第3回 ことばと身体の逆転。
池谷 その、本来は行動が先で、
説明やことばが後づけされることって
ほかにもいくつもあって、
すごく簡単な例でいうと、
「忙しいから時間がない」っていうのも、
原因と結果が逆転しているんですよね。
よく考えると、
忙しいから時間がないんじゃなくて、
時間がない人のことを忙しいっていうんですよ。
糸井 ああ、そうか(笑)。
池谷 だから私は、ちょっと意地もあって(笑)、
「忙しい」って言わないようにしてるんです。
それは「時間内にやるべきことができてない」
ということですから。
糸井 ふふふふ、なるほど。
池谷 あと、私が学生たちと話すときに
よく例に出すことなんですけど、
「魅力的な人」って、なんだろう?
糸井 ほう。
池谷 魅力的な人とすれ違うと、
思わず目が行っちゃうじゃないですか。
‥‥これ、絶対おかしい。
糸井 うん。つまり、逆。
池谷 そうです。
目がよく行っちゃう人のことを、
魅力的って言うんであって。
糸井 いや、そうですよね。
池谷 そうとしか言えないんです。
つまり、私たちの身体行動が先にあって、
それにラベルをつけるんですよね。
そうすると人間っておもしろくて、
ラベルを見ると、それがひとり歩きする。
魅力的な人っていうラベルが先行しちゃう。
糸井 そこを厳密にさせるべきだというんじゃなくてね。
池谷 そう、ことばと身体の関係って曖昧で、
ぜんぶがロジックだけで整理しきれるもの
じゃないんだっていうことです。
糸井 そういうのでいうとね、
ぼくが以前、書いたこともあるのは、
「愛」っていうことばなんですよ。
池谷 「愛」ですか。
糸井 「愛」がないとダメなんじゃなくて、
それがないと成り立たないんだ
っていうもののことを、
「愛」っていうんですよ。
池谷 あああ、うん、うん。そうか。
「メタ愛」とでもいいたくなりますね。
糸井 うん。
だから、「そこのところは愛でしょ」って、
必要とされるときに、
「愛」ってことばを使えるんだけど、
そこに「愛」を入れないと、
全体が成り立たなくなるんですよ。
だから、「愛」は不滅なんです、ほんとに。
池谷 そうです、そうです(笑)。
滅びるってこと自体、定義に反するわけですね。
糸井 そうです。
「そこには、なにかがないと!」って場所に、
ぜんぶ「愛」を詰め込んでるんです。
だから、永遠に愛は不滅だっていうのは、
そういうことなんですよ。
池谷 おもしろい。そう考えていくと、
「愛」って、すきま産業のようにも
思えてきますね。
いつでも需要と消費があって、不滅。
糸井 おもしろいでしょう?
ぼくは、さんまさんと話してて、
このことがはっきりとわかったんです。
さんまさんが言ってたんですよ、
「愛はあやしい」と。
みんな、愛、愛って言って、
なんか、ぜんぶそれで片づけてしまうけど、
愛はあやしいでっていうのを、
さんまさんと話したことあるんです。
で、ぼくもそう思うと。
池谷 うん。
糸井 で、その後も考えてたら、結論は、
そうか、「愛」っていうことばは、
なにかをパッキングするとき
隙間が開いちゃう場所に
つめるものなんだって思い当たったんです。
こう、空いたところに、
ぎゅうぎゅう、「愛」を。
池谷 ははははは。緩衝材ですね。
糸井 もうひとつ、同じタイプで
さんまさんの名言があってね、
「男は、都合のええ女が好きなんや」
っていうの。
池谷 それもすごい(笑)。
糸井 これもすごい話でねぇ。
池谷 都合のいい女の人が
嫌いな男は絶対いないですね。
というか、これも先のラベル付けと同じで
そもそも、都合のいい女の人っていうのは、
自分の好きな女の人のことを指すわけで。
糸井 そうなんです。
自分が思ったようになってくれるんだから。
つまり、「オレを嫌いっていう女が好きだ」
っていうような人も含めて、
それをぜんぶ「都合」っていうんですから。
池谷 そうそう(笑)。
糸井 その都合のところに、
「愛」って言葉をはめても、
なんにもおかしくないからね。
池谷 はははは、たしかに。
「愛」というラベルの器を感じますね(笑)。
糸井 こんなに簡単な話を、
どうしていまの人類は
ごまかしてきたんだろう(笑)。
池谷 (笑)
糸井 わかんないことを説明するのに、
なにかが必要な場所に、
「神」を入れてきたのと、
おんなじ構造なんですよね。
だから、「神は愛なり」なんですよ。
池谷 ああー、なるほど。
糸井 そりゃぁ、見事ですよ。
 
(つづきます)
2010-09-29-WED