##19 ブイヨンは速すぎて。

講師

菅原 「モギさんが得意な写真があるとか」

司会

シェフ 「どうしてもうまく撮れない
 被写体があるのです」
山下 「ああ‥‥
 それはぼくもうまく撮れません」
「それが、なぜか、
 わたしは撮れるんです!」
シェフ 弊社にときどき出勤する
「ブイヨン」という犬がおりまして。
菅原 もちろん知ってます。
かわいいよねえ。
山下 そのすがたは糸井重里の
「気まぐれカメら」
日々、紹介しているわけですが。





シェフ これはぼくらには撮れないよねえ。
会社に来たときのブイヨンは
糸井さんちにいるブイヨンとは
やっぱりちがうわけで。
山下 それで、われわれも、
ブイヨンが出勤すると
写真をとるわけですが、
遊びたいというのと、
落ちついていられる場所がないので
わりと、動いてますよね。
糸井さんの写真のようには
じっとしてないですし
カメラのほうを向いたりも、
しませんよね。
シェフ あれは、カメラのほうを
向いているというより
糸井さんのほうを向いてるわけだもんね。
菅原 ふむふむ。
シェフ で、こういう写真に
なっちゃうわけです。





山下 糸井さんのように
撮りたいわけじゃないんですけど
せめて、もうちょっと、ねえ‥‥。
シェフ それで今日のお題ですが、
「コンパクトカメラで、
 走っているブイヨンを撮るには」です。
菅原 なるほど。
あの〜。
はいっ。
わたし、けっこう、
撮れてるんだけど。
ああっ!
山下 そういえば‥‥
ほら。



菅原 ブイヨンらしい動きが
撮れていますね。
撮れてますね‥‥。
菅原 これはね、撮りかたにコツがあるんです。
モギさんはそれがわかっているんだね。
シェフ どんなふうに撮っているの?
や、ただシャッターを
押してるだけです〜。
シェフ そんなわけない。
菅原 教わったことはない?
ないですー。
最初は、撮れなかったんですよ。

それが、あるときから
撮れるようになって。
菅原 そしてその理由を、
モギさん自身は知らない、と。
わかりません。
シェフ ちょっと構えてみてよ。
ブイヨンいないじゃない。
シェフ 山下さんが走るから。
山下 えっ!
菅原 ははは、そうするしかないか。
カメラを構えるモギさんの前を
山下さん、駆け抜けてみてください。
モギさんは、いつもブイヨンを撮るように
撮ってみてください。
山下 じゃあ、い、いきますよ‥‥
せやーっ!(猛ダッシュ)
どたどたどたどた。
ほいきた!
(GRを構えて撮影)

よっ!

はっ!

山下 (壁にぶつかる)
うはぁ、ぜいぜいぜい‥‥
あたまいたい、あたまいたい。
酸欠です。
シェフ そんな、5メートルのダッシュで。
菅原 できあがりをみる前に、
逆をやってみましょう。
山下さんが構えて
モギさんが走ってみてください。
は〜い。わたし短距離得意。
いきますよ〜!!
よっ!
たたたたたたたたた!

山下 は、おっ、えっ、あの‥‥
(息切れせずに)撮れた?
山下 なんとか、シャッターはおしました。
シェフ くらべてみよう!
まずはわたしの撮った山下さん。

シェフ すごっ! よく撮れるなあ。
菅原 ばっちりじゃないですか。
山下 じゃあ、ぼくの撮ったモギさんを‥‥

シェフ これは‥‥
菅原 フレームからはみ出たうえに
ぶれちゃってますね。
山下 めんぼくないです。
菅原さん、これはなぜですか。
はぁはぁ‥‥(まだ息切れ)。
菅原 答えを言いましょう。
かんたんなことですよ。
モギさんは、カメラを構えたまま
山下さんの動きについていくように
体を動かしていたんです。



「流し撮り」っていうんですよ、それ。
写真の技法の一つです。
シェフ たしかにそうだ。
いつのまにそんな高度なことを。
山下 ぼくは‥‥。

菅原 棒立ちでした。
シェフ その通りです。
菅原 動いているスピードで
カメラを動かして撮るんですが、
これ、写真の学校に行くと習う
基本技術のひとつです。
マラソンランナーを沿道から撮ったり、
車のレースを観覧席から撮ったり。
だから、ブイヨンもそうで、
モギさんはブイヨンの速度に合わせて
カメラを動かしてシャッターを押しているんです。
シェフ F1だ。
山下 F1ですね。
菅原 F1のレースとか撮っているカメラマンって、
すごいんですよ。
何枚も連写するのかと思ったら、
1枚だけ、決め打ちするんです。
しかも三脚が邪魔だから手持ちで。
ピントは「置きピン」といって、
予測した場所であらかじめ合わせておく、
ということをするんです。
F1は超高等テクニックですけどね。
山下 いや、ぼくらにとってはブイヨンは
F1に匹敵しますね。
シェフ とはいうものの、ボケてる写真がダメ、
ってことじゃないですよね。
菅原 そうそう。
わざとやってるんでなければ、
ぜんぜんいいと思いますよ。
(このテーマは読み切りです。
次回、また別のテーマでお会いしましょう!)
2008-05-30-FRI