田中泰延+古賀史健+燃え殻+永田泰大+糸井重里「書くについての公開雑談。」
第6回
孤独が燃え殻に手を伸ばした。
糸井
燃え殻さんの小説を、
田中さんは、急に受け取ったんですね。
田中
いやね、もう‥‥僕としては、最初の
「あなたのことは好きじゃない」
という一文が、ものすごい衝撃で衝撃で‥‥。
会場
(笑)
燃え殻
書いてないですから(笑)。
田中
ともかく、長かったんです。これが。

僕が長いって言うんだから長いです。
cakesに載ったときは
章に小分けにして連載されていたけど、
最初から最後まで、
ひと続きの物語が送られてきたので。
糸井
ええ。
田中
当然「何なんだ、これは?」と思いながら
読み出したんですが、止まりませんでした。

燃え殻さんには、その後、
今年の4月1日にはじめて会うんですけど、
細かいことを言うと、
その直前の、たしか3月27日に、
はじめて糸井さんにお会いしたときに‥‥。
糸井
ええ。よく覚えてますね。
田中
一緒に乗ったタクシーのなかで、
「いや、燃え殻さんという人がいてですね」
って、話をした覚えがあります。
糸井
そうか、そんな昔のことじゃないのか。
燃え殻
メチャクチャ最近のことです。

そのうちに、いろんな方が読んでくださって、
あの専門学校の先生に
「おまえなんか一生会えない」と言われた
糸井さんまでが
「来週楽しみにしてるよ」って言ってくれて。
糸井
うん。
燃え殻
それがもう、本当にプレッシャーで‥‥。
会場
(笑)
燃え殻
でも、それ以上に、うれしかったんです。
なんか、夢があるなあと思って。
糸井
こう‥‥どう言ったらいいでしょうかね、
世知辛い世の中だから、
「ないこと」にしちゃったほうが
めんどくさくないケースが、あるんです。

でも、
「ないことにされてしまいがちなものが、
 俺の心の中で大きいんだ!」みたいな。
燃え殻
だから、田中さんや糸井さんは、
ないことを「あるじゃん」にしてくれた。

それが、すごく、うれしかったです。
田中
「ないじゃん」にするの、簡単だしね。
糸井
そうなんです。でも、燃え殻さんが
それまで会ったこともない田中さんに
原稿を送りつけるあたり、
何か「叫び」みたいだよね、まるでね。
田中
だからもう、怖かったですよ、その夜。

「何で、俺に送りつけてきたんだ?」
「最後まで読むしかないし、
 読んだら
 何か返事を出さなきゃならないじゃないか」
みたいに考えたら、怖くて。
糸井
たしかに、何でもかんでも
送ればいいってもんでも、ないわけですよ。

僕は、なるべく見るようにしてますけど、
「送ってくれてありがとう、
 はじめの1曲は、聴いてみますね」
みたいにしないと、身が持たないわけで。
古賀
ええ、そうでしょうね。
糸井
でも、そう思ってる反面、なんだろう‥‥
「ひょっとしたら、
 いいものが見つかるかも」って気持ちが、
どこかに、あるんです。

それは、「自分」を探している気持ちに、
似ているかもしれない。
燃え殻
ああ‥‥。
古賀
でもね、糸井さんの「見てる度」については、
けっこう、びっくりしますよね。
糸井
あ、そうですか?
古賀
だって、
今日のこの会場に、漫画家のかっぴーくんが
来てくれてるんですけど‥‥。
糸井
ええ、ええ。
古賀
糸井さん、かっぴーくんのことも、
かなり早い段階から「見て」ましたしね。
糸井
それは、探された側が光ってるんですよ。
古賀
あぁ‥‥。
糸井
どっちかって言ったら、俺は鈍いですよ。
2回くらい光らないと見過ごしちゃうし。

単純に先物買いをしようっていう意識も
ありませんから、
そのへんは、永田さんはそばにいるから、
わかると思うんだけど。
永田
ただ、「見に行ってる」ことについては、
すごいなと思います。

だんだんおもしろくなってきた漫画とか、
ドラマとかのことを、
僕らが糸井に教えてもらうことも多いし。
糸井
そのへんがねえ、うちの子、ダメよね。

たぶん、愛されすぎてるんだと思うんだ。
我が家にいたら、
子どもが「パパ、パパ」って寄ってきて、
奥さんも「ダーリン」とか言って。
永田
そんな(笑)。
糸井
「今日は、ドレッシング変えてみたの」
「そうかい?」
なんてことをやりすぎだと思うんだよ。

ようするに、
悪くないドラマの中にいる時間が長い!
田中
なるほど!(笑)
糸井
その点、俺は孤独だよ?
田中
いやいや、そんなことないでしょう(笑)。
糸井
だって毎晩毎晩、思ってますからね。

「ああ、今夜もまた、
 誰も俺のことなんか相手にしてくれない。
 あ‥‥‥‥‥‥田中泰延」。
永田
ツイッター上で(笑)。
田中
深夜3時とかに(笑)。
糸井
ようするに、その俺の「孤独」が、
「燃え殻」に、手を伸ばしたんですよ。
燃え殻
なるほど(笑)。
古賀
でも、たとえば、糸井さんのちかくには
矢野顕子さんをはじめ
まぶしいほどピッカピカに光ってる星が、
たくさんあるじゃないですか。

それなのに、僕らみたいに、
まぁ、ちーっちゃく光っているものにも、
「あ、こっちもいいかも」って。
糸井
そこの区別はないですね。
永田
ない、ない。
糸井に、そこの区別は、ものすごくない。
糸井
僕のまわりの「歴史に残る度」で言えば、
トップは
横尾忠則さんだと思ってるんです。

この先、30世紀になったら、
あらゆる人が覚えられてないと思うけど、
横尾さんだけは、残ってると思う。
古賀
はい。
糸井
それでも、横尾さんはただの人です。
ものすごく天才的な、ただの人なんです。

そのことは、矢野顕子だって同じだし、
ここにいる田中泰延さんも、
古賀さんも、燃え殻さんも、永田さんも、
みーんな同じなんですよね。
古賀
そういう感覚なんですね。
糸井
その「同じさ」について自信があります。

だから、区別はしません。
ユニフォームを着たプロ野球選手以外は。
永田
ただ、糸井さんは、
そのあたりはわけへだてないんですけど、
厳しいところは、ものすごく厳しい。

一生懸命やってるいい子でも、
ダメなものは、その場で、バーンと‥‥。
燃え殻
え、いい子なのに? 怖い!
永田
これはよく話すエピソードなんですけど、
ブータンに行ったとき、
耳とか目の不自由な子たちの授業を見て、
糸井、すごく感動していたんです。

決して上手ではないんだけど、
一生懸命に言葉を話そうとしている姿に、
席を外すくらい、ボロボロ泣いて。
田中
ええ。
永田
そこの学校の先生が、
「これは、この学校のみんなでつくった、
 お土産品なんですけど、
 どうにか、日本に輸入できませんか?」
と聞いたときに、
泣きながら糸井が「これはダメだね」と。
会場
(笑)
永田
泣きじゃくってるくらいの状態で、
「こういうことやっちゃ、ダメだよー」。
田中
怖いほど冷静(笑)。
永田
つまり、「ダメなものはダメ」なんです。
わけへだてがない分、ちゃんとダメ。
糸井
いやいや、そんなこと言ったら、
俺が、ものすごく悪者みたいじゃないか!

いつも気を遣ってるんですよ、本当に。
今日だって、
みなさんには礼を尽くしてるでしょう?
田中
いや、ええと、はい(笑)。
会場
(笑)
糸井
何しろ、僕が「呼び捨て」にしてるのは、
みうらじゅんだけです。
古賀
そうですね(笑)。
糸井
あれだって、呼び捨てにしてあげないと、
いつもみうらが言ってる
「糸井さんは怖い」の設定が崩れちゃう。

あいつは「糸井さんは怖い」って言うことで、
稼いでるとこあるんですから(笑)。
<つづきます>
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