は信じています。
そういった分野での取り組みは
非営利事業のような面もありますね。
しっかりとした基礎研究が必要で、
利益を生むまで何十年もかかるかもしれない。
そういった取り組みは、
非営利的な文脈で運営することが大事です。
また、非営利の文脈で
私がよくする逆説的な質問は、
「誰も支援していない大義はなにか?」
というものです。
糸井
ああ、そこも逆説的に考えることが
できるんですね。
ティール
そうなんです。
というのも、私は寄付の依頼を受けることが
よくあるのですが、
そのとき、すぐに了承するのではなくて、
「なぜこの活動は人気がないのですか?」
と質問するようにしています。
もし人気のある活動なら、
私に寄付を依頼するまでもなく、
すでに十分資金を獲得できているはずです。
ですから、私は、
「よい活動なのに人気がないもの」
を支援したいのです。
気をつけなくてはいけないのは、
人は重要な課題を解決するために
非営利活動をやっているのではなく、
社会的な栄誉、周りに褒められるからやってる、
というリスクが潜んでいるということです。
ですから、やはり、
「使命感(Sense of mission)」
はどこでも、ほんとうに大事です。
営利事業でも、非営利活動でも、
「いま取り組んでいる課題は、
 自分や、自分の会社や団体が
 手がけなければ解決しないんだ」
という感覚があると、
非常にモチベーションが高まります。

(つづきます)

協力:株式会社タトル・モリエイジェンシー
2015-04-30-THU

書籍紹介

ZERO to ONE
ゼロ・トゥ・ワンー君はゼロから何を生み出せるか

ピーター・ティール

出版社:NHK出版
定価:1600円+税
ISBN-10: 4140816589
ISBN-13: 978-4140816585

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