糸井 これから社会に出ようとする人、
あるいは就職活動をしている人は、きっと、
「私は社会に出て機能していけるだろうか」って
ガチガチになって心配していると思うんですけど、
会社は、社会に出たばかりの人に対して
そもそも機能を期待してませんよね。
「あなたという部品がダメだったとき、
 会社という機械は動かなくなるんだよ」
という脅かし方を企業はしてないと思うんです。
岩田 してないですよ。もっというと、
「機能や部品」という発想をしたことがないです。
糸井 うん。
そういう前提がちょっとでもわかると、
最初の何ヵ月かが楽になるかもしれないね。
とにかく最初はヘマばっかり
やるに決まってるんだから。
岩田 新しく社会に出たばかりの人は、
いろんなことを知らなくて当たり前なんですから、
「知らないことを恥ずかしがらない」
ということがすごく大事だと思うんです。
その一方で、いかに同じことで何度も
ほかの人を煩わせないかということ。
だから、けっきょく、新人が会社から
いちばん求められていることは
「飾るな」ということなんです。
「オレってけっこう賢いでしょ?」
って思わせるようなことは、
先輩には、みんなバレますから。
糸井 バレますね。
岩田 しかも、バレるうえに、
すごく「感じが悪い」んですよね(笑)。
糸井 感じ悪いですよねぇ(笑)。
つまり、その飾りを落としてからが本番で、
飾りとかプライドとかいう垢みたいなものを
落とすまでは研修期間みたいなものですよね。
下手したらそれが3年くらい続く人もいるから。
岩田 そこはすごい個人差がありますね。
糸井 最初の垢さえなければ
うまく吸収してもらえるのになってことは、
会社の先輩がいちばん思うことですよね。
岩田 はい。
糸井 だから、フレッシュマンはね、
飾らず、見栄を張らず、精一杯やって、
ニコニコしてればいいんだよね。
どうせ失敗はするんだからね。
なんだろう、やっぱりみんなね、
「怒られるのがへっちゃら」
みたいに見える子って、大好きよ。
「こいつ、怒ったら傷つくだろうな」
っていう子は、やっぱり気を遣うしね。
岩田 あのね、どういうわけか、
明らかに説教しやすい人と、
しにくい人がいるんですよ。
糸井 それそれそれ(笑)。
岩田 安心して「バカもん!」と言える人と、
腫れ物に触るように
叱らないといけない人がいるんですよね。
で、これはねぇ、ものすごい差なんです。
こちらから与えられる量も、
その人が吸収できる量も、
ものすごく変わってくるんですよ。
糸井 いや、ほんとにそうです。
岩田 ですよねぇ(笑)。
そして、「バカもん!」って
安心して言える人が入ってくると、
ものすごく職場の人たちはうれしい。
糸井 言われる本人もものすごくチャンスが多くなる。
岩田 ええ。ものすごくたくさんのことを
短期間に学べるんですよ。
ああ、いや、もちろん、
「ぜひ、バカなことをしなさい」
と言ってるんじゃないですよ(笑)。
糸井 うん。バカなことは、言われなくても
勝手にしちゃうものだからさ(笑)。
しかし、なんなんだろうね、
あの「バカもん!」と言える感じは。
人としての弾力性みたいなことかな?
岩田 ひとつは、動機や行動が純粋で、
悪気がないことでしょうね。
糸井 うん、うん。
「強い、弱い」とは違いますよね。
岩田 「強い、弱い」じゃないですね。
糸井 で、誰でもできるはずのことですよね。
岩田 ええ。
糸井 なんでしょうね。
「怒ってください」とも違うしね。
なんだろう、なんだろう。
「こっち向いててくれる子」なんだよね。
岩田 つまり、前提として、こちらが
「その人の人格を否定してない」ということが
相手にわかってもらえてるからこそ、
安心して「バカもん!」と言えるんですよね。
糸井 ああ、そうですね。
つまり、その前提を、その人の側から
表現している必要がありますね。
岩田 そうですね。知識もスキルもないけれども
「あなたの言うことを
 私は受け入れる用意があります」っていうことが
その人から伝わってきてるんでしょうね。
糸井 うん、うん。
そういう人が来てくれると
本当に会社はうれしいんだよ。
岩田 逆に、腫れ物に触るように
叱らなくてはならない人っていうのは、
「ここからは入ってこないでください」
っていうバリアーみたいなものを
周囲に感じさせてしまう人なんでしょうね。
そこに踏み込んでしまうと
その人を壊してしまうんじゃないかと
まわりの人たちが気を遣ってしまうというか‥‥。
ああ、だから、やっぱり、
「あなたが大切にしてきたことはなんですか?」
という話に通じることかもしれません。
糸井 そうですね、そうですね。
岩田 その人の大切なものがなにかわかってれば
安心して「バカもん!」って言えますけど、
大切なものがなんだかわからない人には、
怒ったらその人の大切なものを
意図せず踏みにじってしまうかもしれない
という恐怖がありますからね。
糸井 そういう人は、
自然に機会を失っていっちゃうんですよね。
それはもう、その人の才能とか優秀さとは
まったく別の次元の話で。
岩田 ええ。
糸井 だって、技術や才能がなくても、
そこにいて、なにかに立ち会って、
「すげー!」って拍手するだけで、
仕事って磨かれていきますからね。
なにかに拍手をする人間になることって
自分の仕事をやりとげることに重なるんです。
それはもう、「オレにはできないな」って
わかるだけでもいい。
岩田さんのよく言う「当事者意識」を持ちながら
なにかに真剣に接するだけでいいんですよ。
「バカもん!」って言われやすい子は、
「すげー!」って拍手することで
どんどん磨かれていくんですよ。
岩田 そのとおりですね。
糸井 具体的には、どうすればいいのかなぁ。
やっぱり笑ってる分量だと思うんですよね。
また「こころ」の問題になっちゃうんだけど、
表情としてよりも、「こころが笑顔」の人。
組織とか会社って、性質上、どうしても
「こころ」をないものとしてしまうんだけど、
あるに決まってるじゃないですか。
人ってやっぱり「こころ」が見える人と
仕事をしたいんですよ。
岩田 わかりやすくいうと、
「本当にやりたそうにしてる人」に
仕事は渡したいんですよね。
糸井 ああ、それです!
社長は明言しました(笑)!
いや、そうです、本当に。
岩田 なるべくならね、人間ですからね、
イヤそうにしている人に
渡したい人なんかいないんですよ。
糸井 だからこそ、「こころ」を見せてくれている人、
「バカもん!」って平気で怒れる人に
仕事や機会は集まるんですよね。
これは、どんなデキの悪い子にも
コツとして教えてあげたいね。
楽になる、その人だけじゃなくて、みんなが。
岩田 はい。
(続きます)


2008-04-17-THU



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