奈良美智インタビュー  NOWHERE MAN  IN THE SPACESHIP  ひとりぼっちの絵描き。
糸井 若いころの奈良さんは、
とにかく、ずっと絵を描いていて、
描くことの心配も、恋愛の心配もとくになく。
奈良 そうですね。
あんまり、恋とかね、そういうのは、
ぼくは関係なかったみたい。
糸井 ふつうの人なら悩むようなことが
影を落とさなかったんだね。
奈良 うん。
なんかもっと生きることであるとか、
人間である以前に動物だったりすることとか、
そういうことのほうが、
リアリティーがあったというか。
糸井 じゃあ、人となにかを競うようなこと、
勝ちだ、負けだ、なんていう概念もない。
奈良 ないって言ったらウソになるけど、
まぁ、薄いですね。
糸井 薄い。でも、ないことはない?
奈良 うん。
糸井 あるときって、どういうとき?
奈良 うーん‥‥たとえば、なんだろう。
具体的にはわかんないけど、
上を見てると勝てないような気がするけど、
下を見たら決して負けてない、みたいな。
糸井 ふーん。
奈良 自分が置かれている状況については
けっこう楽観的なんだけど、
そういう、勝ち負けとか、
人との競争みたいなことについては
すごく悲観的なんです。
だから、通信簿の成績なんかも、
最初からぜんぶ1だったら
どんなにラクだろうと思ってた。
最初が1だったら、あとはのぼるだけだから。
なんか、いつもそういうふうに考えちゃう。
糸井 ベースが低いんだ。
奈良 すごい低い。
たとえば、ぼくは、ドイツに留学したじゃない?
で、たいてい、みんな、
留学生試験受けたり、国費留学もらったり、
いろんな奨学金をもらったりして行くんだけど、
ぼくはそれ、受けなかったの。
糸井 ほぅ。
奈良 それはべつにお金があったわけじゃなくて、
むしろ、ぜんぜんなかった。
でも、そんな試験を受けても、
たぶん、ダメだろうと思って。
受かるかもしれないっていう
レベルにさえないような気がして。
糸井 はぁー。
奈良 で、ドイツに行って、
ふつうに試験を受けて入ったんだけど、
まわりにいる日本人は、
奨学金をもらってたり、
国費留学で来てたりする。
そういう人たちを見ると、
やっぱり、彼らとぼくは
ぜんぜん違うレベルなんだって思ってた。
糸井 つまり、自分が低いってこと?
奈良 そう。低い。
糸井 でも、絵を見れば、わかるでしょう。
ほかの人の絵を見たときに、
自分のほうが優れてるとは思わないまでも、
自分が理想とする、「いい!」って思える絵とは
違ってたりするわけでしょう?
奈良 うん。
糸井 そのときに、オレのはいいぞ。
あいつのはよくないぞ、っていうようなことが、
ふつうは見えたりするじゃない。
奈良 見えちゃうけど、その、
なにを目標にしてるか、というところが
そもそも自分とは違うと思っていたので。
やっぱり、そういう人たちは、
自分の作品を持ってギャラリーを回って、
展覧会してもらうようにしたりとか、
発表することを考えてる。
糸井 あー、なるほど。
奈良 つまり、最初から
オーディエンスにどう見せるかを考えてる。
糸井 奈良さんは?
奈良 ぼくは、そこまで行ってなくって、
この絵を描き続ける環境っていうのが
ずっとあったらいいなぁって、
ただ夢想しているような。
糸井 はーーーー。
それ、逆にいうと、無敵だね!
奈良 いま思うと、そうだけど(笑)。
糸井 ねぇ(笑)。
奈良 だから、ぼくは、ほんとに
自分の作品の資料を持って、
ギャラリー、回ったことがない。
たまたま学内展示してるときに、
見に来てくれたギャラリーの人が
展覧会しないかって言ってくれた。
それは、日本でも言われたし、
ドイツでもそう言われた。
で、その展覧会を見た、他の国の人が
また、うちで展覧会しないかって言ってくれて、
そうやって広まっていったから。
糸井 少しずつ、人づてに。
奈良 そうそうそう。
ほんとに、いつの間にかっていう感じ。
糸井 そうか、そうか。
たしかに、目標が違ったら、
競争も勝ち負けもないもんね。
奈良 うん。
だから、たとえば、いつだったか、
美術の専門誌から取材の依頼があったときに
ぼくはそれを断ったの。
そしたら、絵描きの仲間から、すごい叱られた。
その専門誌に載りたいと思って載れない人だって
すごくたくさんいるんだから、って。
糸井 あー、その言い方はよくあるよね。
奈良 でも、オレは載ろうと思ってないんだから。
載ろうと思ってたら
載れないことが悔しいだろうけど、
オレはそういうんじゃないから。
糸井 ああー。
ぼくは逆に、歳をとってから、
いま奈良さんが言ってるような
考え方になっていったんですよ。
その、若いころって基準になる自分がないから、
人が息を荒げてたら、
すぐそれがうつっちゃって、
自分も息を荒げるようになる。
奈良 ああ、そっか。
糸井 奈良さんはそれがなかったんだよ。
奈良 ぼくはやっぱり‥‥。
糸井 「ひとりぼっち」だったんだね(笑)。
奈良 ぼくは、人がなにかをしてるのを見ると、
「ぼくはこういうことをしちゃダメなんだな」
って、いつも思ってる。
たとえば、80年代とかそうだったんだけど、
同年代の人が、華々しく活躍してたりすると、
自分はそういう人とはレベルが違うんだし、
そういうことを望むことすら
しちゃいけないようなレベルなんだと思ってた。
で、90年代になって、
自分がちょっと知られるようになっても同じで、
ほかの仲間がいろんなことをやりだして、
自分が同じようなことを
やってみたいと感じたとしても、
ぼくはやっちゃダメなんだと思ってた。
それは、逆に、学ぶような感じで。
糸井 つまり、やんないほうがいいことを、
どんどん学んでいったんだね。
奈良 そうそう。
やったら競争になっちゃう。
で、競争になっちゃったら、
それを一所懸命やらないといけない。
糸井 はーー。
奈良 ほんとに自分はそれを
一所懸命ずっと、競争してまでやりたいのか。
そうじゃないとしたら、
やんないほうがいい。
糸井 いま言ってるようなことってさ、
若いころからそんなに整理できて
しゃべれたわけじゃないよね。
奈良 じゃないですね。もう、最近。
糸井 まとまったんだね。
奈良 まとまった。
やれることと、やれないこと。
あるいは、やっていいことと、
やっちゃいけないこと。
っていうのが、なんとなくこう、わかってきて。
糸井 それはだから、
得だ損だを超えてやってきたことで、
そうやってきたのをいま振り返ってたら、
こうだったんだなぁって、わかったわけだ。
奈良 そうですね。うん。



To Be Continued......


2010-11-24-WED

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN