大向う(おおむこう)って、ごぞんじですか? 歌舞伎の、ここぞという場面で、 「なかむらやあっ!」とか「おとわやあっ!」 などと声を掛ける人、それが大向うです。  お芝居を盛り上げるあの掛け声は、 いったいどんな人が発しているのでしょう? どうやったら大向うになれるの? そもそも大向うって、お仕事? 趣味? 好奇心はとまらず、ついにその、 大向うの人にお会いできることになりました。  ご登場いただきましょう、堀越一寿さんです。 まってましたっ!!

第1回 訊きたいことがありすぎて。

ほぼ日
もうとにかく、お会いできてうれしいです。
‥‥そうですかぁ、
こういうかただったんですね。
堀越
ええ、まあ、こういう(笑)。


ほぼ日
すみません、いきなり。
何度か歌舞伎を観にいったんですが、
声を掛けている人の姿を
ぜんぜん見つけられなかったんですよ。
堀越
私らはいちばん後ろの席で観てますので。
ほぼ日
いちばん後ろで。
だからわからなかったんですね。
堀越
舞台上の役者さんから見て、
いちばん向うにいるから「大向う」と。
ほぼ日
はあ〜、なるほど。
堀越
大向うの「大」は、立派なという意味の
「大」なんだそうです。
と私が言うのもへんですが(笑)。
まあ、「大相撲」の「大」といっしょだと。
見る目のあるお客さんが
いちばん向こうの席にいるから、
その「向う」に「大」をつけて
大向うと呼ぶようになった、と。
ほぼ日
敬意を表して。

そういえば「大向うをうならせる」
という言葉がありますが‥‥
堀越
「通な人さえも感嘆させる」
という意味ですね。
現代でもつかわれている慣用句です。
ほぼ日
そうだったんですか、
あれは歌舞伎からきた言葉だったんですね。
堀越
でも大向うの語源には、
また別の説もあるんです。
ただ単に「どん詰まり」にいるから、
大向うと言うようになった、という。
ほぼ日
そうですか、そんな説も。
いや、すでにおもしろいです。
どうしましょう、何からうかがえば‥‥。
訊きたいことがありすぎて(笑)。
堀越さん、お勤めは?
堀越
会社勤めですね。
都内の電気機器メーカーで働いています。
ほぼ日
ということは、
大向うはお仕事ではない。
堀越
もちろん違います(笑)。
趣味ということになりますね。
ほぼ日
おいくつでいらっしゃいますか?
堀越
いま39で、
2010年に40になります。
ほぼ日
あ、お若いんですね。
大向うの人というのは、
もっと年配の方だと勝手に思ってました。
堀越
私の場合は、
だいぶ若いころに入れていただいたので。
ほぼ日
ん? 大向うというのは、
「入れていただく」ものなんですか?
堀越
そうです、
「会」に入れていただきました。
ほぼ日
大向うの「会」があるんですね。
堀越
あります。
私が所属しているのは「弥生会」。
東京にはあと「寿会」「声友会」があります。
大阪、名古屋、九州にもひとつずつ。
ほぼ日
東京に、大向うの会が3つも。
堀越
昔の歌舞伎座には、もっとたくさん
ちいさな会があったんだそうです。
自称・大向うという人がいっぱいいて、
とにかく「大向う」と名乗れば
入れちゃう時期があったそうで。
ほぼ日
入れちゃう、というと?
堀越
木戸銭御免(きどせんごめん)ですね。
木戸銭というのは、芝居を観る料金です。
ほぼ日
それが御免ということは‥‥
ただで観られる?
堀越
そうです。
ほぼ日
それは今でも?
堀越
はい。
会に入っていれば木戸銭御免です。
いちばん後ろの通路で立ち見ですが。
ほぼ日
へええ〜、そうなんですか。
堀越さんが所属する弥生会さんは、
何名いらっしゃるんですか?
堀越
いまは、12か、13人かな。
ほぼ日
平均年齢はどのくらいで?
堀越
ええと‥‥たぶん、
60歳くらいじゃないでしょうか。
ほぼ日
やはり堀越さんがいちばんお若い。
堀越
いや、私より若い人がひとりいます。
それでも32、3歳ですけど。


ほぼ日
なるほど。
──ちょっとここで、
そもそものお話になるのですが、
大向うというのは、
昔から歌舞伎とセットで
あったものなのでしょうか?
堀越
そうですね、
かなり前からあったのではないかと思われます。
ただ、400年前から
あったかどうかはわかりませんが。

そもそも日本人は舞台を観て感動したときに、
「拍手をする」というよりは
「囃す(はやす)」というのが
普通だったらしいんです、どうやら。
やんや、やんやと囃し立てる。
それがだんだん洗練されてきて、
屋号などを掛けるようになったんじゃないかと。
ほぼ日
「中村屋」とか。
堀越
ええ。
江戸のころ、芝居をやっている人に
名字はありませんでしたからね。
「おれはあの役者の屋号を知ってるんだぜ」
という「芝居通」としての
自負心も満足させられたようですし。
ほぼ日
なるほど。
堀越
今のコンサートとかライブでも、
1曲終るとワーッていうのはありますよね。
ほぼ日
はい。アイドルが出てくると、
「何とかちゃーん」っていうのは、
ちょっと前まではよくありました。
堀越
いや、今でもあるでしょう。
木村カエラとかのライブに行くと
「カエラちゃーん」とかってやってますよ。
あれと同じなのかな、と。


ほぼ日
なるほどー。
堀越
いずれにしましても、
感動したお客さんが思わず声を出したことから
大向うが始まったということは、
まず間違いないと思います。
(つづきます)

堀越さんの いろいろな掛け声
インタビューが終了してから、
実際に堀越さんのいろいろな掛け声を
「ほぼ日」の和室で録音させていただきました。
毎回ひとつずつ、ここで聞いていただけます。
※威勢のいい音がしますので音量にご注意を。

其の一 中村屋
ほぼ日
非常にやりづらいとは思いますが、
お願いします(マイクを向ける)。
堀越
ちょっと心の準備が(笑)。
ほぼ日
そうですよね、すみません(笑)。
堀越
とりあえず立ちますね(立つ)。
ほぼ日
はい、いつものスタイルで。
堀越
‥‥マイク、近くないですか?
ほぼ日
大丈夫です。
堀越
歌舞伎座くらいをイメージして‥‥。
とくに前ぶれなくやっていいですか?
ほぼ日
はい‥‥。
堀越
じゃあ‥‥‥‥


ほぼ日
ぅうわああああーーーー!
(大拍手)
すっごおーーい!!
(大拍手)
これ、これですよ!!
(こちらも、つづきますっ!)

2010-01-15-FRI

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