便利さと、コミュニティを守ることと。
- ほぼ日
- 今日は実は、事前のメールのやりとりで
ジャムを持ってきてくださると聞いて、
パンを買ってきたんです。
あと、これがうちで販売しているジャムで、
「おらがジャム」と「感じるジャム」です。
- 佐久間
- あ、うれしいです!
こんなところでジャムを食べられるとは。
「本気めんどくさ仕込み」という
言葉もいいですね。
- ほぼ日
- この「おらがジャム・あんず」は
旬のあんずをもとに、オーブンドライなどの
すごくめんどうな作り方をすることで
果物のおいしさを引き出しているジャムです。
もう一つの「感じるジャム(みっくすベリー)」は
5種類のベリーのミックスジャムで、
食べるたびに味がちょっとずつ違ってたのしい、
というジャムなんです‥‥よかったらどうぞ。
- 佐久間
- すごい。凝ってますね。
贅沢やなぁ‥‥いただきます。
- ほぼ日
- ぼくらも、佐久間さんがお持ちくださった
こちらの「アナーキー・イン・ア・ジャー」の
ジャムを食べてみていいですか。
- 佐久間
- もちろんです。
いまのジャムの話、アメリカ人って
「細部の工程を徹底的に凝る」とかが
あんまり得意じゃないから、
「食べるたびに味が違う」みたいな発想は
たぶんできないと思います。
彼らは「発想で勝負」のタイプだから。
- ほぼ日
- このジャム、バルサミコ入りとかですもんね。
「ストロベリーバルサミコ」に、
「グレープフルーツ&スモーク塩マーマレード」。
- 佐久間
- そう、この組み合わせを思いついたというのが
彼女のオリジナリティなんですね。
食べくらべるとおもしろいと思います。
‥‥あ、このジャム、おいしいですね。
- ほぼ日
- 持ってきてくださったジャムも、
すごくおいしいです。
なんだか、日本のジャムとは
違う発想のおいしさ、という感じがします。
- 佐久間
- 自分で持ってきたものですけど、
わたしもちょっとだけ‥‥うん、おいしい。
このジャム、いつ食べてもおいしいと思うけど、
比べるとやっぱり、
日本のジャムのほうが繊細な味ですよね。
- ほぼ日
- たしかに。どっちもおいしいけど、
キャラクターがちょっと違いますね。
- 佐久間
- そう、どっちももう、
すばらしくおいしいんですけど、っていう。
- ほぼ日
- 食べくらべ、おもしろいです。
- 佐久間
- あと、このジャムの作り手のレイナちゃんは、
最近レシピ本とかも出してるんです。
だから「作り方は内緒」とかじゃなくて
「よければ自分で作ってください」という、
オープンソース的な考え方。
そういうところもおもしろいですよね。
- ほぼ日
- ちなみに、このジャムの材料は
ニューヨーク近郊のものなんですか?
- 佐久間
- ええ、彼女はそういったところも
気にしながらジャムを作ってますね。
ニューヨークって北に1時間も走ると
カナダの国境までずっと大自然で、
農家も多いので、彼女はその人たちをまわって
ジャムの材料を仕入れてるんです。
- ほぼ日
- ニューヨークの消費者の人たちは
「地産地消」みたいなことって、
みんな、けっこう気にしてるんですか?
- 佐久間
- そういった作り手が増えているので、
そこはおそらく買うほうの気持ちと
呼応しているんじゃないかな、とは思いますね。
みんな、すこしずつ
「食べものによっては、価格のかなりの部分が
運送費やエネルギーに使われている」
といったことを理解しはじめてますし。
そのあたりのことは
「ホールフーズマーケット(Whole Foods Market)」の
登場以降、
みんな少しずつ啓蒙されてきていると思います。
- ほぼ日
- 「ホールフーズマーケット」の登場というのは
どういうことだったのでしょうか。
- 佐久間
- 「ホールフーズマーケット」は
オーガニック食品やグルメ食品を
たくさん扱っているスーパーなんですが、
最初に登場したとき、
やっぱりみんなすごく衝撃を受けたんですよ。
テキサス発のスーパーマーケットで、
広がりだしたのが1984年。
マンハッタンの1号店が2001年だから、
ニューヨークにやってくるまでにも
ずいぶん時間はかかってるんですけど、
有機農法の野菜を食べることが一般的になったのは、
「ホールフーズ」の影響が大きいですよね。
彼らは「なぜこういう食べものがいいか」ということを
しっかり説明しながら、販売しているんです。
- ほぼ日
- そしていまでは、このジャムのような、
少量生産の食べものも活気があって。
- 佐久間
- みんな、ほんとうに手作りでやってますしね。
まあ、手作りだからこその
「毎回、買うたびに味が少しずつ違う」
みたいなことはあるんですけどね。
- ほぼ日
- たしかに手作りだと「ブレ」はありますね。
- 佐久間
- だけど少量生産のものを買うというのは、
そういったブレも含めて
「生産者を買い支える感覚」なんですよね。
- ほぼ日
- 「買い支える感覚」もあるんですね。
- 佐久間
- 日本だとあまり意識されていないのかも
しれないのですが、
アメリカではリーマンショック以降、
みんなのなかに
「大切にしたいものは、
みんなで支えないと、なくなっちゃう」
という意識がずいぶん広まったんです。
- ほぼ日
- そうなんですか。
- 佐久間
- たとえば、リーマンショックの後、
みんながいちばんびっくりしたのは、
「町から本屋がなくなった」ことなんです。
もともとニューヨークでも
あちこちに町の本屋があったんです。
だけど、リーマンショック前に
書店チェーンの「バーンズ・アンド・ノーブル
(Barnes & Noble)」が
どんどん店舗数を増やしていったことで、
小さな本屋が少しずつ、少しずつ、
休業に追い込まれてしまっていたんです。
でも、リーマンショック後、
「バーンズ・アンド・ノーブル」も不景気で
いちど出した店をどんどん閉めたんです。
‥‥で、いま、ニューヨークでは
本屋がほんとうに少なくなってしまって、
本屋のないエリアとかもあるんです・
「自分の住んでる地域に本屋がない」って、
けっこう大きなことですよね。
- ほぼ日
- それはほんとにそうですね。
- 佐久間
- あと、本つながりの話で言うと、
2年ほど前にアマゾンが
「プライスチェック(PRICE CHECK)」という
スマートフォン用アプリを出したんです。
これは
「いろんなお店にある本のバーコードを、
スマートフォンで撮影すると、
その本のアマゾンの値段が出る」
というものなんですが、
さらにそのお店での本の値段を
「みんなにシェアできる」んです。
‥‥このしくみ、かなり怖いでしょう?
アマゾンが、消費者をスパイのように使って
いろんな書店で本がいくらで売られてるか
吸収できちゃうんです。
(※アメリカでは、本の値段はお店ごとにさまざま)
- ほぼ日
- それは、小さなお店側から見ると、
そうとう怖いしくみですね。
- 佐久間
- そう。消費者としては便利かもしれないけど、
それを使うことによって
たくさんの小さなお店が危機に瀕するとしたら、
「それってどうなんだろう」という話ですよね。
そのとき、
「さすがにそれはやりすぎなんじゃないか」って
アマゾンはすごく批判されたんです。
- ほぼ日
- たしかに便利かもしれないけれど、
「みんながうまく暮らせるか」で考えたら。
- 佐久間
- そう。だから本を注文するときに
少しだけめんどうかもしれないけど
みんなが家の近所の本屋に注文をお願いしたら、
その店がちょっと助かって、潰れずにすむかもしれない。
みんなの「近所に本屋がある生活」も守られる。
「残したいものはみんなでサポートしないと
本屋のようになくなっちゃうかも」
という感覚はいま、アメリカでは、
みんなに徐々に広まってきていると思います。
- ほぼ日
- 自分がただ「便利!」と思ってやっていたことが、
知らないうちに誰かをすごく圧迫してるとしたら、
それは、すごく嫌ですね。
- 佐久間
- むずかしい部分なんですけどね。
だけど、むずかしいけれど、
わかってないと考えることもできないから、
知識を得て、じぶんで考えるしかない。
「自分たちの便利さや、すてきな生活のために、
誰かや何かが犠牲になっていないか」とか
「そこまでの便利さがほんとうに必要なのか」
といったことについては、
みんな、昔より考えるようになってると思います。
- ほぼ日
- アメリカだとそのあたりのことについては
企業の意識も高いんですか?
- 佐久間
- わりと高いと思います。
というのが、アメリカ人って正義感が強くて
「社会に貢献してる会社のものを使わなきゃ!」
みたいな意識がみんなにわりとあるんですね。
だから、企業がどんな存在と見られているかが
すぐにお金に跳ね返ってくるんです。
そういった状況があるから、企業の社会的貢献(CSR)や
「環境にいいことをしてます」も
ブランディングの一環になっていますし、
だから「あの工場は働く人たちへの搾取が酷い」
といった話題が広まると、
その企業はものすごくダメージを受ける。
それがいいことかどうかは一概には言えないけれど、
お金の動きがわかりやすいことで、
多くの企業が社会的貢献などを
強く意識的するようになっている、
というのはあると思います。
(つづきます)
ニューヨークにおける
「地産地消」の動き。
日本でも「地産地消」が注目されていますが
ニューヨークでは、だいたい100マイル圏内で穫れる
農作物を使おうという動きを「ローカヴォア」と呼びます。
アンドリュー・ターロウさんが経営する店をはじめ、
ニューヨークでは、近郊で穫れる食材を使うレストランが
驚くほどの勢いで増えています。
メニューの説明書きに「◯◯農園のトマト」などと
書かれていることもありますが、
最近では声高に宣伝しなくても、近郊のものしか使わない、
そんなお店も増えています。
最近、私がはまっているのは、地産地消のエスニックフード。
素材の力で勝負するタイ料理や中華のレストランに夢中です。
こうやって小さないいことが、当たり前になっていくのを
目撃できることが、日々の喜びになっています。