その2 宿のごはんをつくりました。

──
駅弁とはべつに、宿泊する人用のごはんも
考えられたんですね。
飯島
そうなんですよ。11カ所だったかな。
自分が和歌山に行くと、いい素材、おいしい食材を
なるべくそのまま食べたいなって思うんですね。
ですからなるべく素材に近いものを取り入れた調理法で。
たとえば太刀魚を茹でて、おろしショウガで食べる。
かなりシンプルなんです。
じつは最初、戸惑われた宿のかたもいらっしゃって。
「あまりにも簡単すぎやしませんか」って。
──
「太刀魚を茹でただけですか」って?
飯島
でも、和歌山はしょうゆの発祥地。
だからしょうゆも魚もシンプルに味わえるほうが
いいと考えたんです。
──
おいしいしょうゆを、生(き)で食べようと。
飯島
「こういうのを、家でもやってみよう!」
と思えるようなメニューにしてみました。
──
みなさんの反応はいかがでしたか?
飯島
とても好評でしたよ。よかった。
──
ほかにも‥‥「カニ入りのワカヤマーボー」。
和歌山スタイルの麻婆豆腐。
もともとこういうものがあったわけじゃなくて。
ひき肉のかわりに、カニ。贅沢!
飯島
そうなんです。和歌山はカニも獲れるし、
ぶどう山椒(青山椒)もおいしいので。
和歌山の食材が詰まった、ワカヤマーボーです。
──
麻婆豆腐なのに、白いですね!
飯島
白いです。豆乳が入っています。
──
あ、梅酢風味の唐揚げもあるんですね。
じつはこれは、ぼくたち、初期の段階から
試食をさせていただいてていました。
『LIFE』に載せた唐揚げとは
また違う味のおいしい唐揚げなんですよね。
「なぜこんなにおいしいんですか、味の秘密は?」
っておたずねしたら、最初はナイショで。
飯島
まだ実験中だったので(笑)。
──
そのナイショの調味料が「梅酢」!
飯島
そうです、そうです。
──
ほんとうにおいしいですよね。
飯島
ぜひ食べてほしいです。
──
梅酢って、探すとあるんですね。
Amazonでも売ってましたよ。
飯島
あります、あります。
でも、こういうふうに使うときは、
シソが入ってないほうがいいんですよ。
白梅酢っていう、赤くないものを。
赤いと、そのシソの味が強くなっちゃうんですね。
シソ風味にしたければそれもいいのですが、
白梅酢だったら、しょうゆや塩の感覚で使えるんですよ。
私も、家では、しょうゆ用の容れ物に入れて、
今日はヘルシーにささみ焼きにしようという時など、
先に生のささみにかけて、ころころって転がして、
拭き取らずに、魚焼きの網に乗せて、
そのままグリルで7分ぐらい焼きます。
とてもおいしいですよ。
──
おいしそう‥‥それはダイエットの味方!
長く漬けなくてもいいんですね?
飯島
そうなんです。ちょっと水で薄めた時は、
1分ぐらい漬けておけばいいかな。
イワシを煮る時などは、
梅酢と水と、ちょっとお酒。
砂糖は入れないで、さっぱり煮てもおいしい。
──
今回のメニューの中には、
梅酢に浸してから干したアジの干物というものが!
飯島
そうです。アジの干物って、
塩水に漬けてから干すんですけど、
それを梅酢にしたんです。
ただ、家庭でアジを開くのも大変ですから、
鮭の切り身でもいいですよ。
秋鮭をうすめた梅酢に10分くらい漬けて、
冷蔵庫に1日置いておく。
そうすると、梅塩鮭になりますよ。
──
おもしろい! おいしそう!
飯島
ね、いいことだらけでしょう?
──
いいことだらけです!
素材がおいしい地域って、料理の文化がそれほどこう、
華やかには開かないこともありますよね。
逆に、京都みたいに素材を集めるのが
すごく大変だったところは、
保存食の文化、料理文化が際立っていったんでしょうね。
僕(武井)の故郷の静岡もそうなんですけど、
素材がいいと、案外、料理は地味ですよね。
飯島
そう、シンプルなんです。
──
素材がそのままドーンと出てくるんですよ。
飯島
そうなんですよ。
腕のいい料理人の人も、結局は、
素材を炭火焼きにしただけのものに
戻ってゆく、という話を聞いたことがあります。
──
なるほど!
今回は、素材を追求しつつ、
飯島さんらしさもありっていう、
バランスのいい献立になっていますね。
飯島
あとは、宿のごはんが
「多すぎる」というときってありますよね。
メインに行くまでにお腹いっぱいになっちゃったりする。
そうならないように、省略できるところは
バサッと省いています。
しゃぶしゃぶとかも、熊野牛とネギと生麩だけ。
心を鬼にして絞りました。
たとえばこのサンマ丸干しも。
もともと脂の多くないさっぱりしたサンマを、
カラカラになるぐらいに干した、
そういう丸干しが和歌山にあるんですね。
これをお土産屋とか魚屋で買おうと思うと、
5尾とか6尾ついているので、
こういうところでちょっと味見できたら
うれしいなと思って、入れました。
けれども、たくさんの献立の中で
ひとり1尾あるのは、多すぎる。
だからちょこっと味見できるくらいの
ボリュームにおさえました。
──
しかもこれ、オリーブオイルをちょっと塗って
焼いてるところが飯島さんらしくて面白いですね。
飯島さんらしいといえば、「きなこ」を使ったレシピも!
飯島
パリで食事をつくったときに、
豆腐料理にさらに「豆の感じ」を出したくて、
きなこを足してみたところ、
けっこうおいしくできたんですね。
それがヒントでした。
──
そしてごはんは、炊き込みご飯とかくや。
炊き込みご飯はもちろんジャコ。いいですね。
メイン料理は宿によって違うんですか。
飯島
そうです、値段とかも宿によって違います。
きっと宿のホームページで、
どういうふうなものが食べれらるか
見られると思いますよ。

那智の滝。壮大です。(撮影:飯島奈美)

那智大社。(撮影:飯島奈美)

やたがらす。(撮影:飯島奈美)

2014-10-17-FRI