第6回 説明なしでもわかるものを作りたい。


コクヨさんに素朴な質問をぶつけてきた連載も、
今日をもって終了です。
最後は、田中さんに、ものづくりのさい、
「何を大切にしているか」について、聞きました。
糸井重里の考えとも重なるような、お話です。
ほぼ日 ほかに、田中さんの手がけた製品はというと‥‥。
田中 ええと、じゃあ、一種の「テープのり」なんですが、
塗った面が「ツブツブ状」になる
「ドットライナー」という商品を、つくりました。


ほぼ日 はー‥‥、のりがドット状に。
田中 今までの「テープのり」は、塗った「のり」が
ねちょーっと糸を引いてしまって、
キレの悪いところが大きな欠点だったんですね。

お客さまからのご意見やクレームも見てても。
ほぼ日 でも、この商品は、そんなことないですね。

すーっとのりが引けて、糸を引かないし、
なんと言いますか、やってておもしろいです。
田中 そうそう、おもしろいでしょう?
こっちは、もっとおもしろいんですよ。

「ドットライナー ホールド」というんですが、
「紙の端っこにうまく塗れる」んです。

こうしてグッと挟んでスッと引くと‥‥ほら。

ほぼ日 あはははは、おもしろーい! 

‥‥のりを塗ってるだけなのに
おもしろく感じるのはなんでだ?(笑)
田中 のりって、封筒の口に塗るとか、
紙の「端っこ」に塗ることが多いんですね。
ほぼ日 たしかにそうですね。言われてみれば。
田中 看護婦さんがカルテを管理するときって
1枚1枚、
上から貼って、増やしていくんですって。
ほぼ日 へぇ。
田中 病院ですから、あまりまわりを汚したくないし、
端っこにうまく塗れる
テープのりがあったらいいなって意見が、
リサーチなどをすると、聞こえてきたんです。

そういう声なども参考にしながら、
開発した商品なんですけどね。
ほぼ日 開発というと、どれくらいかかるもんなんですか?
田中 えーっと、このドットライナーは、だいぶかかりました。
2年から3年くらい‥‥でしょうかね。
ほぼ日 きっかけは、クレームからですよね。
ベタっと糸を引くのがイヤだという。
田中 ええ。
ほぼ日 その問題をちゃんと解決したのみならず、
ちょっとこれ、おもしろいですもんね、塗るのが。
すいません、何回も言っちゃいますけど。
田中 ええ。いちど使ってもらえたら、
なんだか気持ちがいいとか、塗ってて楽しいとか、
思ってもらえることの多い商品です。
ほぼ日 ははー‥‥。
さらにこれ以上、進化するんでしょうか。
田中 はい?
ほぼ日 いや、のりって、
これ以上、開発の余地があるのかなと思って。
田中 おまえ、この先、どんなのりをつくる気かと(笑)。
ほぼ日 いやいや(笑)、こういうのを見せられると、
なんかやりきっちゃった感も、あるような気が‥‥。
田中 うーん‥‥僕は、そうは思っていませんね。

もっと手軽に、とか、
もっと便利に、もっと快適に‥‥というイメージで
考えていくと、
まだ「この先ののり」って、あると思います。
ほぼ日 そうですか! なんかそれは、嬉しい答えです(笑)。

‥‥でも、なるほど、紙を挟んだときに、
このローラーがあるから、紙の上を滑るわけですね。
田中 余談ですけど、これ、2本めのローラーが
ほんのすこーし傾いてるのが、ミソなんです。

わかります‥‥?

ほぼ日 え? あ‥‥ほんとだ!

かなり、かすかな角度ですが、斜めっぽくなってますね。
1本めはまっすぐと言うか、水平なのに。
田中 両方とも水平にしちゃうと、
引いていくうちに、紙の外側へ外れちゃうんです。
ほぼ日 へぇ、そうなんですか。
田中 角度にしてほんの5度くらいなんですが、
2本めに傾斜をつけることで、
引いたときに、
紙の内側へむかう力がはたらくんです。
ほぼ日 あ、それで外れにくくなると。
田中 発売直前まで真っすぐだったんです。
ほぼ日 え、ギリギリで気づいたんですか?
田中 企画の担当の社員が、
いろんな商品紹介の場面で
デモンストレーションしながら
説明するんですけど、
どうも、うまくいかないことが多くて。
ほぼ日 危なかったですねぇ。
田中 で、何とかしなければと思って、
企画・開発メンバー共同で考えてくれて、
2本めのローラーを、ちょっとだけ傾けてみたら
飛躍的にうまくいくようになったんです。
ほぼ日 はー、その発見は、すごいですね‥‥。
田中 そのあたりが、文具の開発の楽しさなんですよ。
ほぼ日 あ、聞きたいです、聞きたいです。
田中 いや、決してハイテクを使ってるわけじゃなく、
小さなアイデアなんだけど、
それを足すだけで、すごく良くなることがある。


ほぼ日 なるほど。文具の売り場が楽しかったり、
文具の話をしてると盛り上がるのは、
些細なんだけど「なるほど〜」という工夫が
小さなモノのなかに
いっぱい詰まってるからかもしれませんね。
田中 まあ、僕らは職業柄、
何かを見たら、つねに何かは思うんですよ。

これ、ちょっと堅いな、とか、
もう少し、小さくできるかもな、とか
もっと楽にできればいいのに、とか‥‥。
ほぼ日 ちょっとした違和感に、敏感なんでしょうね。

へー‥‥じゃあ逆に、
これ以上ないなっていう文具は、ありますか?
田中 これ以上ない‥‥。
ほぼ日 進化しきってるというか。
田中 あんまりそういう視点で見てないんで。
ほぼ日 世のなかにあるものを
つねに「もっとよくなるはずだ」と思って見てる?
田中 そうですね。
ほぼ日 何かしら、あるだろうと。
田中 何かないと困ると思ってるくらいですので。
ほぼ日 なるほど‥‥それじゃあ最後に、
田中さんの「ものづくり」の信条といいますか、
大切にしていることがあったら、
ちょっとでも、教えていただきたいのですが。
田中 それは、いちばん初めにお話したことですね。

つまり、なんにしても「商品」って、
一生懸命に説明すると
いろいろと分かってもらえるんですけど、
多くの場合そんな機会はなくて、
商品は商品だけで、店頭に並んでしまう。
ほぼ日 説明なしに。
田中 だからこそ、説明や広告なんかなくても、
お客さまがパッと見ただけで「それがなんなのか」を
きちっと伝えられるような商品を作りたい。

そこに、こだわっていきたいと思っています。
ほぼ日 ほー‥‥。
田中 その商品が棚に並んでいるだけで、
その商品みずから、
自分のことを、説明してくれるような商品。

そういうものを、作っていかなきゃなと。
ほぼ日 糸井重里がずっと言ってることと似てますね。
田中 ほんとですか。
ほぼ日 はい。糸井の表現を借りると、
商品に広告を練り込むんだってずっと言っていて。

広告する必要もないような商品ができたら、
それが理想の商品じゃないか、というような意味で。
田中 あー、なるほど。たしかに、そうですよね!

たまーに、店頭の調査に行くんですけど、
僕の商品を
手にとってくれてるお客さまが、
棚に戻しちゃう場面に出くわしたりするとね、
「ちゃんと伝わったのかなぁ」
なーんて、考え込んじゃうんですよ(笑)。

ほぼ日 でしょうね。
田中 伝わって戻されたのなら、まだいいんですけど。
そもそも伝わってなかったら、悔しいですから。
ほぼ日 いや‥‥今日は、ありがとうございました。
すごく、おもしろかったです。
田中 こちらこそ、ありがとうございました。
ほぼ日 次は、どのあたりを狙ってるんですか?
田中 そうですね、僕いま粘着系に凝ってるんで‥‥。
ほぼ日 粘着系に凝ってる。
田中 ええ、
さっきのテープのりとかのことですけどね。

やっぱりそのあたりで
新商品を開発したいなあと思っています。
希望としては、海外でも売れるような。
ほぼ日 海外に進出ですか!
田中 いや、そんな大それたことじゃないですけど、
さっき話に出た「直感的にわかる便利さ」って
言葉が通じなくても、
じゅうぶんに通用する感覚だと思うんですよ。

ほぼ日 なるほど、なるほど。
田中 それにね、海外の人って、
何でもホッチキスで止めることが多いんです、
見てると。
ほぼ日 そうなんですか?
田中 えー、そんなちっちゃい紙切れまで?
なんて思うくらい、何でも。
ほぼ日 へぇー。ホッチキスで。
田中 それにとって代わるような、なにかを。
ほぼ日 なにかを。
田中 粘着系で。
ほぼ日 粘着系で(笑)。楽しみにしてます!
  <終わります>

※コクヨさんのお話をうかがった連載は、
 今日で終了いたします。

 ご愛読、ありがとうございました!
2009-05-13-WED
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(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN