田中泰延×糸井重里アマチュアのその先に
担当・コットン
第3回 ご近所の人気者が一番すごい
- 糸井
-
僕のような、アマチュアが辿り着く先は、
「ご近所の人気者」だと思うんです。
- 田中
-
本当にそこですね(笑)。「ご近所の人気者」。
- 糸井
-
「ご近所の人気者」っていうフレーズは、『じみへん』で、
中崎タツヤさんが、書いた言葉なんですよね。
それをうちのカミさんが、「俺だ」って言ったんですよ。
- 田中
-
『じみへん』はもう、仙人くらいの、スタンスの
崩れなさですよね。
- 糸井
-
凄味がありますね。主人公の青年から見て、
お母さんがやってることがすごく馬鹿に見
えるんですね。庶民の家ですから。青年が、
「母さんは、何かものを考えたことあるの?」って
怒りをぶつけるんですよ。つまり自分の血筋に
対する怒りですよね。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
そうすると、お母さんが、「あるよ。寝る前にちょっと」
って言うんですよ。
- 田中
-
(笑)
ものすごい凄味ですね、それは。
- 糸井
-
でしょう?青年がどういう顔したかも覚えてないん
ですけど、一生忘れられないと思った。
僕は、「寝る前にちょっと」を探す人なんです(笑)。
「寝る前にちょっと」の人たちと一緒に
遊びたい人なんで(笑)。
- 田中
-
はいはい、わかります(笑)。僕が会社を辞めた理由の
1つには、人生、すごい速く感じてきたなと思って。
80いくつで死んだ、うちの祖母さんが死ぬ前に言った、
忘れられない一言があるんですよ。
「あぁ、この間18やと思ったのに、もう80や」って(笑)。
- 一同
-
(笑)
- 田中
-
60数年のこの時間をピョーンって、そりゃあ速いわなぁ
っていう。
- 糸井
-
それって、「ご近所の人気者」の話なんですよね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
地理的なご近所と、気持ちのご近所と、両方あるのが
今なんでしょうね。アマチュアであることと、
「ご近所感」って、隣り合わせなんですよ。
- 田中
-
うんうん。
- 糸井
-
アマチュアてことは、変形してないってことなんですよね。
プロであるってことは、すなわち、変形している。
- 田中
-
変形?
- 糸井
-
これは吉本隆明さんの受け売りで、吉本さんはマルクスの
受け売りなんですけど、「自然に人間は働きかけて、
働きかけた分だけ自然は変わる」。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
わかりやく言うと、「ずっと座り仕事をして、ろくろを回す
職人さんがいたとしたら、座りタコができているし、
指の形も変わっているかもしれないように、反作用を
受けてるんだよ」と。「1日だけろくろを回している人には
それはないんです」って。
- 田中
-
そうですよね(笑)。付かないですね。
- 糸井
-
でも、「ずっとろくろを回している人は、職人化して
くるわけです。職人化することがプロになるという
ことであると僕は思っていて。だから、僕と泰延さんの
「超受け手でありたい」っていうのも、すでに職人に
なってるわけですよ。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
その意味では、アマチュアには戻れないだけ
体が歪んじゃってるわけです。
- 田中
-
はいはい。
- 糸井
-
でも、どの部分で歪んでないものを維持できているか
っていうところに、「ご近所の人気者」があって。
- 田中
-
なるほど(笑)。
- 糸井
-
うち、夫婦ともアマチュアなんですよ。
- 田中
-
えぇ?奥様は、プロ中のプロのような気がするんですけど。
- 糸井
-
違うんです。「プロになるスイッチ」を入れて、その仕事が
終わったら、アマチュアに戻る。そういうタイプの人は、
世の中にいて、プロから見たら、卑怯ですよね。
- 田中
-
そうですよね。
- 糸井
-
カミさんは高い所とか、本当は苦手なんですよね。
「じゃあ、仕事ならやる?」って言うと、「やる」って。
- 田中
-
おっしゃるんですね(笑)。
- 糸井
-
「できるに決まってる」と、「仕事じゃない時に
絶対しない」は両立なんですよ。
- 田中
-
なるほど。
- 糸井
-
プロだと、「次もあるから、それやっちゃだめだよ」とか、
「そこで120パーセント出したら、そういうイメージが
付いちゃうから、だめだよ」みたいなことを考えますけど、
アマチュアだと、へっちゃらなんですよね。
たぶん、今、泰延さんは、生きていく手段として
問われていることが山ほどあって。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
みんなが興味あるのは、泰延さんが社会に機能するか
どうかということばかりで、「何やって食って
いくんですか?」、「何やって自分の気持ちを維持
するんですか?」って聞かれて、面倒くさい時期ですよね。
- 田中
-
そうですね。今まで担保されてたものがなくなったので、
みんなが質問するし、僕もまぁ時々、どうやって
生きていこう?って考えるし。糸井さんが、40代の時に、
広告の仕事を一段落つけようと思った時に、こういうことに
直面されましたか?
- 糸井
-
まさしくそうです。冒険ばかりでしたけど、平気だったん
ですよ。理由の1つは、俺よりアマチュアなカミさんが
いたことはでかいんじゃないかな。
「こういうことになるけど、いい?」って、聞いた
覚えもないし、後で「あれは聞くべきだったかな」
みたいなことを聞いたら、「いや、別に」って。
たぶん、自分が働くつもりでいたんじゃないですかね。
<つづきます>