- 糸井
-
ぼくが田中さんを「書く人」と認識したのが、
東京コピーライターズクラブの‥‥。
- 田中
- リレーコラム。
- 糸井
-
そうです。読みはじめたらおもしろくて、
まだ2年前とかですよね?
- 田中
- 書いたのは2015年の4月くらいです。
- 糸井
- それまで本人名義で書くことは?
- 田中
-
ないです。コピーライターとしては、
キャッチコピーで20文字、
ボディコピーで200文字ぐらいですから。
それ以上長いものは、一度もないというか‥‥。
- 糸井
- みんな笑ってます(笑)。
- 田中
-
そのあと書くっていったら、
2010年にツイッターをはじめてからですね。
- 糸井
-
じゃあ、広告の仕事をしている時は、
本当に広告人だったんですか?
- 田中
-
はい。主にテレビCMでした。
関西はポスター・新聞・雑誌の仕事がすごく少なくて、
出版社も新聞社も全部東京なので。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
いわゆる文字を書くという仕事がなく、
実質20年くらいはテレビCMの企画ばかりでした。
もちろんテレビCMの最後にはコピーが必要なんですが。
- 糸井
- 来てね、とか。
- 田中
-
そうです(笑)。だから、ツイッターを始めたころは、
文字を打った瞬間に活字になって人が読む、
という感覚に飢えていた気がします。
- 糸井
- はぁ‥‥。なんというか、すごい溜まり方ですよね。
- 田中
-
もう、それはそれは、
溜まりに溜まった何かが(笑)。
- 糸井
- その筆下ろしが、コピーライターズクラブ(笑)。
- 田中
- そうです。リレーコラム。
- 糸井
-
800字くらいだったかな。
そのうちの中身にあたるものはほとんどなくて、
600字くらいはどうでもいいこと。
- 田中
- いまといっしょ(笑)。
- 糸井
- でも、おもしろかった。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
-
「はあ、こういう文章を書く子が出てくるんだ」って、
はじめ27、8の若い人だと思っていたから。
- 田中
- 本当は46、7のオッサンだった(笑)。
- 糸井
-
そこに20歳の開きがあったわけで、
ネットでの映画評みたいなのは、そのあとですか?
- 田中
-
そうです。BASEの西島知宏さんが、
2015年の3月に突然大阪を訪ねて来られて。
糸井さんが見たそのリレーコラムと、
ツイッターで書いてた映画評みたいなのを見ていて、
それで「うちで連載してください」と。
- 糸井
- はぁ。
- 田中
-
そのとき「分量はどれくらいですか?」って聞いたら
「ツイッターみたいに2、3行でいいです」と。
- 糸井
- (笑)
- 田中
-
「映画観て、2、3行書くだけ?」って確認したら、
向こうも「そうです」っていうんです。
それならと思って引き受けたんですが、
そのあと映画を観て、次の週だったかな、
とりあえず7000字の原稿を送りました。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 2、3行のはずが7000字に(笑)。
- 田中
- 書いてみると、もう止められなくて。
- 糸井
- 溜まってるからね、性欲が(笑)。
- 田中
-
ええ。無駄話が止まらない経験をはじめてしました。
キーボードに向かって、
「俺は何をやっているんだ、眠いのに」って。
- 糸井
- それは、うれしさから?
- 田中
-
なんでしょう、これを面白がってくれる人がいると思うと、
ちょっと取りつかれた感じになったというか‥‥。
- 糸井
-
それが雑誌の仕事だったら、
急に7000字ってまずないですよね。
頼んだほうも頼んだほうだし、
メディアもインターネットだったし、
本当にそこの幸運はすごいですね。
- 田中
-
雑誌に寄稿したこともあるんですが、
雑誌は直接の反響がわからないので、
どこかピンと来ないんです。
- 糸井
-
それはインターネットネイティブの発想ですね、
若くないのに(笑)。
- 田中
-
45歳でした(笑)。すごくシャイな少年みたいに、
ネットの世界に入った感じですね。
はじめてのことだったので
「自由に書いて、明日には必ず誰かが見る」と思うと、
それだけでちょっとうれしくて。
- 糸井
- うれしいですねぇ。
- 田中
-
ただ、いまはまた別のフェーズというか、
前は大きな会社の社員だったので、
仕事をしながら書くことができましたが、
いまはそれだけでは生活の足しにならない。
「じゃあ、これからどうするの?」というのが、
いまの悩みというか‥‥。
- 糸井
- 若者からの相談です(笑)。
- 田中
- そうですね(笑)。はい、なので‥‥。
- 糸井
- おもしろいねぇ。
- 田中
-
でも、ぼくの中では相変わらずお金じゃなくて、
読んだ人の「おもしろい」とか「この結論は納得した」とか、
そういう声が報酬ではあるんです。
家族はたまったもんじゃないでしょうけどね、それが報酬だと。
- 糸井
-
田中さんは、自分が文字を書く人だとか、
考えたことを文字にするという認識そのものがなかった。
それに気づくのに20年以上かかったわけですが、
自分は書くのが「嫌い」とか「好き」とかはあったんですか?
- 田中
- 読むのは好きです。
- 糸井
- あぁ‥‥。
- 田中
-
ひたすら読むのは好きでしたが、
まさか自分がダラダラとものを書くとは、
夢にも思っていなかったです。
- 糸井
-
うーん‥‥。いまの話を聞きながら、
頭の中でちょっとこう、考えていたんですが。
- 田中
- ええ。
- 糸井
-
はじめて言葉にしますが、なんというか、
「読み手として書いているタイプの人」
っているんですよね。
自分もちょっとそういうところがあって。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
コピーライターって
「書いてる人」という意識ではなく、
「読んでる人」の意識で書いている気がするというか。
- 田中
- ああ、はい。それ、すごくよくわかります。
- 糸井
-
視線は読者に向かうわけじゃなく、
自分は読者で、
自分が書いてくれるのを待ってるんです。
- 田中
- ああ、そうです。すごくよくわかります。
- 糸井
- この感じ、説明がむずかしい(笑)。
- 田中
- むずかしいです。でも、発信じゃないんです。
- 糸井
- 受信してるんです。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
で、自分に意見がない人間が
書かないかっていうと、それは大間違いで。
- 田中
- そうそう。
- 糸井
-
本当は読み手というか、
受け手であることを伸び伸びと自由に楽しみたい。
「それを誰がやってくれるの?」って考えていくと、
結局は「俺だよ」ってなる。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- あぁ、なんて説明したらいいんだろう、これ(笑)。
- 田中
-
映画評を書くときもそうですが、
いろんな人がネットや雑誌で評論するわけで、
ぼくの文章は
「何でこの中に、こういう見方がないの?」なんです。
- 糸井
- うんうん。
- 田中
-
それがすでにあったら、
もう自分が書かなくていいんですけど、
「こういう見方、なんでないの?
じゃあ、今夜俺が書くの?」ってなる。
- 糸井
-
あぁ、いまやっとわかりました。
なぜ田中さんが、20年以上も書かない時代があったのか、
それは、広告屋だったからだ。
- 田中
- そうです。
- 糸井
- あぁ‥‥、因果な商売だね。
- 田中
- ええ。広告屋は発信しないですから。
- 糸井
- しない。でも、受け手としては感性は絶対にあるわけで。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
発信しなくても個性はあるんです。
自分にピタッと当てはまるものを探してるんだけど、
どこにもないし、誰も書いてくれない、
だから「え、俺がやるの?」になる。
ぼくはそれが仕事になっていったんです。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
- 自分のやってきたことも、いまわかった気がしました。
(つづきます)