第2回
本社屋は「古民家」。

新井
わたしたち鎌倉投信のことを
知っていただくために、
まず「受益者総会」というものについて
お話したいんですが‥‥。
糸井
はい、興味あります。それ。
新井
ありがとうございます。

受益者総会というのは、
年に1回、
投資信託のお客さまである「受益者」が
運用報告を聞くために
一同に集まる総会です。

その呼び名じたいは、造語なんですけど。
糸井
ああ、やっぱりそうなんですか。
すごくいいなぁと思ってました。
新井
わたしたちがやっている投資信託は
「契約型」と言いまして、
とくに「集まる」必要はないんです。

いろんな決議は「書面」で済みますので。
糸井
ええ。
新井
でも、わたしたち鎌倉投信は
「お金だけではない、
 めんどくさい関係性を構築する」こと、
つまり、
「みんなで集まる」ことを前提にして
受益者総会という集まりをつくりました。

会の受付係なども
すべて、お客さまの「ボランティア」で
運営していただいてます。
糸井
お客さまというのは投資してくれている、
お金を出している人、ですね。
新井
はい、そうです。

一般の会社がやる「株主総会」に対して、
投資信託のお客さまは
「受益者のみなさん」だ、ということで
このような名前にしました。

投資先のうち、いわゆる「大企業」は
ヤマトホールディングスさん1社だけなので
去年の受益者総会では、
木川眞社長にご登壇をいただきまして。
糸井
このあいだ、交代なさいましたよね。
新井
はい、会長になられましたね。

で、受益者総会の報告では、
当然「運用実績の数字」の話もするんですが、
それより、みなさんのお金が
どのようによろこばれる使われ方をしたか、
そのことを伝えるために、時間を割いてます。

ヤマトホールディングスさんの場合は
東北の震災で寄付した「142億円」のお金が
どのように活かされたのか、
そのことについて報告していただきました。
糸井
なるほど、なるほど。
新井
たとえば、岩手県の野田村保育所は、
園児も先生も奇跡的に助かった保育所ですが、
国からの助成金で復旧するためには
津波にのみこまれた同じ場所に
もういちど、保育所を建てなければならない。
糸井
ほう。
新井
困っていた保育所に、
ヤマト福祉財団は助成金を出したんです。

このように、
投資先であるヤマトホールディングスが
東北でどのように力になっているか、
ということなどを
受益者総会ではお伝えしたりしています。
糸井
いままでの投信の運用会社では、
これ、できなかったことなんですよね。
新井
はい、運用会社の「受託者責任」は
あくまで「お金で返さなければならない」
というところがあって、
その部分の認識を変えないかぎりは、
なかなか、
こういう会を実現することはできません。
糸井
いいことしたのはわかったけど
「で、どれだけもうかったんだ?」って
突っ込まれちゃう。
新井
その点、わたしたちは、そもそも
「資産の形成」だけでなく、
「社会の形成」を目指しているので‥‥。
糸井
受益者総会みたいな集まりができる、と。
新井
投資先の「社会の形成」のための活動と、
その活動を応援しているお客さま、
どちらかが欠けてしまっても、
お客さまへのリターンは、ないんですね。

わたしたちも、お客さまも
「お金だけでは幸せにはなれない」って
思っているからなんです。
糸井
いやあ、おもしろいと思います。

実際、批判なんかもあると思うんですが、
でも、すべての投資家が
新井さんの考えかたに賛同しなくても、
構わないわけです。
新井
別の運用会社や別のファンドに
行っていただければ、いいわけですから。
糸井
つまり、
「ぼくたちの仕事は
 これだけの人に賛同してもらえたら
 成り立つんです」
ということであって、
考えかたや方法がちがったとしても
「敵」でも何でもないわけで。
新井
そうそう、そうなんです。
糸井
「ぼくらは、
 ぼくらの気持ちいいことをして
 やっていくから」
ということだけなんですよね。
新井
おっしゃるとおりです。
糸井
ただ「そっちが善なら、こっちは悪?」
と思う人も、いるかもしれませんね。

そういう、考えの相容れない人たちとは
どう、お付き合いされてるんですか?
新井
わたしたちは公募の投資信託ですから、
言いかたは悪いですが
「来るものは、拒めない」んですね。
糸井
そういう仕組みだってことですね。
新井
では、どうしているかと言いますと
これも言いかたはあまり良くないですが
「こっちに来ないようにする」。
糸井
ほう。
新井
そのために、まずはじめに考えたのは、
「社屋の古民家」なんです。

「あんなところで、
 バカバカお金がもうかるわけがない」
という雰囲気を‥‥。
糸井
醸し出していると(笑)。
新井
なんで、わざわざ
鎌倉駅から徒歩20分の古民家まで行って
金もうけの話をせんといかんのか、
と考える人は、
そもそも、いらっしゃいませんからね。

ぼくら、事業をはじめるまで6カ月間、
えんえん「古民家再生」していたんです。
糸井
ええ(笑)。
新井
屋根裏にアライグマが住んでいたり、
戸袋にリスが住んでいたり‥‥。
糸井
いいなあ(笑)。
新井
それともうひとつ、
説明会でお客さまに必ず言うことですが
「うちはどんくさいです。
 お金も、そんなにもうかりません」と。

アベノミクスで
何十%と株価が上がってると言われても、
「われわれが目標にしているのは
 年に4%、ただ、それだけです」と。
糸井
お金に関しての期待値の低いお客さんが
集まっているんですね。
新井
もちろん、うちとしては
根拠のある数字ではあるんですけれど
人によっては
「え! たったそれだけ?」と。

もっともうかるところを探しはじめます。
糸井
なるほど(笑)。
新井
わたしたちは
「短期的な成長」を望んでいるわけでは
ないんですね。

あくまでも「持続的な社会」をつくり、
「持続的な成長」を目指す。

「そのために何ができるか?」を
投資のプロとして、考えているんです。
<つづきます>
2015-06-23-TUE

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