第5回 銅像が必要だ。

糸井
いま、任天堂から発表されている
さまざまなことは、
きっと、岩田さんがいたころから
ずっと話し合われていたことなんでしょうね。
宮本
そうです。
糸井
つまり、きちんと準備してたことばかりだから、
岩田さんがいなくなったから
強引にやらなきゃ、みたいなことはなくて、
やりかけていたことをきちんと進めるだけで
おもしろいニュースになるというか。
宮本
そうなんです。
だから、岩田さんがいなくなって、
「この先、どうなるんですか?」って
心配してくださるファンの方も
いらっしゃるんですけど、
開発的には、まぁ、だいたい3年くらいは、
もうやることはだいたい決まってるので。
糸井
そうか、そうか(笑)。
宮本
大きくいえば5年くらいは
まったく慌てなくてすむというか。
スタッフがごっそりいなくなった、
というようなことではないので、
予定していたことを進めながら、
3年とか5年とかのあいだに
「つぎのこと」を仕込んでいく、
という感じだと思います。
糸井
その「つぎのこと」っていうのが
新体制でのポイントになりますね。
宮本
勝負どころですね。
それを、新しい、若い体制で取り組めたら、
と思ってるんですけどね。
糸井
そうですね。
いまって、大きい会社が
大きいチームをつくってやれば
いいことができるとは限らない時代だから、
あちこちから吹き出す
ちっちゃい芽みたいなものを
どういうふうに拾えるかっていうのが
大切なことなんでしょうね。
そのことについては岩田さんも
ずっとテーマとして考えていたと思うし、
そのための新しい体制も
つくりかけてたんじゃないかな。
宮本
そうですね。
ひとつひとつのアイディアとかソフトの力で
大きな山を乗り切っていくというのは
山内さんがよく言っていたことでもあるし。
糸井
あーー、そうだ、そうですね。
宮本
その意味では、
昔から変わってないのかもしれないですね。
ファミコンのころっていうのは、
組織に山内という強烈なリーダーがいて、
たまたまぼくはその環境にいたので
新しいアイディアを生み出せていたわけです。
で、その構造でできていたことを、
岩田さんが社長になってからは、
岩田さんとぼくで、仮想的に再現していた。
いまは、またそれを、組織でできるように
構築し直している、という感じだと思います。
糸井
いや、よくわかります。
そうだなー、ほんとに。
あとは、俺、もうほんとに無責任なことを言うけど、
やっぱり、山内さんの銅像が必要だと思うね。
一同
(爆笑)
宮本
なんか、すっごいわかります、それ(笑)。
糸井
それが、どういう意味なのか、
訊かれてもわかんないんだけどね、
あったほうがいいよ、山内さんの銅像は。
宮本
あーー、それは考えなかったなぁ。
ははは、涙、出てきた(笑)。
糸井
つまり、無理矢理、理由づけすると、
「任天堂ってなんだっけ?」っていうのが、
どんどん近代化していくわけで、
岩田さんは、山内さんの直系というか、
実際に山内さんと対話をしながら、
自分のやり方をつくっていった人だから、
その意味では、山内さんと同じ道なんですよ。
これからはそれが少しずつ変化していく。
というか、変化していかざるを得ない。
というときに、ね?
あったほうがいいんじゃないかなぁ、
山内さんの銅像は。
宮本
いやー、糸井さん、それは、すごいわ。
ほんと、すごいですねぇ(笑)。
糸井
いや、ほんとに。
宮本
たぶん、山内さんがいたら
絶対「つくるな」って言うでしょうけど。
糸井
言うでしょうね(笑)。
一同
(笑)
宮本
絶対、アカンって言うと思うんですけど、
ぼくらが、残したいと思ってるものは、
たぶん、それなんですよね。
糸井
うん、山内さん的なものですよ。
宮本
誰が社長になるとどうなるとか、
そんな話じゃないんですよね。
山内さんの存在は変わらないので‥‥
ああ、それで、世の中の銅像って、できるのか。
そうかぁ‥‥。
糸井
ディズニーランドにさ、
エントランスから入ってすぐのところに
ウォルト・ディズニーの銅像があるけど、
やっぱり、あれは、あったほうが
気持ちが落ち着くんですよ。
宮本
はい。
糸井
つまり、あそこに行くと人は
「ここはおとぎ話なんだな」って思うじゃない?
ある意味、ウソをたのしみに行く場所なんだけど、
その正面に、ここをつくった人が、
ミッキーと手をつないで立ってる。
あれ、あったほうがいいんですよ、やっぱり。
で、いいのは、山内さんって、
クリエイティブ出身でもなんでもなくて、
あの人の「居かた」が任天堂じゃないですか。
だから任天堂がここまでこれたとも言える。
その意味では、宮本さんの銅像は
つくっちゃダメなんですよ。
宮本さんはクリエイティブの人だから。
宮本さんを抜きにして任天堂はありえないけど、
もしも宮本さんが創業者だったら、
いま任天堂はこうなってないですよ。
「あの会社はものすごいアイディアと
 技術を持ってるぞ」
というふうにはなるかもしれないけど。
宮本
うん、うん。
糸井
いやぁ、いいんじゃないかなぁ、山内さんの銅像。
これ、反対できる人って、いないんじゃない?
宮本
うん。
糸井
いないでしょ、誰も。
宮本
(山内さんの秘書を務めた)脇元さんが、
「そういうのは、
(山内さんは)お嫌いじゃないですか?」

とか言いそうな気はしますけど。
一同
(笑)
糸井
それは、ありそう(笑)。
じゃ、脇元さんの説得はぼくがやります。
あとは、みんな
賛成してくれるんじゃないかなぁ。
根拠はないけど、そう思う。
たぶん、任天堂で働いている人たちって、
「ふつうに立派な会社」に入ったって
思いたくないんですよ。
ぼくらも任天堂見るときは、
「あの会社」って思いたいわけで。
そのときに、なんか、
当たり前の民主制になっていく寂しさというか、
すごく勝手なことを言うと、
「王国」であってほしいんですよ、やっぱり。
宮本
なるほど。
糸井
あんだけ近代的なふりをしてるディズニーが、
ウォルト・ディズニーの話からはじまるんだから。
任天堂には、山内さんの銅像を。
これはもう、記事に書いちゃおうよ。
宮本
そうですね(笑)。
糸井
なまじマリオとかゼルダを銅像にするんじゃなくて、
俺は山内さんだと思うんだよね。
宮本
ちょっと、検討しよう(笑)。

(つづきます)

2015-12-10-THU