あのひとの本棚。
「ほぼ日」ではときどき糸井重里が「あの本が面白かった!」とか
「これ、読んどくといいよ」と、本のオススメをしていますが、
これを「ほぼ日」まわりの、本好きな人にも聞いてみようと思いました。
テーマはおまかせ。
ひとりのかたに、1日1冊、合計5冊の本を紹介していただきます。
ちょっと活字がほしいなあというとき、どうぞのぞいてみてください。
オススメしたがりの個性ゆたかな司書がいる
ミニ図書館みたいになったらいいなあと思います。
     
第7回 上田誠さんの本棚。
   
  テーマ 「集団作業のためになった5冊」  
ゲストの近況はこちら
 

ぼくは「ヨーロッパ企画」という劇団で
脚本を書いているんですが、毎回ひとつの作品のために
5万円分くらいの本を買うんですよ。
工学部出身なので、綿密に調べてプログラムを組むように
台本を書くのが好きなんですね。
脚本の資料ということだけではなく、
劇団というチームづくりに本が役立つこともありました。
広い意味で、集団作業のためになった5冊を紹介します。

   
 
           
           
 
 
 
 
『アクロバット前夜』 福永 信 リトルモア/1365円

最後の一冊は小説です。短編集ですね。
かなり実験的な装幀で、読んでびっくりしたんですよ。
ちょっと説明がむずかしいんですけど‥‥
横組みの文章が、1行ずつ、
ページを越えてつながってるんです。
つまり、各ページの最初の1行目だけを
最後のページまで読んだら、最初のページに戻って
今度は2行目だけを読んでいくという‥‥。
これがもう、まったく新しい読書体験でした。
なにしろ1行読んだらページを移るわけですから、
どんどんページをめくっていく快感というか、
スピード感がすごいんです。
小説の内容も、ふたりの人物が3つの地点を
ただ移動するさまを描いてるだけのものだったりして、
なんて言うんでしょ‥‥
言葉という道具の並べ方やイメージを遊んでいるような、
仕掛けっぽいというか、パズルっぽいというか‥‥。
こういう実験的な面白みって、
みくびられがちなんですよね。
奇をてらってる、とか言われたりして。
でも、ぼくの興味は、かなりそこにあるんですよ。
「ヨーロッパ企画」のお芝居でもそうなんですけど、
でっかいシステムがぼーんとあって、
そこに入れられた人間の様子をみんなで観察するような、
そういうのが好きなんです。
『アクロバット前夜』みたいに
システムで思いっきり遊んでる作品に触れると、
すごく励みになります。
どんどんページをめくる快感、ぜひ体感してみてください。

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『アンチ・ハウス』 森 博嗣 + 阿竹克人 中央公論新社/2940円

建築にはいつでも興味があるんです。
お芝居では毎回、舞台美術を設計しなきゃならないので。
家作りの本なんかはけっこう読んでるんですが、
そのなかでとくに集団作業のためになったのが、
この『アンチ・ハウス』という一冊ですね。
小説家であり工学博士でもある森博嗣さんが、
自分の趣味のためのガレージを作ったときの
建築日誌みたいな本なんです。
「ヨーロッパ企画」はいま、ぼくの実家の
製菓工場を事務所にして活動してるんですよ。
その工場をいずれは遊び心ある工房にしたいので、
そんな意味でも、この本はとても参考になりました。
施工主である森さんと建築家の阿竹克人さんというかたの、
メールのやりとりまで載っているんです。
建築していくうちに創造的な方向にいきすぎて
予算がオーバーしちゃうんですけど、
そこまでの段階にきているのに森さんが
「これだけお金をかけて、これをつくったのは
 自分にとって恥ずかしいことだ」
と建築中止を告げるメールを送ってたり‥‥
そういうのがぜんぶ克明に記されていて、
リアルな部分でもすごい勉強になりました。
そしてなにより、
小説家で工学博士という人が、趣味のことで
情熱を注いでるのを読むと安心するんですよ。
ぼくらも集団で遊び場を作ってるようなものなんで。
こういうことをやっててもいいんだ、みたいな(笑)。

   
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『任意の点P』 佐藤雅彦 美術出版社/2625円

佐藤雅彦さんの本です。
これがおもしろいんですよ。
2枚のイラストが描かれたページが続いてるんですけど、
この本には折り畳みのレンズがついていて、
それでのぞきこむと2枚のイラストが1枚になって、
ポンっと立体に見えるという。
浮かび上がった立体の、この質感がぼくはすごい好きで、
お芝居のアイデアを考えるときに
よくこの本をながめたりしているんです。
「なんかこんな感じの舞台ができへんかなあ」って。
舞台作りも、立体的な場の創造ですからね。
とくにぼくの場合は、ストーリーとかドラマ性よりも、
登場人物の配置とか動きのおもしろさから
脚本を考えていったりするので、
この佐藤雅彦さんの本は、いいヒントになるんです。
芝居作りの最初の、アイデアを出す段階で、
何度か役立たせてもらった一冊と言えますね。

それと、これ、
すごくプレゼントに向いてる本でもあるんです。
ぼくはもう、たしか4、5人に贈りました。
本を人に勧めるのってなかなかむずかしいけど、
これなら誰でもたのしんでくれると思うんですよ。
プレゼントされてすぐに、たのしさを理解できるでしょ?
ぱっと見てすぐにおもしろさがわかるっていうのは、
これ、すごい説得力ですよ。
「接待用にぜひ!」という感じです。

   
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『ピープルウエア 第2版』 トム・デマルコ + ティモシー・リスター 日経BP社/2310円

これもやっぱり脚本の資料で買った本ですね。
『囲むフォーメイション』という、
オフィスを舞台にした脚本を書くときに
ビジネス関係の本をたくさん読んで、
いちばんおもしろかったのがこれだったんです。
「リーダーの役割は人を働かせることにあるのではなくて、 働きたいという状況を作ることだ」
みたいなことが書かれていて、
それはほんとうにそうだよなあ、と共感しました。
これもまた集団作業のためになる、と。
たとえばスペースの問題なんですけど、
アイデアを出したり創造的なミーティングは
広くて開放的な空間でやるほうがよくって、
でも最終的な編集作業とか仕上げの仕事をするときは、
逆に狭い場所で壁に向かってするほうがいいとか。
そういうのが、この本には書かれて‥‥
ん? あれ? ちがったっかな?
スペースのことが書かれていたのは別の本だったかも‥‥。
同じ時期に同系統の本をいっぱい読むんで、
わかんなくなっちゃうんですよね(笑)。
でも、いずれにしても、この『ピープルウエア』が
いちばんおもしろくてインパクトもあって、
理想的な仕事環境を自分なりに理解するきっかけになった、
というのはまちがいないんです。
ぜひ読んでみてください、ぼくも読み直してみます。

   
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『カイゼンで5Sの徹底』 日本HR協会 産能大学出版部/2100円

『インテル入ってない』という、
工場を舞台にした芝居をやったときの資料です。
要は、工場での効率化の工夫が書かれた本なんですよ。
こういう順番に並ぶとムダが減るとか、
ここにホースをつけるといいですよ、みたいな。
ま、なんちゅうことのない本なんですけど(笑)、
こういうのを、ぼくはおもしろいと感じてしまうんですね。
まず本屋さんに行って、工場関係の本の多さに驚きました。
工場の本がこんなにあるのか?!って。
本の表紙に、漢字で「改善」ではなくて、
カタカナで「カイゼン」と書いてあるでしょ。
これ、世界共通語になってるらしいんですよ。
「Kaizen」という言葉が世界の製造業の現場で
通用するっていうのは、すごいですよね。
で、「5S」っていうのは何かというと、
整理、整頓、躾、清潔、清掃っていう5つのSなんです。
この「5S」っていう言葉も
工場に勤めてる人の大半が知ってるらしいんですよ。
実際、本屋さんの「工場の本コーナー」には
「5S」と書かれた表紙がズラッと並んでました。
この本を読んだら、
もう居ても立っても居られなくなってですね、
自分の劇団の事務所を、「5S」したんですよ。
そしたら、ほんとにもう、がぜん効率がよくなったんです。
脚本の資料が劇団事務所を「カイゼン」したという、
ほんとに集団作業のためになった一冊ですね。

 
 
上田誠さんの近況

上田誠さんが、主宰・脚本・演出をつとめる
人気急上昇中の劇団、
「ヨーロッパ企画」が1年ぶりの新作をひっさげて、
京都公演を皮切りに全国4都市ツアーを行います!

ヨーロッパ企画第25回公演『火星の倉庫』

「ほぼ日」乗組員の数名も、
ヨーロッパ企画の前回公演を観にいってまいりました。
『衛星都市へのサウダージ』という作品だったのですが、
これが、なんだかとてもたのしかったのです。

2007年春バック・トゥ・2000シリーズ
『衛星都市へのサウダージ』はこんな舞台でした。

え? どういうふうにたのしかったか?
うーーーん、それを説明するのがむつかしい!
役者さんたちのキャラクターは
いちいちみんな個性的に光っていて、
飽きさせない展開で客席を引っ張っていくのですけれど、
この劇団ならではのポイントはそこではなくて、
なんというか、全体のムードみたいなもので、
悔しいけどなぜかクスクス笑わされてしまうというか、
へんな笑いのツボをふいにおされてしまうというか‥‥。
上田さんも、ご自身の劇団のことを
こんなふうにおっしゃっていました。

「人に伝えづらいことをやってると思います。
 ストーリーだけを説明しても、
 面白さはそんなに伝わらないんですよね。
 舞台上のシステムを実際にみて、
 肌で感じ取ってもらうようなお芝居なので。
 今度の新作もたぶんそんな感じになると思いますよ」

期待の新作『火星の倉庫』、
チケットの一般発売開始は10月6日(土)から。
上演スケジュールは下記の通りになります。
ぜひ、ヨーロッパ企画を「体感」してみてください!

京都公演 会場:京都府立文化芸術会館
日程:11月23日(金)〜25日(日)

福岡公演 会場:イムズホール
日程:11月30日(金)〜12月1日(土)

東京公演 会場:シアターサンモール
日程:12月4日(火)〜9日(日)

大阪公演 会場:ワッハホール
日程:12月20日(木)〜23日(日)

公演についてのくわしくは、こちら、
「ヨーロッパ企画」の公式ホームページでどうぞ!
企画集団としての「ヨーロッパ企画」の
いろんなコンテンツも楽しめますよー。

 
 
   
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2007-10-05-FRI
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