会社はこれからどうなるのか?
「むつかしかったはず」の岩井克人さんの新刊。
『会社はこれからどうなるのか』(岩井克人/平凡社)
これは、いま読むべき、とても重要な本だと思います。
経済学のプロ中のプロが持っている重要な知識を、
1冊で「素人の知識」として受け取ることができるから。

「会社」を経営する人も、「会社」で働いている人も、
「会社」からモノやサービスを買う人も、
「会社」って何で、「会社」をどうしたいのか、
どうつきあっていくか、考えてもいい時期だと思うのです。

あまりにもおもしろい本だったので、
岩井克人さんに、興奮気味に、いろいろ訊いてきましたよ!
インタビュアーは、「ほぼ日」スタッフの木村俊介です。

第6回 差異だけが利潤を生む

最終回の今日は、
特にたっぷりおとどけ!
なにが、利益を生むのか。
どの情報に価値があるか。
根源的なところから、
岩井さんが語りますよー。


『会社はこれからどうなるのか』
(岩井克人/平凡社)
ほぼ日 『会社はこれからどうなるのか』を
まだ読んでいない人にとって、
かなりびっくりするだろうなぁ、
という「差異」の話を、
すこし、ご説明いただけますか?
岩井 わたしが、
この本の後半で言おうとしたのは、
「資本主義が大きく変わりつつある」
ということなんです。

だからこそ、
終身雇用制も年功序列制も
いまの会社では、解体しつつあるわけです。
サラリーマンの生活を選択することに対して
不安を抱く人も、増えているんです。

この本では、なぜ、
会社がそうなったのかを、説明しています。
その一部を、ここで申しますと……。

1970年代あたりから、
先進資本主義国において、
産業資本主義から、ポスト産業資本主義に、
資本主義のかたちが移りかわりつつあるんです。
高度情報化社会とか知識社会とか、
いわれてもいます。
その実際が、どういうことかを言いますと。

もともと、
利潤は、差異からしか生みだされません。
産業資本主義というのは、
「多数の労働者を使って大量生産をおこなう
 機械制工場システムにもとづく資本主義」
のことです。

もちろん、たんに工場があっても、
それだけでは、利潤は生まれません。
あたりまえですが、費用が収入より
低くないといけないわけですが、
それは結局、労働者の賃金が
その生産性よりうんと低ければいいわけです。

この
「労働生産性と実質賃金率の差異」こそが、
産業資本主義の利潤のもとだったんです。
そして、そのような「差異性」を保証したのが、
農村における過剰な人口であったのです。

つまり、
安い賃金でも働きたい労働者が、
農村から都市にどんどん流れこむかぎり、
産業資本主義は、成り立っていた。

これは発展途上国では、
現に存在している資本主義です。

しかし、先進資本主義国の中では、
産業資本主義の拡大がいつしか、
過剰人口の産業予備軍を使いきってしまった。
その結果、「実質賃金率」があがりはじめて、
「労働生産性」との差がなくなっていきました。

労賃が安かった時代では、
機械さえ持っていれば、
ほかの企業と同じことをやっていても、
必然的に、
利益を生み出すことができたんですけど。

だが、もはやそういう産業資本主義のしくみを
使えない……。
差異性を意識的に作りださなくちゃ
利益が生み出せなくなってしまった
時代になったのです。

それが、ポスト産業資本主義です。

差異性を生み出すということは、
そちらの「ほぼ日」もそうでしょうけれども、
情報を提供したり、
広告をやったりとかいう、いろんなかたちで
ほかの企業とは「違ったこと」をやることで、
それによって利益を生み出す。

でも、違いは、じきにほかの企業に
まねされてしまいますね。
だから、つねに違っているためには、
新しい技術や新しい製品を作ったり、
新しい市場を開拓したり、
新しい経営方法を発明したり、
そういう新しいものが、必要になるんです。


それが、われわれの生きている
ポスト産業資本主義社会の特徴です。
われわれは日々、
何かに追いたてられるように
忙しくなっているというのは、
そういうことです。
ほぼ日 本のなかから抜粋すると、
「『新しさ』がひたすら喧伝されています。
 なにしろ、そこでは、
 『新しさ』が価値なのです。
 いや、『新しさ』しか
 価値がないと言ったほうがいいでしょう。
 なぜならば、
 どのように独創的な製品も、最先端の技術も、
 画期的な組織形態も、未開拓な市場も、
 いつかは必ず他の企業によって
 模倣されたり、改良されたり、
 追随されたり、参入されたりしてしまい、
 その差異性を失ってしまうからです」
というところですよね。
岩井 ところが、その、
「新しい差異を、
 常に作っていかなければ、
 利潤は生まれない」という原理が
同時に何を意味しているのかというと、
「もはや機械ではなく、
 人間がもっとも価値をもつ社会である」

ということです。

利益を生み出すためには、
違いを生み出さなければならない。
それが、はっきりしたからです。

「違い」っていうのは、どこかに
ポロっと転がってるわけではなくて、
人間が作りださなくちゃならないですよね。
その違いを生み出す
能力や知識をもっている人間が、
いちばん価値を持つ存在
になっているんです。
ほぼ日 その流れで、
「今は、おカネの価値が、
 相対的に下がってきている」
とも、書かれていますね。
岩井 はい。

差異を生みだすのは人間だけど、
人間は、機械と違って、自由意志を持っている。

人間にたいして、
おカネができることは、せいぜい、
ある時間の労働力を買うだけですよね。
たとえ奴隷にしたところで、
人の考えていることまでは
コントロールすることができません。

これまでは、
おカネを持っていれば機械を買えた。
その時代は、機械をもてば、
ほぼ自動的に利益を生みだせたからこそ
おカネに力があったんですけど、
今はおカネがあっても、
おカネでは人間を
まるごとコントロールできないわけです。

ということは、
会社の中では、
おカネの最終的な提供者である
株主の力っていうのは、
従来から比べたら
弱まってしまったということなんです。

会社の中に生きている人や、
これから会社を作ろうとしている人は、
おカネではなく、人間が
本当の意味での資本になっているのだ、
そういうことを意識していないと、
将来の方向を、見誤ってしまいますよね。

会社は、いままでとは違ってきている。
そこで、どうすればいいかということを、
わたし自身としては、この本のなかで、
デファクトスタンダードとか、
コア・コンピタンスとか、
いろんな角度から、
「差異性を作り出すにはどうしたらいいか?」
という問題にかんして、
ヒントを提示しています。

もちろん、それは
いろんなヒントを与えただけであって、
ほんとの意味での「解答」を
与えているわけではないんですね。
解決策ではなくて、いまの時代に、
どういうふうに考えていけばいいかを、
この本は書いているつもりです。
ほぼ日 岩井さんは、
「経済学の偉大な著作に影響を受けてきた」
とおっしゃっていて、ご自分でも、
偉大な著作への志を持たれたわけですが、
たとえば、それは、誰の本でしたか?
岩井 ケインズ、それから、ハイエク。
かれらの本は、何度読んでも、
いつも得るところがあるんですね。

それから、マルクスは、
イデオロギー的なところは
つまらないんですけれど、
『資本論』の冒頭の価値形態論だとか、
あのへんは、ものすごくおもしろい。

マルクスは、いまは誰も
読まなくなっちゃいましたけれど、
貨幣について、
いちばん根源的な思考した人のひとりですから、
何度くりかえし戻って読んでも、
非常に価値があると思うんです。

それから、
現代の資本主義についてだったら
もう、シュムペーターですね。

『経済発展の理論』と
『資本主義・社会主義・民主主義』は、
これは、現代のポスト産業資本主義を
理解するには、非常にいい本です。
ただ、われわれは
もうすでに、その中に生きてますから。
感動は憶えないかもしれないですけどね。

まあ、それよりも、
わたしがいろんなヒントを得るのは、
たとえば小説だったりとかするんです。
ジェーン・オースティンの小説とかね。

たんにおもしろいから読んでいるのが主ですが、
彼女の作品の『自負と偏見』などには、
資本主義のことを
考えるヒントにも、満ちているんですよ。

若い女性がいかに結婚するのか、
という、一見すると取るに足らない物語です。
だが、それは、
「すべてが商品として売られなきゃならない」
という資本主義社会のなかで、
いかに人間が生きていくべきかという問題に
みごとに対応しているんです。

なぜなら、当時の若い女性にとって、
結婚とは、自分を商品のように売ることです。

そこで、自分を商品として
売らなければならないなかで、
倫理的であることはどういうことか、
いかに人間としての
尊厳を保つことができるかが
問われることになる……
19世紀のビクトリア時代の小説が、
まさに、全面的に資本主義化されてしまった
現代社会における人間の生き方を
考える上で非常な刺激を与えてくれるんです。
だから、くりかし読んでいます。
ほぼ日 くりかえし読んで発見がある本って、
ほんとに、出会うとうれしいですよね。
岩井 一般論ですけれど、
わたし自身、読書をする時に思っているのは、
「1度読んだ本は、読んだことにならない。
 2度読んで、はじめて読んだことになる」
ということです。

それはなぜかと言うと、
1度目にものを読むときには、
だいたい自分の持ってる先入観か、
世間で言われてる、その本に対する評価を、
読み取ってしまう
んですよ。

テクストそのものを読むんじゃなくて、
テクストにかんしてすでに与えられている
価値を読んでしまうんですね。

だから、2度目に読んで、はじめて
世間的な評価も、自分の先入観も取り去った
テクストそのものを読めるというわけです。

ただ、2度読む価値があるものって
わずかなんですね。非常に少ないです。
つまらない本は、2度読んでも、
世間的なことや、先入観しか書いてない。
ほぼ日 (笑)……うわぁ!
岩井 まあ、だから、逆に
そういう本はよく売れるのですけれどね。

ふつうのビジネス書っていうのは、
だいたい、そうですよね。
だから、それはそれで、
どう選別するかはむずかしいですけど、
そこで、長年の経験とか、
いい先輩からのアドバイスとか、
ものすごい重要になるんですね。

2度読む価値のある本。

2度読むためには
1度読まなくちゃならないので、
「もう1度読んで下さいね」
というのは、わたしにとって、
学生に対する、唯一のアドバイスなんです。
ほぼ日 なるほどなぁ。

人生は有限ですし、
人は時間をいろんなものに使うから、
本を読む時間にしても、
他にもありえたかもしれない時間と、
対決しているわけですよね。
先人のアドバイスが大事っていうのは、
ほんとにそうだ、と思いました。
岩井 だから、
これから重要になるのは、
エディターの役割ですよね。

ほんとうに2度読める本の紹介。
1度読む本っていうのは、もう、
ベストセラーリストを見ればいいわけでして。
だから、わたしは、
「2度読むべき本」というか、
「2度読むために
 1度目を読まなくてはならない本」
の示唆をするのが、エディターだと思っています。
  (※今日で、この連載は終了いたします。
  ご愛読、ありがとうございました!
  感想やご意見など、気軽に送ってくださいね♪)



これまでのインタビュー
  第1回  悩みは無知から生まれる
  第2回  成功を約束されていたけれど
  第3回  違和感が発見をきりひらく
  第4回  会社は株主のものではない
  第5回  「信任」こそ社会の中心

岩井克人さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「岩井克人さんへ」と書いて、
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2003-04-23-WED

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