きょうの対談は、
みなさんがふだんされている話の、
反対のことを話す場になる気がします”

広告・マーケティングの未来を語り合う
国際会議「アドテック東京 2017」での、
JR九州の唐池恒二会長と糸井重里の対談は、
このような言葉からはじまりました。

唐池さんといえば、
豪華寝台列車「ななつ星」の生みの親。

ご自身の経験をもとに、
人を感動させる秘訣のようなものを、
糸井とたくさん語ってくださいました。

さまざまなヒントに満ちた、全4回です。

観客
ザワザワ‥‥ザワザワ‥‥。
糸井
広いなー。
唐池
人の数もすごいですね。

糸井
きょうの対談ですが、
たぶん、ここにいるみなさんが、
ふだんされている話の、
反対のことを話す場になるような、
そんな気がしております。
唐池
はい。

糸井
ぼくが唐池さんと
はじめて出会ったのは、
ある企画で唐池さんの手がけた
「ななつ星」という九州を走る
観光寝台列車に乗ったときです。
そのあと、
唐池さんの本を読んだり、
なんどかお会いしているうちに、
「ぼくと、とても近い考えを
お持ちの方だなぁ」
と思ったんです。
唐池
ああ、そうでしたか。
糸井
それで、ぼくや唐池さんが
ふだん考えているようなことを、
こういう場所で話してみたら、
どうなるんだろうと、
そんなことを思ったんです。
唐池
なるほど。
糸井
ぼく自身、唐池さんから
聞いてみたいことがあって、
それは「メディアをつくる」
ということです。
一般的に「メディア」というと、
テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、
それからインターネットを入れた
「5大メディア」の話を
される方が多いと思います。
でも、ぼくは
「メディアはつくるもの」
というふうに思っています。
ぼくの自己紹介も兼ねて、
みなさんに映像を見てもらいましょうか。
糸井
(映像を見ながら)これは、
ことし3月に六本木ヒルズで開催した
「生活のたのしみ展」の映像です。
食べもの、服、日用品、
趣味のものからアートまで、
生活の中にある「たのしみ」と
呼ばれるものを集めて、
期間限定の「町」のようなものを
つくりました。
もともとこの「町」は、
どこにも存在してなかったものです。

ぼくたちがゼロから
「生活のたのしみ展」という
「町=メディア」をつくり、
そこに「お店=コンテンツ」を
企画したり、編集したりして、
お客さんと出会える場をつくりました。

これも「メディア」の、
ひとつの例だと思うんです。
一方、唐池さんは、
ぼくとは全然ちがうやり方で
「メディア」をつくられています。
唐池
さっきいた控室でも、
糸井さんはしきりに
「『ななつ星』こそメディアである」と、
そうおっしゃってくださいました。
糸井
はい。
唐池
正直、その意味が、
あまりピンときてなかったんです。

でも、よくよく考えてみると、
地域の人、お客さま、
客室乗務員や社員など、
みんなが「ななつ星」という列車を通して、
コミュニケーションしてるわけですね。
糸井さんのおっしゃる
「メディアをつくる」というのは、
こういうことなのかなぁ、
と思ったりしているところです。
糸井
「ななつ星」を知らない方も
いらっしゃると思うので、
みなさんにいくつか写真を
見ていただきましょうか。
唐池
あ、そうですね。

唐池
(写真をスライドさせながら)
「ななつ星」の車両デザイナーは、
鉄道デザインの第一人者でもある
水戸岡鋭治さんです。
糸井
水戸岡さんを捕まえなければ、
この「ななつ星」というメディアは、
生まれていなかったでしょうね。
唐池
おっしゃるとおりです。

水戸岡さんなくして
「ななつ星」はありえません。
糸井
乗ってみて気づいたんですが、
沿道の方が「ななつ星」を見ると、
手を振ってくださるんですよね。

これも「ななつ星」の特長だと思うんです。

唐池
そうですね。

なかには「ななつ星」を見ただけで、
涙を流される方もいらっしゃいます。
糸井
え、見ただけで?
唐池
5年前に「ななつ星」がデビューした日、
福岡県うきは市の177名の方が、
鉄橋の下にある河原に
集まってくれたんです。
そこにいた半分くらいの方は、
鉄橋を走る「ななつ星」を
十数秒見ただけで、
涙を流されていました。
糸井
ああ‥‥。
唐池
ご覧になる方だけでなく、
「ななつ星」に乗られたお客さまも、
3泊4日のご旅行中に、
やはり3回か4回、
みなさん感動して涙を流されます。
糸井
はい、そうでした。

ぼくも乗ったのでよくわかります。
唐池
わたしもはじめのころは
「なぜだろう」と思っていました。

でも、最近はその理由が、
なんとなくわかってきたんです。
糸井
なぜなんでしょうか。
唐池
「ななつ星」という列車には、
デザイナーの水戸岡さん、
列車をつくった職人さん、
客室乗務員や社員などの、
思いとか気持ちとか、
これまでかけてきた時間や手間が、
「気」というものになって、
ぎっしりとつまっているんです。

糸井
気功の「気」ですね。
唐池
もともと「気」とは、
中国思想に基づく考え方で、
目には見えないものですが、
人間の健康や生活に
影響しているといわれています。
ちょっと理解されにくい考えですが、
「気」を「エネルギー」と訳しますと、
欧米人の方でもわかるそうですね。
糸井
ああ、なるほど。

見えない「エネルギー」みたいな。
唐池
そうです、そうです。

そして「エネルギー」というのは、
変化します。

蒸気機関車を例にすると、
石炭を燃やした熱エネルギーは、
運動エネルギーや電気エネルギーに
変化しますよね。
われわれが「ななつ星」に込めた
「気」も「エネルギー」なので、
つまり、変化するわけです。
糸井
ほう。
唐池
で、なにに変化するかというと、
「ななつ星」を見た方、
乗られたお客さまが、
車両に流れる「気」を「感動」という
エネルギーに変化させるんです。
糸井
ああ、ああ。
唐池
これはもう理屈じゃないんです。

ある証券会社の社長さんを
出発前の5分間、
「ななつ星」の中まで
ご案内したことがあるんです。

そしたらその方は、
たった5分間、なかを見ただけで
泣かれていたんです。
その環境にいるだけで、
感じるなにかが
あるんだと思います。
糸井
みなさんの積み重ねてきたこと、
いままでかけてきた時間が、
見えない物語のように、
そこに流れているんでしょうね。
唐池
そうやって考えみると、
糸井さんがおっしゃるように、
じつは「ななつ星」こそ
感動という情報を発信している
「メディア」なんじゃないかと、
そういう気がしてくるわけです。

(つづきます)

2017-12-15-FRI