秋も深まりつつある日、新宿からのバスを
八ヶ岳のふもとにある長坂インターで降り、
柿の木に、たくさんの実がなる姿がかわいい
田園風景をながめながら歩いていくと、
白い壁に三角屋根の建物が見えてきた。
近づいていくと、ギャラリートラックスの看板がある。
あ、ここだ。
あざやかな紅葉に迎えられるように足を踏み入れると、
そこには心地のよい静けさが広がっていた。
ギャラリートラックスは、
オブジェや家具、空間デザインをはじめ、
多彩な表現活動によって、多くの人を魅了した
いまは亡き、木村二郎さんと
パートナーの三好悦子さんのふたりによって、
1993年につくられた。
それ以来、現代アートや写真をはじめ、
たくさんの若手作家を育ててきて、
国際的に活躍している人も少なくない。
このとき行われていたのは、
坂口恭平さんのドローイング展だった。
訪れているのは、地元の人だけでなく、
この日も、東京や名古屋、さらには九州から、という人も。
じっと絵に見入っている人もいれば、
その場で出会った人たちが、
お気に入りの一枚をめぐって、
楽しそうに話していたり、
ストーブにあたりながら、
ひとり本を読んでいる人もいて、
みんなが思いおもいに、
この空間を、作品を楽しんでいる。
事前に予約を入れておくと、
オーナーの悦子さんの手料理によるランチを
いただくことができて、
それをたのしみに来る人も多いのだとか。
この日のメニューは、
地元の野菜をふんだんに使ったサラダに、
ごぼうのポタージュ、プレートいっぱいのおかず、
舞茸とむかごの炊き込みごはん。
とてもおいしかったです。
窓のむこうに広がる風景を眺めながら、
土地のものを食べていると、
目の前の八ヶ岳の自然そのものを
からだの内にとり込んでいるような
気がしてくるから、不思議なものだ。
ギャラリートラックスには、
いつまでも、そこに居てたたずんでいたくなるような、
そんな空気が流れている。
展示作品だけでなくて、
ギャラリーの空間自体が
ひとつの作品と言ってもよいような。
そこで過ごす特別な時間を求めて、
ひとがやって来るような、
そんな場所だ。
現代美術を扱うギャラリーはたくさんあるけれど、
こういう場所を他に、わたしは知らない。
トラックスは、どのようにしてできたのだろう?
もともと保育園だったこの場所を、
ひと目みて気に入り、内装から家具からすべて
自らの手で、いちから作りだしたという、
木村二郎さんは、どんな人だったんだろう?
悦子さんが、話してくれました。
(つづきます)