#015 「おいしそう」はどうやって写す? その2

講師

菅原 「おいしそうに撮るコツはただひとつです」

司会

シェフ 「ぼくが撮るとおいしそうってことは
 ぼくにはそれができてるってことですか。
 わかってないんですけど‥‥」
山下 「それはぜひ習得したいところです」
山下 あのう、基本的な質問なのですが、
レストランで勝手に
撮影してもいいものなんでしょうか。
菅原 ひと言、お店の人に
ことわったほうがいいでしょう。
一眼レフにかぎらず、携帯にしても
コンパクトデジタルカメラにしても。
山下 はい。
シェフ でも「どうぞどうぞ」というお店でも
フラッシュを使うのはマナー違反ですよね。
山下 ほかのお客さんのめいわくになりますものね。
シェフ あるお店で、カメラいいですかって訊いたら
「お写真はよろしゅうございますが
 どのようなカメラをお使いでしょうか。
 シャッター音が大きくなりますと
 ほかのお客さまの
 御迷惑になりますので」と
大きいカメラだったらダメですよということを
やんわり言われたことがあります。
山下 そんななかで一眼レフを使うのは
やっぱりだめでしょうか。
菅原 一眼レフが絶対だめっていうことじゃ
ないと思いますよ。
でもやっぱり、
場の雰囲気を壊すようなことは
したくないですよね。
シェフ 静かなレストランで
プロが使うような大きな一眼レフを出して
「よっしゃー!」
なんて撮りはじめたら‥‥
菅原 そりゃ、マナー違反だよね。
それにフラッシュを使うなんて
やっちゃいけないことだよね。
そう考えると、やっぱり、ちいさな
コンパクトデジタルカメラや、
前に甲野さんに勧めた
オリンパスのE-420にパンケーキレンズ
みたいな組み合わせだったら、
大丈夫だと思うんです。
でもこれは明確な基準が
あることではないので、
「自分がやっていることは、
 この場の雰囲気をこわさないだろうか」
ということを、大人なのですから、
自分で考えるべきですよね。 はいっ!
はいっ!
シェフ ついつい、写真を撮りたくて、
夢中になっちゃうんですよね‥‥
反省しました。
山下 さあ、そんななかで
おいしそうな写真を撮るには?
ということについての
まとめに入りたいと思います。
菅原 そんなに難しいことではないですよ。
答えを言いましょうか。
はい! ぜひ!
菅原 おいしそうだなあと思って撮ることです。
山下 はっ?
シェフ へっ?
菅原 それがすべてだと言って
いいくらいなんですよ。
一眼レフであろうと、
コンパクトカメラであろうと、
レンジファインダーであろうと、
「おいしそう」と思って撮ること。
山下 はい‥‥では、
取材にあたって用意した
ふたつの写真がありますので
それで検証してみましょうか。
おなじような茶色い弁当を
ふたりの人が撮りました。


▲撮影:シェフ「おいしいダイエットゴリラ弁当」



▲撮影:モギ「まずそうなダイエットゴリラ弁当」
シェフ どっちもぼくの弁当じゃないか。
どっちもちゃんとうまいんだぞ。
山下 そういうわけではなくてですね、
2枚目はモギちゃんが
「私が撮るとおいしくなさそうだ」って
よく言っているので、
その代表作をお借りしてきました。
本人も「うわ、ぱっさぱさ!」と思って
撮ったと申しておりました。
菅原 言うほどまずそうじゃないですよ(笑)。
山下 まあ、でもシェフの写真が、
よりおいしそうなのに比べて、
という意味です。
菅原 「シズル」っていう言葉、わかりますか?
シェフ あ、聞いたことあります。
「よだれ」って意味?
菅原 ちがうちがう(笑)。
シズル感、というふうに使うんだけれど。
シェフ 「シズラー」という
ステーキチェーンがあるから
きっと食べものまわりのことばですね。
山下 調べてみました。
「肉が焼けるときのじゅうじゅう言う音」
を英語でsizzleというそうです。
菅原 そう、もともとはそうなんだけれど
写真用語では、
食べもののおいしそうな感じから、
食べものに限らず
そのものの臨場感っていうか、
魅力を伝えることができている
いきいきした表現をあらわすんです。
わかりやすいのはこういう写真だね。


▲撮影:シェフ「おいしいつけもの」


▲撮影:シェフ「おいしい牡蠣」


お漬物のみずみずしい感じとか、
魚介類の新鮮そうな感じ、
オリーブオイルが光ってる感じ、
こういうことなんです。
山下 ラーメンの湯気も
シズル感ですね。
菅原 そうそう。
食べ物をおいしそうに感じる、感じないって、
シズル感で左右されるところがあるんですよ。
これがもし、水気や油っ気がなかったら、
新鮮じゃない感じに見えるんです。
で、モギさんの食べもの写真は、
そういうふうにちょっと見えちゃう。
シェフ じゃあ、シズル感を
どうやって出すのかというと‥‥
菅原 それが、「おいしそう」って
ちゃんと感じて撮ることなんです。
シェフ ああ、ぼくはいつも
そう思いながら撮ってます。
菅原 でしょう。そして、シェフは、
食べものの写真を撮るのに
ちょっと時間をかけてるんじゃないですか。
山下 はたから見ておりますと、
かなりじっくり撮っています。
いままさに食らいつかん!
という感じです。
菅原 モギさんは、素早いでしょう?
山下 その通りです。
手を伸ばしてさっと撮っています。
瞬撮ですからね。
「はい、終わりっ」。
シェフは「ちょ、ちょっと待って、
いま撮るから。待っててね」って感じですね。
菅原 「うわあ〜、これ、うま、そ、う〜っ!」
みたいにして撮っているでしょ。
山下 料理の写真は腹が減っているときの
シェフに頼めと言われています(笑)。
菅原 ああ、なるほどね。
シェフ そう。ほんとうにそう。自分でもそう思う。
腹が減っているとき、
「食べていいの? 食べていいの?」
って思いながら撮っていると、
あとから見ても
おいしそうな写真になってます(笑)。
山下 かぶりつき、みたいに
寄っていくといいんでしょうね。
菅原 「おいしそう」と思いながら、
シェフはたぶん
「いちばんおいしそうに見えるには
 どうすればいいだろう」と考えて、
体が勝手に動いているんだと思うんです。
皿の向きを変えたり、
箸やナイフフォークを調えたり、
じぶんの影にならないように
食べものに当たる光を
ちょっと探してあげたり、
画角を決めるのに体を前後したり、
そういうこと、してますよ。
こないだ見てたけど。
シェフ ちょっと無自覚でした!
山下 じゃあ、本能でこの方は。
菅原 そうなんです。
シェフが「おいしそう」って言って
カメラを構えているときは、
シズルをつかまえようとしているんですよ。
物を見るっていうことと
「おいしそう」と思うことが重なっているから、
「おいしそうな写真」になるわけですよ。
山下 ほお〜。
菅原 で、モギさんは、物を見るっていうことと
「おいしそう」っていう思いが
重なってないから、食べ物を撮っても
「おいしそうじゃない写真」になるわけですよ。
シェフ 物を撮っているんですね。食べ物じゃなくて。
菅原 そうなんですよ。物を撮っている。
(つづきます!)
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2008-05-14-WED