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Hello , Hello , Hello ,『ギフトピア』!!

 
いろいろなクリエイターの方に取材していると、
ほんとうにさまざまなタイプの人がいるのだなと
痛感いたします。問いかける質問に、
そつなくすいすい答えてくださる方がいるかと思えば、
たったひと言を表現するのにこだわって
千の言葉を費やす方もいる。

こうした、ウェブを使用する記事の利点は、
あまりテキストの量を気にすることなく、
語られた言葉を連ねられることです。



前回に引き続き、
今回も長いインタビューとなってしまいましたが、
そのぶん、『ギフトピア』というゲームを
説明しようとして苦心する
西健一さんの情熱が伝わるかなとも思います。
最後までぜひお読みください。

西 健一
(にし・けんいち)
有限会社スキップ
ディレクター
鈴木 浩司
(すずき・ひろし)
有限会社スキップ
代表取締役
プロジェクトプロデューサー

── さて、『ギフトピア』がどういうゲームか、
ということをうかがっていきたいんですが……。
西 うーん、内容を話すのが……苦手なんですよねえ。
── なんとなく、そうなんだろうなあと(笑)。
西 そういうことじゃダメだって、
ほんっとよく言われるんですけど、
「どこが売りなんですか?」みたいに訊かれても、
うまく答えられないんですよ。
その、すべてが売りなつもりで作ってはいるんで、
うまく話そうとすればするほど
ぼやけていっちゃうんですね、僕いっつも。
── いや、正しいと思います、それは。
やっとの思いで作り上げたばかりの人に
「それはどんなもんですか」と訊く僕らのほうが
無理を言ってるのかもしれないです。
西 でも、ほんとにわかりやすく届けるためには、
それじゃいけないじゃないですか。
「なんとかなんとかシステム!」とか、
キャッチーな売り文句を言うべきじゃないですか。
── たとえば『ギフトピア』には
「オルタナティブRPG」という
売り文句がついてますけれど。
西 ええ。今回、ぼくはこのゲームを
めちゃめちゃまっとうな、
ロールプレイングゲームのつもりで作ったんですよ。
でも、ふつうに「ロールプレイングゲームです」
って言っちゃうと、やっぱりみなさん、
『ドラクエ』とか『MOTHER』とか、
そういったものを思い浮かべられると思うんです。
『ギフトピア』は、そういうものとは違うと
僕は思っているんですね。けど、
ロールプレイングゲームである
ということは間違いがなくて、
それで「オルタナティブRPG」とつけたんです。
で、この「オルタナティブ」って言葉が
非常に胡散臭いと思うんですけど、
僕の中ではピタッとくるんですよ。
だいたい「オルタナティブ」っていう言葉が
流行ったのって90年代じゃないですか。
いまさらそんな言葉を持ってきたっていうのが、
まあ、わかる人にはちゃんとフックになるだろうと。
任天堂から出るゲームを僕らが作って、
そんでそこに「オルタナティブRPG」って
つけただけで、伝わる人には伝わるだろうと。
逆に言うと、伝わらない人には伝わらないままに
なっちゃうのかもしれないですけど、
そのへんは正直、僕にはよくわからないんですよ。
全部の人に伝えたいけど、
全部の人を狙って作るっていうことは
絶対に無理がありますから。
だから、任天堂さんにしても、
こういう取材を記事にされる方にしても、
すごく扱いづらいだろうなというのは
自分でもわかっているんですよ。
だって、困りますよね?
── いえ、そこまで言ってもらうと
逆にわかりやすいかもしれません(笑)。
西 『マリオ』とか『ゼルダ』だとね、
たぶん、取材するほうも、話すほうも、
ユーザーさんも、わかりやすいんだと思いますけど。
── 訊き方を変えますけど、西さんのなかでは、
こういう人にやってもらいたいというような
ビジョンのようなものはあったんですか。
西 とくに最初から狙ったということはないんですけど、
今回、グラフィックをお願いした
フリフリカンパニーの程(てい)さんと
打ち合わせしたときに、
そういうことはすごく熱心に話し合いました。
たとえば、いま受け入れられている
カービィにしてもピカチュウにしても
すごく色のはっきりした、
原色系のファンシーなイメージですよね。
で、そういうものを子どもたちが好むのは
すごくよくわかるんですけど、僕はもう36歳で、
絵を担当してくださった程さんは35歳なんですね。
さすがにファンシーなグラフィックには
気持ちが入らないんですよ。
まあ、自分に子どもができてたとしたら
「子どものために!」って考えると思うんですけど。
でも、僕も程さんも子どもがいないから、
すごく正直なことを言ってしまうと、
「子どもなんてどうでもいい」ということに
なってしまうんですよ。
あの、お客さんに対してこういうことを言うと
誤解を招くとは思うんですけど、
作るうえで誰を思い浮かべるかというときに、
正直な気持ちをあえて言うとそうなってしまう。
で、もう、正直ついでに言ってしまうと、
オタッキーなゲームファンとかにも
僕は興味がないんですよ。
だったらかわいい女の子にやってもらいたい
というのがすごく正直なところです。
もちろん、女の子に向けて
作るわけじゃないんですけどね。
── はい(笑)。
西 で、どこに届いてほしいかっていうことを
突き詰めていくと、
やっぱり、自分がおもしろくなきゃいけない。
あとは、自分のまわりの連中が
おもしろがってくれないとダメだなと。
そういうふうに突き詰めて作っていくと、
たとえばキャラクターのグラフィックにしても
いわゆるファンシーなものからは離れていくんです。
だから、『ギフトピア』のキャラクターとかって、
パッと見、ぜんぜんかわいくはないでしょう?
── ええと、いわゆる、任天堂のというか、
ファミリー向けのかわいさではないですね。
西 そうだと思うんですよ、実際。
でも、ふつうに流されてしまうファンシーさよりは、
「あれ?」っていう引っ掛かりがほしいんですね。
だから、そういう引っ掛かりとか
違和感を抱えたままプレイして、やっているうちに、
それがかわいく見えてくることが理想だと思って。


── なるほどなるほど。
西 たとえばその意味でいうと、
僕は『E.T.』をすごく鮮烈に覚えてて。
『E.T.』って、公開された当時、
すっごく流行ったじゃないですか。
みんな下敷き持ってたり、ぬいぐるみ持ってたり。
ところがあれって、映画観る前は、
ただの気持ち悪い生き物じゃないですか。
なんか茶色い、中途半端な大きさの、
じいちゃんだかばあちゃんだかわからない、
指の細長い生き物にしか思えませんよね。
実際、僕は映画観るまで、
なんであんなものをみんなが「かわいい」って
言ってるのか理解できなかったんですよ。
でも、観おわって映画館から出てきたら、
すっかり感情移入しちゃって、
もう、キーホルダーがほしいとかっていう状態に
僕もなっちゃってたわけですよ。
それがほんとうにすげぇなと思って。だから、
入口を通ったときの自分と
出口を抜けたときの自分が、
すごく違っているようなものが
やっぱりおもしろいし、強いと思うんです。
── よくわかります。
西 だから、ええと、話をちゃんと戻して、
うまくまとめる努力をすると、
売りっていうか、どんなゲームかっていうと、
やっぱり抽象的な言いかただから、
ちゃんとまとまんないんですけど、
そういうパッと見とはたぶん違うと思うんです。
── 『ギフトピア』というゲームの本質は。
西 ええ。入口と出口では、たぶん、
違うゲームになってると思うんですよ。
で、たいていのものって、入口がこういうもので、
こういうことでこういうことなんだよって、
そういうふうになってて、
出口もそんなふうになってて、
わかりやすいじゃないですか。
予定どおりに中身が進んでいって、
「まあおもしろかったよね」っていう
感想が出てきたりするわけじゃないですか。
でも、『ギフトピア』っていうのは、
こう、なんだかよくわかんない、
モヤモヤした感じの入口なんですけど、
入っていって、出口を抜けたときには、
自分の見えかたとかが変わってると思うんですよ。
きっと、『ギフトピア』というゲームに対する
気持ちっていうのも変わってるでしょうし、
すごく大袈裟なことを言えば、
世界の見えかたがちょっとは変わってると思う。
そういうふうに、僕は作ったつもりでいるので。
だから、そういうものを求めている人にこそ、
このゲームをやってほしいんです。
だから、また誤解を招く言いかたをしますけど、
ヒマでヒマでしょうがなくって、
ヒマつぶしで何かやりたいんだったら、
それは違うものやってください、って気持ちが
すごくあって。だから、なんていうか、
「ちゃんとおもしろいものが欲しいな」とかって
思ってる人にこそ、届いてほしいなと思うんです。
まあ、そういうこと言ってるから
売れそうで売れない、みたいなことに
なるのかもしれませんけど。
うまくまとまりませんけど。
── いえ、あの、僕は、いまのは、
すばらしいPRだと思いますけど。
西 ああ、いや、でも、まあ、こんな、
戦争も起こっているような、いろいろ重い時代に、
なんかもう、かたーいこと言われてんのも、
聞くのも嫌になってくるじゃないですか。
たとえばこれが記事になって原稿になったときに、
読んでんのもめんどうくさいじゃないですか。
── それは、たぶん、記事を作る僕らの責任です。
西 ああ、そうですか。
あの、じゃあ、ええと、
よろしくお願いします(笑)。
── がんばります(笑)。
ええと、鈴木さんから見て、今回の
『ギフトピア』はどうですか?
鈴木 あのね、西の作品って、そのとき
西が抱えているテーマとリンクするんですよ。
たとえば前作の『L.O.L』は、
欠落を矯正するっていうテーマが
あったと思うんですけど、
当時、彼は会社から分かれて独立するかどうか、
自分を立てるか全体を立てるかみたいな
悩みを抱えていたと思うんですよ。
で、今回の『ギフトピア』は、テーマのひとつに、
「大人になるってなんだろう?」ということが
あると僕は解釈してるんですね。
さきほどもお話しましたけど、
彼は『L.O.L』をつくったあとに、
けっこう行き詰まってしまって、
自分が突っ走っていくことと、
現実との関係がすごく微妙になっていて。
クリエイターとしてどうするのか、
生きていくためにどうするのかっていう、
ふたつのあいだで、揺れ動いたと思うんですよ。
だからやっぱり、『ギフトピア』のテーマと、
西の生きかたというのは、
僕はシンクロしているような気がするんです。
まあ、本人は意識してないのかもしれないけど。
西 だから! そういう話をするからダメなんだよ。
そんなこと取材で言われても困るんだって。
── いえいえいえ(笑)。
西 話の内容がもう、ダメだね。
シンクロするとか言われても、
読んでる人は、なんだかわからないよ。
── いま鈴木さんがおっしゃったことに対して、
西さんご自身の自覚としてはどうですか?
西 自覚っていうか、まあ、なんか、
作ってるものってやっぱり、時代とか、
そのときの自分っていうのが、反映しますよね。
当然のことなんでしょうけど。
で、やっぱり、いま鈴木が言ってたように、
『L.O.L』のあとで、突っ走りすぎて、
世の中とのバランスが崩れちゃった感覚があって。
仕事が決まんないっていう現実のなかで、
僕自身も元気がなくなっちゃったりして。
でも、スタッフはすごくがんばってくれて、
ものすごく僕を支えてくれてたわけですよ。
ところが、それだけがんばってくれた人たちが、
給料が払えなくなってひとり辞め、ふたり辞め、
していくっていうのはね、これ、なんか、
「俺は大人としてどうなの?」
っていうふうに自分で思って。
で、じゃ、どうすればいいのかな、と思うと、
たとえば、寺にこもってみるとか、
いろいろな道があるんでしょうけど、
僕の場合はゲームを作ることで
現実にスポイルされたような形になって
どん詰まってたわけだから、
やっぱりゲームを作ることによって
その状況を抜けていかないと
ダメだと思ったんですよ。
ただし、一介のゲームクリエイターにすぎない僕が、
ゲームのなかに自分を出しすぎると、
「誰だよこいつ?」ってことになっちゃうから、
そのへんのバランスも考えたりして。
そういう、現実にもまれながら、
「大人ってなんだろう?」っていうところに
行き着いたということはあるわけです。
まあ、細かい話だと、
成人式で若者が荒れるっていうのが
ニュースになったりもしましたけど、
人はやっぱり歳をとっていくんですから、
とる歳につれて、
だんだんダメになっていくんではなくて、
やっぱり大人になっていきたいと思うんですよ。
とはいっても、もちろん、何かの基準で
大人と子どもを分けるようなことではなくて。
大人のなかでも、どんどん成長していく大人と
ぜんぜん成長しない大人がいるわけだし。
自分に子どもができたら大人なのかというと
そうじゃないわけだし。
成人式迎えたから大人になるわけじゃないし。
そのへんの定義って曖昧じゃないですか。
だから、そういう、なんか、
ウニャウニャしてよくわかんないものが、
『ギフトピア』遊んでるうちに、
「あ、そういうことかもね」って、
ちょっとだけでも、種だけでも、
残ってくれればすごくいいなーって
思って作ってたんですけど、僕は……。
って、話が重いんだよな! 俺は!
── あはははははは
西 ほんとにもう、参りますよね。
── いえ、僕は愉快ですよ、この時間が(笑)。
西 う〜ん、だから、なんとか、そういったところが
届くべき人のところにうまく届いて、
僕のよくわからない話を読んで、
「ほぉー!」って感じてくれた人なんかが
買って遊んでくれると、ほんとにいいんですけどね。
もう、いまテレビ観てたって、
暗いニュースばっかりじゃないですか。
ああいうのをずっと観てると、
魂がこう、干からびていくっていうか。
やっぱりちょっと潤いが必要ですからね(笑)。
あの、『ギフトピア』とかを(笑)。
── 記事にしやすそうなフレーズを言うときには、
照れ笑いされますね(笑)。
西 難しいですねえ(笑)。参りますよねえ。
けっきょく、どれだけ話したとしても、
絶対に100パーセントは伝わらないですもんね。
それはつき合っている彼女にしろ、
嫁さんにしろ親にしろ子どもにしろ、
どれだけ身近でもそうなんでしょうし。
「わかった!」っていって、概要が伝わってても、
100パーセントのディテールまで伝わるとかって、
あり得ないですもんね。
まあ、逆に、ちゃんと伝わんないあたりが
おもしろいともいえますけど。
── 西さんが、伝えることに苦労していて、
それでも、できれば、伝えたいと思っている
ということだけは、読者に伝わるかと思いますが。
『ギフトピア』に込められた思いの強さとかも。
西 そうですね。めちゃめちゃ魂こもってますよ。
もちろん僕だけじゃなくて、うちのスタッフ全員の。


── それをひと言で完全に表すのは無理ですよね。
西 だから、「うまく言えない」っていうのが
正直なところなんですよね。
なんかうまく言っておいてくださる?
── でも、「うまく言えない」ということ自体は、
言えますんで。だから、西さんが、
うまく言えないって言ってるということを
書くつもりでいます。
西 ありがとうございます(笑)。
── 最後に、鈴木さん、社長として
ゲームの売りをお願いします(笑)。
鈴木 あの、『ギフトピア』は、
過去に西が手がけたなかで
ゲームの部分と、西の主張の部分が
もっともうまくバランスがとれていると思います。
だから、『moon』より、『L.O.L』より、
ゲームっぽいし、おもしろい。
西だけでなく、チームがまとめた作品として、
非常に完成度が高いと思います。
西 宮本(茂)さんに、
「ずいぶんゲームっぽくまとめたね」って
言われたんだよなあ。
一瞬、褒められたのかと思ったけど、
そうじゃないんだよなあ。
── でも、怒られたわけでもないでしょう(笑)。
「こうきたのか」ってことじゃないですか?
西 よくわかんないんですけどね。
鈴木 とんでもないものを作るかと思ったけど、
意外に、ゲームっぽく、おもしろく、
仕上がってたってことでしょ。
西 ひよったかな(笑)?
鈴木 「大人になった」ということだね。
── うまくまとめていただきました(笑)。
2003-05-02-FRI