縦3メートル、横4メートルもの大画面を、
先端1ミリ以下のペン先で埋める。
それも「3年3ヶ月」という時間をかけて。
東日本大震災をモチーフにした、
「超絶技巧」による、巨大な細密画。
‥‥と書くと、すごみや威圧感ばかりを
感じてしまいそうですが、
その実、画面には明るさが満ちています。
一大建築物みたいな「誕生」を描いた
池田学さんに話をうかがいました。
現在は金沢21世紀美術館で、秋には東京で。
ぜひ遠くから、近くから、見てほしいです。
担当は「ほぼ日」奥野です。

Profile池田学さんについて。





重要なのは細かさじゃない。

──
お話をうかがっていて、
とても意外だったことがひとつあって、
それは、完成した作品を見ていると、
あらかじめ、
とてもきちんとした設計図があって、
それを、ものすごい精確さで
絵にしていってるのかなと思っていて。
池田
そういう感じじゃないです。
──
下書きもなく‥‥つまり、
楽譜どおりに弾いてるんじゃなくて、
そもそも楽譜なんかなくて、
描いてるプロセスは、
完全にインプロ、アドリブですよね。
池田
うん。

──
昔から、そうだったんですか。
池田
はい。
──
ちっちゃい絵にしても。
池田
いや、ちっちゃい絵の場合は、
逆にある程度、
はじめにきちんと決めておかないと、
うまくいかないです。
──
あ、そうなんですか。
池田
キャンバスがちっちゃいと、
アドリブやってる余裕がないんです。
それだけの「余白」がないから。
──
あー‥‥なるほど。
池田
ちっちゃいサイズの絵を、
「まあ、適当でもなんとかなるだろう」
とかって描きはじめると、
あっという間に、
画面半分くらい埋まっちゃうので。
──
その時点で、すでに手遅れに?(笑)
池田
そう(笑)、そうなっちゃうと、
もうどうにもね、いい絵にしようにも、
なかなか、リカバリーできない。
だから、ちっちゃい絵を描くときって、
何だか緊張するし、
どっちかというと筆運びも鈍いんです。

──
池田さんは「技術」については
どんな思いや考えを、持っていますか。
その部分にフォーカスされることも、
多いと思うんですけど。
池田
自分の技術についていえば、
やはり、もっとうまくなりたいですね。
それは、ぼくら絵描きだけじゃなく、
歌手でも作家でも、
表現者ならば、同じ思いだとますけど。
──
どこかで満足はできない。
池田
そうだと思います、一生。
少なくとも、
自分の考えや思いなどを表現するには、
最低限のテクニックがないと、
十分には、伝わらないじゃないですか。
──
なるほど。
池田
たくさんやりたいことが思いついても、
いくら発想が素晴らしくても、
技術が足りなければ、
やはり、限られてくると思うんですね。
逆に、どんどん技術を磨いていければ、
もっともっと、
いろんな挑戦ができると思うんですよ。

──
技術とは、
自分の可能性を広げてくれるもの、と。
では、「うまくなる」ためには‥‥。
池田
やっぱり、ある程度たくさん描くことが、
近道なのかなとは思います。
絵を描くということ自体、
自分の身体を使ってやることですから。
──
あの、池田さんは、
ご自分の若いころの絵をごらんになって、
どう思われますか?
いや、素人目からすると、
昔からほとんど完成されていたというか、
技術的な部分は、
あまり変わらない気も‥‥したので。
池田
いや、どうかなあ‥‥
表面的には、そうかもしれませんけど、
発想や内容の部分で、
やっぱり「若いなあ」とは思いますね。
──
池田さんの卒業制作(「巌ノ王」)を
拝見して‥‥。

巌ノ王

1998

紙にペン、インク

195×100cm

おぶせミュージアム・中島千波館蔵

©IKEDA Manabu

Courtesy Mizuma Art Gallery

池田
ええ。
──
池田さんは、美術系の雑誌で
「超絶技巧特集」みたいな特集があると、
かならず出てきますし、
その部分の「技術、腕前」というのは、
若いころから
完成してたんだなあと感じたんですけど、
それでも、もっと、うまくなりたい。
池田
なりたいです。
ただ、いろんなスポーツがあるみたいに、
絵にもいろんな種目というか、
種類や技術、テクニックがありますから、
楽しいなあって思うんです。
──
と、いうと?
池田
ぼくの絵は、
細いペン先で大画面を描くということで、
完成までに何年もかかりますけど、
時間をかけているから、
人よりえらいってわけじゃないですよね。
──
まあ、そうなんでしょうね。
池田
それこそ1、2分で描いた絵にだって、
びっくりするような、
勝てないよなって作品もあるだろうし、
細かいことって、自分のなかでは、
そんなに大事なことじゃ、ないんです。
──
え、そうなんですか。
細かくて大きいことが、
アイデンティティのような感じかなと、
思っていたのですが。
池田
そんなに大げさなものではなくて、
ただ、そういう技法を選んでいるだけ。
みなさん、その点を取り上げますけど、
そのことだけで、
他の人の作品より優れてるだなんて、
まったく思っていません。
──
そこに、何が描いてあるか。
池田
そう、やっぱりそれが重要。
あるいは、自分の思いを、
どれくらい入れることができたか、
ということのほうが、
どれだけ細かいか、
どれだけ細密かなんてことよりも、
よっぽど大事です。
──
では、今回の「誕生」は、
3年以上かけて完成したわけですけど、
あらためて、
どういう絵が描けたと思いますか?
池田
そうですね‥‥一言では難しいですが、
自分なりに、想像していたよりも、
ずっといい絵になったかなと思います。
画面のサイズをはじめ、
初めてのチャレンジだらけでしたけど。
花を描くことにも不安があったし、
完成しなかったらどうしよう‥‥とか。
──
ひとりで大きなお城を建てたみたいな。
作品を下から見上げると、
まさに建築的な大事業って気がします。
池田
ここまで、ひとつの絵だけに没頭して、
ひとつの絵だけに
向き合って過ごした3年間って、
はじめてだったんです。
ですから、やり切ったという達成感は、
とにかく強烈なものがありました。

<つづきます>

2017-06-17-SAT

誕生

2013-2016

紙にペン、インク、透明水彩

300×400cm

photography by Eric Tadsen for Chazen Museum of Art

©️IKEDA Manabu

Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo / Singapore

池田学さんの展覧会、

金沢21世紀美術館で開催してます。

画集『The Pen』も発売中。

3年3ヶ月もの時間をかけて、
縦3メートル、横4メートルの大画面を、
先端1ミリ以下のペンで埋めた大作
「誕生」をはじめ、
池田さんの画業20年の全貌がひろがる展覧会
『池田学展 The Pen ー凝縮の宇宙ー』が
金沢21世紀美術館で開催中です。

会期は7月9日(日)まで。
青幻舎から刊行されている同名の画集も、
たいへんすばらしいのですが、
機会があったらぜひ、
実際に見ていただきたいなと思いました。

下から見上げたときの壮大さ、
間近で凝視したときの緻密さ。

やっぱり実物の迫力は、すごかったです。

秋には東京にも巡回するみたいですよ。

(日本橋高島屋で9月27日~10月9日)

池田学さん展覧会情報!
(2017年8月2日 追記)

東京・市ヶ谷のミズマアートギャラリー
大作『誕生』を中心にした展覧会を開催中
(2017年9月9日まで)。

また、佐賀・金沢で開催した巡回展
『池田学展 The Pen -凝縮の宇宙-』も
東京・日本橋高島屋で開催されます
(2017年9月27日~10月9日)。

池田学展 The Pen ー凝縮の宇宙ー

会 場:
金沢21世紀美術館 展示室1~6
会 期:
2017年7月9日(日)まで ※終了しました
時 間:
10時~18時(金・土曜は20時まで)
電 話:
076-220-2800

※入場料金など詳しくは

展覧会の公式サイトでご確認ください。

池田学『The Pen』(青幻舎刊)

Amazonでのお求めは、こちら。