ほぼ日刊イトイ新聞

C・シルヴェスター編『THE INTERVIEW』
(1993年刊)によれば、
読みものとしての「インタビュー」は
「130年ほど前」に「発明された」。
でも「ひとびとの営み」としての
インタビューなら、もっと昔の大昔から、
行われていたはずです。
弟子が師に、夫が妻に、友だち同士で。
誰かの話を聞くのって、
どうしてあんなに、おもしろいんだろう。
インタビューって、いったい何だろう。
尊敬する先達に、教えていただきます。
メディアや文章に関わる人だけじゃなく、
誰にとっても、何かのヒントが
見つかったらいいなと思います。
なぜならインタビューって、
ふだん誰もが、やっていることだから。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

05
質問は具体的に。

──
結局、本にならなかった人も‥‥。
塩野
いますね。
──
そうですか。
塩野
がんばっても、がんばってもねえ、
ダメだったんだなあ。
──
何度行って、何度お話を聞いても。
塩野
結局、その人の人生が、
浮かび上がって来なかったんだよね。

石工(いしく)さんだったんだけど、
石のおもしろさとか、
石の目をきれいに割ったりする技術、
お城の石垣を組むときに
大事になる石はどこだ‥‥とか、
おもしろい話はいっぱいあるんだけど、
その言葉に、説得されなかった。
──
塩野さんが。
塩野
熊本城、岡山城、松山城、江戸城、
名古屋、大阪‥‥
いーっぱい一緒に行ったんだけど。
──
そんなに。
塩野
カメラマンにも、
こっちからもあっちからもそっちからも
たくさん撮ってもらって、
写真集だったら、
いつでも一冊にできそうだったんだけど。

文章に、ならなかったんだね。
──
その方の技術は、文句なしなんですよね?
塩野
日本一。日本一の石工。

その人を二子玉川の高島屋に連れてきて、
お客さんの前で公開インタビューして、
こーんな大きい石が、
パカーンってあっという間に割れるわけ。
──
すごい。
塩野
その感激を、本にしたかったんだけど。
──
どうしてでしょう‥‥その人の場合は、
言葉よりも、
技術が先に行きすぎてたんでしょうか。
塩野
言葉の要らない人だったんだろうねえ。

そういう職人さんに対して、
ぼくが、
一所懸命に言葉にすることを促したり、
くすぐったりしながら、
「技術を言語化するゲーム」を‥‥
ずっと、やってたのかもしれないなあ。
──
無理矢理に言葉を引き出すというのは、
聞き書き的じゃないですものね。
塩野
誘導尋問になっちゃうからね。
──
結論ありきで取材に来るインタビュー、
たまにあるって聞きますし。

こう言ってほしい、が先にあるような。
塩野
そう。

戦争経験者の聞き書きの本をつくると
なったときに、
「戦争中、どこに住んでましたか」
「昭和20年の8月15日は、
どこにいらっしゃったんですか」
「お歳は、おいくつでしたか」
みたいなことは、聞いていいんだけど。
──
ええ。
塩野
「ご親族で戦死されたかたはいますか」
あたりに踏み込んでいくと
「悲しいですね」
とか、
「戦争っていけないですよね」
みたいな、結論のわかっている方向に、
話が行っちゃうんだよね。
──
そこは、すごく気を使ってるんですね。

いや、自分がインタビューアだったら、
ふつうに聞きそうな質問だと思うので。
塩野
聞き書きの場合はね、ま、どうしても。
相手の言葉だけで構成するから。
──
あえて「聞かない質問」がある。
塩野
そう、だから、どうしても、
テーマをガッチリ決めすぎちゃうと、
質問が誘導的になるので、
警察の取り調べみたいになるんです。
──
聞き書きの文章を読んで思うことは、
本当に、ひとつひとつの事実の積み上げで
できている読みものなんだなあ、と。
塩野
そうだね。
──
でも、他の形式のインタビューの場合って、
必ずしも、そうじゃないですよね。

それが悪いというわけじゃないんですけど、
「コンセプト」みたいな、
すごく抽象的なことを、やりとりしてたり。
塩野
ぼくは、その人の体験から出てくる言葉を、
つかまえたいと思ってるから。
──
そのために、
具体的な答えが返ってくるような質問を、
していると。
塩野
たとえば、
「あなたのつくったこのテーブルは、
どんなことを思って
こういうデザインにしたんですか?」
って聞いたりするじゃない、よく。
──
まさしく「コンセプト」ですよね。
塩野
聞き書きの場合は、
そういうことは、いっさい聞かないわけ。
代わりに
「では、このテーブルに使っている木は、 
何という木ですか」
「檜ですか。どこの檜ですか。
吉野ですか、木曽ですか、裏山ですか」
「吉野じゃなく木曽にしたのは、 
どうしてですか」
と聞く。
──
徹底的に具体的です。
塩野
そう。そうすると、
「木曽檜は、
岩の多いところで育っているから
目が細かいんだ。
なぜなら岩山には水が少ないから、
少しずつしか成長しない」
って返ってきて、
「少しずつしか成長しない木なんて、
意地悪な木じゃないですか」
って言うと、
「いやいや、それが、違うんだ。
刃物を入れた瞬間に、
パーンと気持ちよく割れてくれるのは、
岩山で育った檜なんだ」
とかって、話してくれるわけ。
──
木曽の檜を選んだという「事実」の中に、
作り手の思いだとか、
製品に対するコンセプトが含まれている、
ということですね。
塩野
そう。

今の話なんか、事実しか言ってないのに、
職人さんの木に対する思いが、
塊で出てきてるような気がするでしょう。
──
つまり、
「こういうテーブルがつくりたいんだ」
ということを、
直接聞いてないけど、結果、聞いてる。
塩野
うん。

「この道具は、
鍛冶屋につくってもらったんですか」
って聞いたら、
「何十万もする道具じゃないんだけど、
自分の身体に合うことが重要だから、
鍛冶屋に頼んで、
そういうふうに、つくってあるんだ」
とかね。
──
難しい質問は、要らない。
塩野
ただの事実の話を、
隅々までテーブル一個分やるうちに、
親方の話になったり、
鍛冶屋さんの話になったり、
使えなかった道具をいくつ捨てただ、
そんな話がひと塊になって、
テーブルひとつに、
どれだけ魂を込めてやってるのかが、
わかってくるんですよね。
──
まさしく
「事実を持って語らしめる」ですね。
塩野
だから、高校生にもよく言うんです。
質問は具体的に聞け、と。

<つづきます>

2017-07-17-MON