第7回 感動を声にのせれば大丈夫。
ほぼ日 ここまで大向うのお話をうかがいまして、
たいへん興味深かったです。
堀越 そうですか。
ちゃんとお話しできたかどうか。
ほぼ日 ほんとに、おもしろかったです。

それで、最後にですね、
これはおまけのようなものに
なるのかもしれませんが、
大向うの堀越さんから
「歌舞伎の楽しみかた」を
教えていただけるとうれしいのですが。
堀越 「歌舞伎の楽しみかた」ですか。
ほぼ日 はい。
正直なところ、歌舞伎というのはちょっと
まだまだ敷居が高いといいますか、
何度か観にいったのですが、
実は居眠りしてしまったこともあって‥‥。
楽しみかたを、もっとちゃんと知りたいなあ
と思っていたんです。
まだ観たことのない人たちにも
ハードルを下げてあげられるような、
アドバイスがあれば‥‥いかがでしょう?
堀越 そうですね、何といいますか‥‥
「わからなくてもいいかな」って、
最近ぼくは思っているんです。
理解しなくていい。
けど、「泣ける人」にはなってほしい
という感じがあって。

ほぼ日 泣ける人。
堀越 たとえば大向うに必要な資質って、
けっきょくは芝居を見て感動できる人かどうか、
というのがとても大切だと思うんです。
詳しい人は別にいらないというか。
それは劇評家にまかせておけばいいというか。
「歌舞伎をわかる」人よりは
「歌舞伎で泣ける」人の方が
大向うに向いている気がします。
そしてそれはそのまま、
歌舞伎を楽しむための資質だと思うんですよ。
「わかること」と「感じること」は
たぶん違うじゃないですか。
ブルース・リーが、
たしかそんなことを言ってましたよね?
ほぼ日 ええと、「考えるな、感じるんだ」。
堀越 そうそう、
それはほんとうにそうだなあと。
ですから歌舞伎に関しては、
「セリフがわからないから楽しめない」
と思い込むのは、やめたほうがいいと思います。
だって映画を観に行っても、
洋画の字幕って、ものすごく情報が
トリミングされてるじゃないですか。
ほぼ日 ああ、そうですね。
堀越 でも、ぜんぶわかんなくても、泣けますよね?
英語の歌詞だってそうです。
もっと言えば、
フランスの歌だって感動できますでしょ。
英語ならまだ断片が理解できても、
まったくわからないフランス語でも伝わる。
つまり、ぜんぶの情報がなくたって、
目に入ってくる美しさや、
役者の表情を感じるだけで、
ずいぶん楽しいんです、歌舞伎は。
「この役者さんは今、どうやら悲しいらしい。
 何で悲しいのかな?」
そんなふうに思いながら観ているだけで、
最初はいいんだと思います。
そうすると、わかろうとはしなくても、
「あ、もしかすると‥‥」
っていう発見があったりするんです。
自分なりに答えが見つかれば、
それが間違っててもいいじゃないですか。
「なるほど」って感じることで、
どんどん楽しくなってくると思いますよ。
ほぼ日 最初からすべてを理解しようとせずに。
堀越 「感じる」ことが第一だと思います。
ちゃんと「感じる」ためには、
やはり優れた役者を観たほうがいいですね。
自然と感情移入をさせてくれますから。
その意味では、
最初から「本物」を観るべきだと
ぼくは思います。
「歌舞伎鑑賞教室」も若手が頑張っているので
それはそれで魅力はあるんですけど、
やはり「本物、本格から」をすすめます。
ほぼ日 というと、
「歌舞伎座」とか
「シアターコクーン」などで観られる、
歌舞伎などがそれでしょうか。
堀越 そうですね。
「歌舞伎座」は2010年の4月から建て替えのため
しばらく休館になりますけど、
新橋演舞場をはじめとして、
本物の歌舞伎は探せば出会えるはずですので。
「歌舞伎美人(かぶきびと)」という
松竹さんの公式歌舞伎サイトにいけば、
公演情報も確認できて便利ですよ。
ほぼ日 なるほど。
あと、演目はどういうものを観れば‥‥。
堀越 演目の選び方はやっぱり大事です。
人によって感動のツボは違うと思うんですよ。
最初にツボじゃないものを観ると、
「私は歌舞伎とそりが合わない」となっちゃう。
それはもったいないですよね。
ですから最初は、何パターンかの
「本物」を観てみることです。
我慢してでも3カ月くらい。
いちばん安い席でいいですから、
昼夜、昼夜、昼夜で3カ月観る。
それで一通りのパターンを網羅できるはずです。
その中で自分のツボに合ったものがあれば、
そこを中心に次から演目選びをしていく。
これがたぶん、泣けるコツじゃないでしょうか。
ほぼ日 そうして本当に泣ける瞬間に出会ったら、
声を掛けてみるのもオーケー、と。
堀越 そうですね、勇気とタイミングで(笑)。
自分の感動を声にのせれば大丈夫。
技術はあとからついてきます。
私は、いい掛け声というのは、
役者さんの芝居が
引き出してくれるものだと思っています。
その芝居に引き出されるように、声が出てくる。
それが「本物」なんじゃないかなぁ、と。
ほぼ日 ‥‥はい。
ありがとうございました。
堀越 こんなお話でよろしかったでしょうか。
ほぼ日 いや、もう、すばらしいです。
大向うのいろいろな謎がわかって、
すっきりしました。
堀越 そうですか、謎が(笑)。
ほぼ日 ほんとにずっと疑問だったんですよ、
どんな人が、どんな経緯で、
もう、どうなってるんだ? と(笑)。
顔を見に探しに行ったんですけど、
見つからなくて。
堀越 みんなね、逃げるんですよ(笑)。
幕が閉まると同時に。


ほぼ日 そうですかぁ‥‥
でも今日はお会いできてよかったです。
ありがとうございました!
堀越 ありがとうございました。
(つづきます!)

堀越さんの いろいろな掛け声
インタビューが終了してから、
実際に堀越さんのいろいろな掛け声を
「ほぼ日」の和室で録音させていただきました。
毎回ひとつずつ、ここで聞いていただけます。
※威勢のいい音がしますので音量にご注意を。

其の七 神谷町
堀越 じゃあ「神谷町」。
七代目・中村芝翫(しかん)さんの
場合は‥‥


ほぼ日 ああ‥‥。
堀越 神谷町さん、芝翫さんは女形さんなので、
今のように強く掛ける場合もあれば、
もうちょっと弱く掛けることもあります。
  (次回は最終回、
 録音した掛け声を
 完全版でご紹介いたします!)

2010-01-25-MON


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN